- 終わりなき旅?〜いい肉求めて、どこまでも〜
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それは、ある晴れた日の事だった。
「佐助〜、腹が減ったでござるよ…」
いつも元気に駆け回っている幸村が、突然へたり込んだ。
佐助は「珍しい事もあるもんだ」と首を傾げていたが
幸村は拳を握り締めながら、噛み締める様につぶやいた。
「お館さまとの誓いで、このところ精進料理ばかり食べている。
修行故に、文句は言うまい。だが、そろそろ燃料切れだ…」
聞くところによると、佐助が留守をしている間に、武田道場では
相変わらず厳しい(と言うより暑苦しい)訓練が繰り広げられていた。
今回は何故か食生活にも焦点が当てられ、日頃酒や肉を飲み食いしている
武田の者達にとって、精進料理のみの生活は最早苦行に等しい。
「で、どんぐらい食ってないの?」
佐助がそれとなく聞くと、幸村は腕組みをしながら思い出していた。
思い出さなければならないほど、口にしていないという事だろうか。
「佐助頼む、ひとくちでいい!この通りだっ!」
幸村恒例の「困った時の佐助頼み」が始まった。
佐助はしょうがないなぁという顔をしつつ、小声で言った。
「別にいいけど…お館さまにバレても、知らないよ?」
「さすがは佐助だ。恩に着る!」
ところが今年の甲斐国は、あまり天候に恵まれなかった事もあって
作物はおろか食糧になる獲物すら、満足に罠にかからない。
「こりゃ、よその国で拝借するしかないねぇ」
佐助は溜息をつくと、旅支度を始めた。
翌朝。
佐助はこっそり甲斐国を抜け出すと、南を目指した。
温かい地方なら、きっと獲物になりそうな獣が居そうだ。
まずは、飯がうまいと評判の前田軍の元へ向かった。
「甲斐の忍殿が、何の用でござりますか?」
こっそり侵入しようとしたところを、まつに見咎められた。
今日のまつは、あまり機嫌がよくない様だ。
「いやぁ〜ちょうどいいとこで会った!ちょっと聞きたいんだけど
この辺で狩りの穴場、教えてくんないかな〜なんてね。へへっ!」
まつは片方の眉毛を上げると、佐助に言い放った。
「それなら、ご自分の領地でなさればよろしいかと。
前田の大事な食糧を、あなた様に差し上げる訳には参りませぬ!」
二人が話し合っていると、どこからともなく利家がやって来た。
「どうした、忍?腹でも減って動けないか?」
「こちらの忍殿が、前田の領で狩りがしたいと申しておりまする」
「いい加減、名前覚えてくれよ」と突っ込みたい気持ちを抑えつつ
佐助は辛抱強く交渉にあたった。
「ちょっとでいいんだ。あんたらには迷惑かけないからさ」
利家とまつは顔を見合わせて相談していたが、利家が言った。
「まつとそれがしに勝ったら、好きなだけ狩りをしてもいいぞ」
「犬千代さま!」
佐助は「冗談じゃない!」と思った。
この二人をいっぺんに相手するのは、出来れば避けたい。
もしこれにあの風来坊が加わったら、事態はますますややこしくなる。
佐助がそんな事を考えていると、背後から聞き覚えのある声がした。
「よう!利、まつ姉ちゃん…と真田の忍」
振り返ると、噂の風来坊・慶次が肩で風を切ってやって来た。
「だから、俺様は佐助だっての!」と喉まで出かかっていたが
それも面倒くさくなって、敢えて何も突っ込まない事にした。
慶次はまつから事情を聞くと、豪快に笑った。
「いいじゃん、ちょっとぐらい。ケチケチすんなって!」
「こら慶次!あなたは黙ってなさい」
まつが慶次をたしなめていると、利家が佐助に尋ねた。
「どうすんだ、やるのか?やらないのか?」
やるもやらないも、三対一では分が悪い。
何とかうまく口実を作って、ここから去らねば…
佐助は天を仰ぐと、わざとらしく芝居を打った。
「あ、そろそろ行かないと、お館さまに怒られるわ。んじゃな〜」
そう言うなり、闇烏にぶら下がってその場から飛び去った。
前田家の三人は、佐助が見えなくなるまで空を見上げていた。
