「成実、それ以上言うな」
「でも、梵――俺は」
「てめぇが反対だろうが何だろうが伊達政宗が決めた。You see?真田は此処に居着かせる。その間は捕虜じゃねぇ」
成実の心配は、そっちのことだろう。
捕虜としての扱いとはつまり、好きに出来る権利を政宗が持つということだ。
それを危惧している。
幸村が、自分にとってどうであるのか、薄薄ながらこの血縁はきづいているのだ。
切り離せない。
だがそばに置くものとは明らかに異質な何か――
「てめぇは俺が真田に似てる、っつったな」
「訂正する――」
成実は言うのだ。
そう、きっと
「「似てたら困る(だろ?)」」
声は、案の定ぴたりと重なった。
「クっ」
こぼれたのは己の笑い声で、成実を戸惑わせる。
「大丈夫だ」
しっかりと。告げた。
「俺は、あいつと違う。――奥州の竜、だ」
何も失わず、失えない王。
その意味は成実にも通じたのだろう。
「――ならばいい」
でも、と、険呑に光る瞳で、この血縁は真田のいた座敷をみやった。
「俺ごときがすぎた口を……。政宗様、――どうぞこのことをお叱りなれば、わが意をくんで蟄居を命じてください」
「成実――」
「腹を切るには己の手が、竜の手先に通じるだけにまだ惜しい。だが、この竜の手先に、あの焔は毒」
ただのわがままではなく、臣下としての責をしめしたいだけではなく、
おそらくこれは――
――俺への牽制かよ。
真田幸村を己の武器として下に置いた自分が、事実制御をどこまで万全に出来るか。その危うさは小十郎よりも、成実こそが承知している。
それはとことん政宗の本質――成実に驚くべきところで似ている本質――の表れなのだろう。
知れば反対するであろう小十郎の、鬼庭の、意見を聞くより先に、その真意を受け入れる。
「分かった」
――お前は俺の鎖となれ。
成実は元来直観の男だ。どこまで計算だかは知れない。
それでも、今は通じた、と思える。
「俺は真田幸村を下に置く」
実は、さんざん受け入れたと説明した政宗の、これが初めての宣言であった。
幸村はこれより、真の意味で伊達政宗に従うことを許諾され、同時に、敵であることを一切よしとされなくなったのだ。
この意味が、当人に伝わるのだろうか。
実は成実は、ひそかに危惧をしていた。
ただただ耐えるように、ぎりと歯をかみしめ状況を受け入れた政宗にくらべて、成実には、幸村が身体への恥辱に耐えながらも心では耐えることを一切受け入れていないようにみえていたのだった。
そんな成実の思惑に気づいてか気づかずか(おそらく気付かずだろう)政宗は、幸村のいる座敷から背を向けるように室に戻っていく。
かの赤い主の影がそれを見つめていたならば 危うい、と、こぼしただろう。
だがそんな彼は、今徳川のもと、西の情勢を見に送られている。
冬が近づく。
いっそう荒んだ風に、不穏な動きも多い。
――黒はばきからは、最上の不審の表面化が伝えられた……。
成実なしであることは、正直痛い。
「だが――」
いいかけて、黙る政宗は、自分の言動の意味を知っているのだろうか。
真田幸村を下に真におけるのか――
この先もそれは幾度となく問い直されるにちがいなかった。
それでも、真田幸村は、正式に翌日最上攻めに加えられ、その先陣を任されることとあいまった。
すべきか、せざるべきか……幸村を連れていくか否か――話し合いの場で政宗にくらいついた成実の姿は、当人の言葉どおり、無かった。
信玄なき後、家康に奥州に左遷される幸村の続き。
タイトルは仮で。異説婆沙羅史の一部。さんざん放置しつつ話し合われてた最上攻めがほぼ決定。幸村をどうするかという話。そのうち歴史軸とともにまとめるよ、このあたり……