天守閣のコンサートは城コンと呼ばれます。
【SIDE: 佐助】

「凄いねぇ」

ボックスから見渡す光景に佐助はぽかんと口をあけた。
チケットをと渡されたはいいがいきなりのVIP席。
普通でいいよと一度は断ったものの押しきられ、ここにいる。

 ――あん時、もらっておいて本当良かった。

ステージのあるアリーナを眺め、自分の言葉に頷く。
ライブなら何度か行ったこともある。
でも、規模が違う。
円形の会場を埋めるヒトヒトヒト……都会ってこんなに人がいたんだと感心した。
下でもみくちゃになるのは勘弁願いたい。
ちなみに、さきほど訪ねた楽屋ではリハーサルを終えた幸村が当然のように「いつもよりはおとなしめだが楽しんでいってほしい」といっていたけれど……

 ――このどこが?

「……バイトで入ったイベント設営でも、こんな派手なのなかったって……」

ライトや音響の類は最新のもの。
どう見積もってもン百万は下らない。(舞台を踏むものだからこそ分かる。こっそりのぞくポンプをみるに水の仕掛けもありそうだとか……アリエナイ”!!!)

佐助は脱力に、肩をすくめた。

「どんだけなんだよ、ガモーズ」

アイドル、を見誤っていた佐助である。

*      *      *      *


※ 公 演 開 始  ※ 



暗い中、ライトが一気に幸村に当たる。
他の二人はまだいない。
スタートを飾る一声、咆哮ともよべるそれを幸村はあげた。

「相変わらず」
「相変わらずうっせえ」


ん?
あれれ?俺様口にだしてないよね、疑問に思った佐助が横を向くと――

「――――――でかっ」

180センチは越えてるだろう長身の男が一人。
更に言えば見覚えがある。
まあこの招待席にいる段階で、誰かの家族でないかぎり、業界関係者なのだから「見覚え」くらいはあるだろう。
会ってなくてもテレビやイベントで見かけていることは十分ある。

――てかさ……

「えーと?????」

「おう。はじめまして、だよな。よくBスタですれ違ってるが」

「うん。って、ああ???あーそっか。収録Bで水曜によく見かけてたひと!」

「ああ、10時にな。そっちはドラマの撮影をしてただり、先月」

「そうそう。ええとはじめまして?」

「そう畏まんなよ、ここにいるってことはそっちも誰かの知り合いなんだろ?」

 元親でいいぜ?とにかっと歯を見せた男。
 そこにきて、ようやく佐助は一致した。
 彼か、これが、幸村のご執心中のアイドルグループ【正義心】、長曾我部元親。
 ――なんだ、俺様あってんじゃん。

「ん???」

 それより不思議に思うのは、メンバーの知り合いであれば幸村もあっていてもよさそうなものだということだ。

 ――あそこまではまってんのは、他の人たちも知ってるだろうし、あわせてやりそうなもんだけど……

 と、思いかけたところで、彼が誰の知り合いか納得してしまった。

「えーと、もしかして、【ナリ様】の?」

「あー……」
 
 がしがしと頭をかいてる段階で暴露しているようなもの。
 でも知られるとまずいことでもあるのだろう。
 そこはそこ、芸能人の事情。
 佐助も素直に引き下がることにした。

「いいよいいよ、俺別に言わないし」

「悪ぃな。あいつに口止めされてんだよ。面倒なことになるからって」

「なんとなくその面倒が分かるわ」

 たぶん幸村。
 言わずと分かる。

「それはそうとして、いつもくんの?」

「いつもじゃねーがオフに数度な」

「ふうん。にしてもすごいねぇ、毎度こんなキラキラしてんのかと思うと。アイドルって大変だよなぁ。イメージ崩さないように大変だろうし」

「そうでもねーぞ。みてりゃ分かるが」

 苦笑して、元親が顎で指す方向を見ると、既に若干キャラが崩れているナリ様。
 はりせん代わりに、剣(二曲目のダンスで使った)で幸村をはったおしている。

「エスキャラだからセーフ、か?」

「でもないだろ?あいつ自身はまだまだキャラばれしてないって思ってるようだが、真田が暴れすぎて夢中になると進行が遅れるといって、な。たまーに、突っ込み過多になってる」