「あいつ、ほんとは何しに来たんだろ?」
「狩りというのは口実で、実際には偵察に来たのでは?」
ひとまず領地を荒らされずに済んだので、三人は昼食を取る事にした。
佐助はある程度の距離を移動すると、地上に舞い降りた。
「いやぁ〜参ったねぇ。前田の面々が勢揃いとは」
降りた地点は、豊臣軍の天才軍師・竹中半兵衛が居る稲葉山城だった。
佐助は用心深く移動していたが、途中で半兵衛に見つかってしまった。
「甲斐の忍殿が、僕に何の用かな?」
「そんなおっかない顔、しなさんなって!それよか、天才軍師さん
この辺で、いい感じの狩場って無いかな?」
半兵衛はあごに手を当てながら、鋭く佐助を凝視していたが
暇でよほど退屈だったのか、こんな事を言い出した。
「あれに勝ったら、教えてあげてもいいよ」
佐助は半兵衛の指差す方向へ目をやると、新しい大砲が設置されている。
「あれは新兵器・八雲だ。君の身をもって、試してみるかい?」
「じょ、冗談?!」
佐助はカラクリや砲台など、火薬を使った兵器が大嫌いだ。
こんなところで、無駄に体力を消耗する事だけは避けたい。
「どうしたんだい?顔色がよくないみたいだけど」
半兵衛が催促すると、佐助は引きつった笑顔でごまかした。
「あ、大事な用事、思い出したわ。とっとと退散!」
佐助は早足で立ち去ると、半兵衛は小首を傾げた。
「…一応、秀吉に報告しておこうかな」
「甲斐の忍は、雑用もするんだな」と半兵衛は思った。
稲葉山城から抜け出した佐助が次に向かったのは、近江だったが
浅井長政に「悪!」と言われるのが嫌なので、行かない事にした。
次に安土城の近くまでやって来たが、どうも気が進まない。
「ここも…止めとくか」
本願寺には財宝はあるが、今欲しいのは小判ではなく肉だ。
安芸の毛利元就は、どう考えても無理だ(むしろ、行きたくない)
佐助は船に乗って、土佐の長曾我部元親のところへ行く事にした。
「海賊の兄さんだったら、気前よく分けてくれるかもな」
土佐へ着くと、佐助は元親の居る本陣まで駆け抜けた。
至るところに、兵器という兵器が無造作に置かれている。
佐助の予想通り、元親は気前よく佐助を迎え入れた。
「忍の兄ちゃん、何が欲しいんだい?」
「実は、真田のダンナにいい肉食わせてやりたくてね…」
元親は兵器が欲しいのかとばかり思っていたので、拍子抜けした。
「協力してやりたいのはやまやまなんだけどよ、ここは海だぜ?
魚ならいくらでも釣ってもいいけど、肉はどこにも無ぇよ」
元親の気持ちは嬉しかったが、今欲しいのは肉だ。
「どっかに、いい狩場は無いかな?」
元親は腕組みをしながら考え込んでいたが、ひらめいた様だ。
「なら、ザビーんとこ行ったらどうだ?ちょっと胡散臭いけど」
確かに胡散臭いが、行ってみないと分からない。
佐助は丁重に礼を述べると、そのまま肥前へ赴いた。
「アナタ、甲斐ノ忍ネ?カッケー!」
ザビーは珍しいものでも見るかのごとく、佐助をじろじろと見た。
佐助はザビーの熱視線を避けつつ、早速交渉に入った。
「あんたなら、いい肉の一つや二つ、持ってんじゃないの?」
ザビーは異国の人間だから、いい調理法も知ってそうな気がする。
ザビーは佐助の懸命さにつけ込んで、こんな事を言い出した。
「ザビー教ニ入信スルナラ、教エテアゲテモイイデスヨ?」
「はぁ?」
それはいくら何でもまずい。第一、あんな頭にしたくない。
だが、ここでくじけてしまっては、もう手に入らないかもしれない。
佐助は遠回しに承諾する事にした。
「実は俺様も、真剣に愛に向き合いたいと思ってんだけど…
まずはお館さまに許可取ってからからじゃないと…ね」
ザビーはサンデー毛利やチェスト島津に続く人材が欲しかったので
佐助の考えを尊重する事にした。
「アナタノ洗礼名ハ、フライングモンキー佐助ネ!」
「(ださっ!)へぇ、いかした名前だね…」
ザビーは契約書と共に、見慣れない肉の塊を運んできた。
「私ノ知リ合イニ、カアネルッテ友達居マス。ケンタッキー州ニ住ンデルネ。
