【SIDE 慶次の独り言 その2】
「なんなんだろーね、あの女」
穏やかな声で佐助がいうものだから、思わず笑みがこぼれそうになる。
あわてて渋い顔をみせても無駄ってもんだ。
この表情をみりゃ、幸村も大方落ち着くだろうなって予感があったし、
「恋かい?」
からかうように言えば、
「ちげーよ」
珍しい答えが返ってきた。
「珍しいね」とそのまま言ってやると、きょとんとされて、これがまたなかなか見られないもんだから笑った。
だってよ、それだけ平和ってことなんだろ。
「否定するなんてさ。ごまかすと思ってたよ」
それいっちゃ、こっちもこっちで普段知らないふり決め込んでるからどうかとおもうけど。なに、核心に触れることを口にはしてない。
佐助は聡いし、幸村は……ありゃ、いっぱいいっぱいで俺の言葉なんて覚えてないから大丈夫。
なーんて呑気に考えてると、佐助も気づいたらしい。
悪戯っぽくのぞきこんできた。
「なんか失礼なこと考えただろ?」
「んーどうだろうな」
こんなやりとりもいつもと逆って気がする。
「で?恋なんだ?」
一歩教えてみりゃ
「――……わっかんね」
――ありゃ?
これはまじかねぇ。
すごく素直に、こうまでストレートにこたえられちゃうとそれはそれで調子が狂うってもんよ。
ぽかーんと口をあいてたのに、あっちはあっちで、こちらの反応はどうでもいいらしくて……
「近づかない方がいいかも。やけどしそう」
微苦笑。
その横顔がまたも、女の子ならどきどきもん(佐助って、ナンパ成功率高いし、逆ナンもされるし……てか特定の彼女つくらないわりに、もてる)だったから、あーちゃーという気分にさせられた。
「やっぱ恋だろ」
「かも……」
言いきった佐助はすがすがしかった。
幸村に言いつめられたときの困惑しきった表情とは大違いだ。
すぐ続くのが
「けど、それよか俺は旦那が不機嫌な方が面倒」
ってのは、男としてどうかと思うけどねぇ。
「相変わらず保護者だな」といってやれば、「まー、そうかなー」とそれすら肯定されるから、はりあいもない。
――今は今でそれを楽しんでるみたいだからいっか。
「それより、慶次」
「なに?」
「やっぱ覚えてんだ」
「――さて」
ひっかけるつもりじゃなくて、ただ自分の言葉を誤魔化したかったんだろうなって分かるから、適当にはぐらかしておこうか。
「ま、いいや」
案の定佐助はさっと引き揚げてくれる。
それから、ぽつりと。
「てか、あの人が切れる意味がねぇよな」
なーんて、言うんだ。
――いやーさーそれ、そこ、なんで気付かないんだか……
幸村は彼女を忘れてる佐助見て、自分がわすられるのもいやだっておもったんだろ。
――って言うと可愛いけど……。「大事なこと忘れてるから不安なんだろ」なんて、適当に誤魔化すけど……
多分もっと根が深い(っていうか、あくまで幸村は幸村のままっつーか)
幸村は欲張りだ。
今の佐助はもちろん今の佐助で大事だけれど、過去の佐助ごと特別なんだろう。
なまじ二人して覚えてるもんだから、区別も減ったくれもないのだと思う。
だから、たぶん――差違を意識して、もてあましている。
今でも主人のつもりだから、どこかで責任を取りたがっている。
今は違うといえば、かつての自分が否定されるし、かつての自分のままでいることはまた違うと思っている。
考えていないようで、幸村は幸村で考えすぎている。
それは佐助もたぶん同じこと。
――これだから赤の二人は……。
考えようによっちゃ、不自然だなーで一緒にいれば?って突っ込み入れられる蒼の方がよっぽど分かりやすい?
「まあ、そのうち分かるんじゃないかな。記憶なんて関係ないって」
もうごたごたには巻き込まないでくれよ、とにじませながら、屋上の出口、非常階段へ向かう。
ふと下を覗けば、
「佐助はおらんかー?」
すっかり迷いも晴れたらしい真田幸村が、手を振ってきた。
「はいはい、いまーす。ここにいますよっと」
ついさっきまでダラダラしていた癖に、横からなかなかの速度で置きあがって答える忍び。
「……ほら、ぜんぜんかわってないって」
ま、ちょっと猿飛佐助の恋については前世でも現世でも聞いてみたいところか。
そういや結局一度もちゃんと聞けてないんだから。
ひとまず
これにて、一件落着っと。
おしまいっと。シリアスにもギャグにもなりきれなくてすみません。転生だからねってテイストで。補足的なとことか、謙信さまってどうなのよとか、は後でどっかで補完。