コレヲ、アナタニアゲマース。コレ送ッテオクカラ、署名シテ返信シテネ!」
佐助は甲斐で待ちわびている幸村に、文を送った。
まさかこんな簡単に肉が手に入るとは、夢にも思わなかった。
「ダンナ、もうちょっとだからな!」
文は秘密裏に、幸村の手元に届けられた。
幸村は全文読み終えないうちに、勝鬨を上げるかの様に絶叫した。
「ぬおおおおっ!肉、肉、肉でござるよー!!」
急いで荷物をまとめると、武者修行と称して馬を走らせた。
数日後。
幸村は佐助に教えてもらった通りの地図を頼りに、肥前へ到着した。
今、幸村の脳裏には、肉を両手に持って食べている自分の姿しか無い。
いい肉への熱き思いが、遂に実を結ぶ。
「佐助ぇーーーっ!!」
「ダンナ、こっちこっち!」
佐助はザビーからもらった肉の塊を幸村に見せた。
「おおっ!見た目は奇妙だが、正真正銘の肉でござるな」
佐助は「ケンタッキーという異国からやって来た肉」と説明したが
幸村にとっては、そんな細かい事はどうでもよかった。
幸村が手に取って食べようとすると、佐助が慌てて止めに入った。
いぶかしがる幸村をなだめる様に、佐助は言った。
「ダンナ、あいにくこの肉は、このままじゃ食えないんだよ。
油でじっくり揚げなきゃならないんだ」
佐助はザビーに教えてもらった手順で作ろうとしたが
待ちきれなくなった幸村が、佐助を押しのけて叫んだ。
「ええい、面倒だ!我が焔で焼き尽くす!」
幸村は二槍を振り回すと、その勢いで火の粉が舞った。
「ちょっ、ダンナ!危ないって!」
佐助は肉の入ったざるを抱えて、宙に舞い上がった。
「何故、邪魔をする?」
「料理出来無いっしょ?出来るまで、向こうで待ってなよ」
武田軍では佐助が料理担当なので、幸村といえども厨房には入れない。
幸村は観念したのか、おとなしく別の部屋で待つ事にした。
数分後。
厨房から、何とも言えない香ばしい匂いが漂ってきた。
待ちきれない幸村は時折のぞきに来たが、佐助に追い返された。
「ダンナ、出来たよ〜」
佐助がこんがり揚がった肉の塊を器に盛ってやって来た。
幸村が手に取ろうとすると、佐助が片手ではたいた。
「ダンナ、ちゃんと手洗ったの?」
「さっき、洗ったでござるよ(服で拭いただけだが…)」
二人はようやく、肉にありつけた。
幸村は思う存分平らげると、ようやく笑顔になった。
「佐助、けんた殿とは、いかなる人物か?」
「違うって。カアネルさんって人が作ったらしいよ」
佐助が苦笑すると、幸村は席を立ち上がって叫んだ。
「カアネル殿…まっこと素晴らしき御仁なり!
お館さまにも是非、召し上がって頂きたいものよ」
幸村が熱くなっている側で、佐助が呆れ顔で言った。
「お館さまに教えたら、怒られちゃうでしょうが!」
「むむむ…ならば、ご上洛の時にでも」
幸村と佐助が甲斐国へ戻ると、信玄が門の前で構えていた。
「二人して、どこへ出かけておった?」
二人は顔を見合わせると、佐助が適当に答えた。
「俺様はちょっとそこまで…真田のダンナは、えーっと…」
「せ、拙者は政宗殿の元で稽古を…」
信玄はそんな嘘など分かりきっていたが、敢えて何も問わず
「お前達の帰りを待っておったぞ。さぁ早く来い。
つい先程、肉料理を解禁したんじゃ。遠慮無く食うといい」
と笑って、ついて来る様に言った。
佐助と幸村は互いに顔を合わせると、力なくへたり込んだ。
「俺様、何しに遠くまで行ったんだよ……」
「すまぬ、佐助。だが、カアネル殿の事は決して忘れはせぬ!」
少し先では、武田の者達が焼きたての肉を片手に談笑していた。
後日、佐助の元にザビー教の契約書が届いたのは言うまでもない。
<終>
平成20年11月29日に寄せて。
フォーマットだけ うちのにあわせさせていただいちゃいました。もらいもの!!BSRジャンルお友達がいないのでありがたい、ありがたい。しまいこんでてすみませんw (独り占めすんなっていうね)
こういうノリ大好きです。ありがとう!