「へえ。ファンに泣かれそうだよね、なんかナリ様ファンって【様】つけるだけのことはある気がする」

「まあな。前よりはましになったが、ストーカー事件とかあったし。追っかけも絶えねぇ。あいつ、結構庶民なんだけどよ」

「あー、ナリ様を王子だと思い込んでる節があるよねー。ファンの子。ほら……」

≪使えぬコマは放って、今夜を楽しもうぞ≫

スクリーンには堂々と宣言する毛利の嘲笑。

「こういうことしちゃうのが問題なんだと思うなー俺様」

「俺も思う。けど、あいつそういう意味では天然だから」

「あー」

 それじゃ仕方ないね。
 言いかけて、思わずとまったのは、そのナリ様に反応するファンの悲鳴と……

「――何今の…。ねえ、ちかちゃん。俺、合間にすっごいこと聞いた気がするんだけど」

「俺もだ」

 叫びが止まったその一瞬にまさかのまさか、素敵だ、なりさまだのコールの合間に、「殺して〜」 と。
  とんでもないことを叫ぶファンの声が聞こえたのだ。
 静まってる一瞬のことだけあって、本人にも聞こえたのだろう。
 さしものナリ様がスクリーンで一瞬凍っていた。
 あれは怖いだろう。
 もっとも、フォローがわりに、慶次が出張って、「この人、女殺しだからね」なんて場を和ませてる。
 その横でさっぱり事情が分かっていない幸村がきょろきょろしているのが印象的だった。というか、見ているとかえって安心するという恐ろしさ。

「それより、猿飛。おまえ、ちかちゃんって――」

「ダメ?何となくね。旦那が元親殿〜ってうっさくてさ、俺だけ知り合ったなんてばれたらまずいし、ならいっそあだ名になれちゃえって思って」

「別にいいけどよ、その旦那って誰だよ?」

 お前既婚者か?などと少しずれてるあたり、やっぱり≪ヘケサゴン出身者≫だけある。妙な関心をしながら、佐助はズバリ答えた。

「真田幸村」

「――ああ。よく聞かされる。苦労させられてるって言う話はあながち嘘じゃねーんだな」

「かもね。でも、まあ、ナリ様より扱いは楽よ?」

「違ぇねぇ」

 こちらを見ていた目は、いつの間にか始まったソロコーナーに向けられる。噂のナリ様に、下では熱い視線が送られていることだろう。
 無難だが、誰より綺麗にバラードを歌い上げて、スタートのテンションを別の方向に持っていく毛利は流石にリーダーだと思う。
 そして、慶次。

「やばっ、風来坊格好いいわ」

 ≪カブいてるかー!≫

 叫ばれる言葉はたまに意味不明だが、ファンの乗せ方はナンバーワン。楽しませて、ライブを熱くするタイプかと思いきや、一気にアダルトな歌詞で魅了する。
 お茶の間の、たまに空気を読まないキャラはわざとだと、さとい人間は気付くだろう。といいつつ、やっぱりMCで客から心底馬鹿にされてもいる一幕もあったのだが……。

「本当、見せ方わかってるよねーこの人」

 そういう意味では一番役者に向くのは、実は慶次ではないかと思う。
 もし指導しろといわれたら、この人ほどそれがいらない人もいない。才能がありすぎてポジションどりがかえって、難しいのかもしれない。

「まあ、他の二人よりは男にもてる男って方向かも」

「だろうよ。コイツ、他のアーティストとかとも繋がり大きいらしいな。うちの幼馴染がぼやいてやがった。計算が我よりもうまいとか」

 ――へえちかちゃんはナリ様の≪幼馴染≫なのか。

「うーん。風来坊は特に計算してないと思うけど」

「だろ?そういったんだが、あいつ、聞く耳もちゃしねぇよ。ま、嫉妬なんて珍しいから見てるとおもしれーが」

 ――あーあ、面白がっちゃって。
 こりゃナリ様より、こっちのが一歩上なんだろうな、実際。

 佐助としては、慶次の人脈なぞとっくに知っているため、普段のそっち二人の方に気が行く。
 が……そのとき、ライトが赤く照らされて――

 「旦那だ」

 一瞬で、注意はそっちに引き付けられた。
 ステージの中央に、真田幸村。

≪幸村、出番だ。振るえよ≫

 ナリ様にコールされるより先に、その視線はゆっくりと、強く下から徐々に客席に流されていく。強く――

「――」

 元親も息をのんでいた。
 人気ナンバーワンと言われたアイドルの……アーティストの真田幸村がそこにはいた。



*      *      *      *
※ 公 演 終 了 後  ※ 

元親と別れた佐助は、再び楽屋に回った。
手早く衣装を着替えて出てきた幸村たちと合流する。

「いやー、旦那って本当にアイドルなのな。俺様感心した」

「どういう意味だ?」

「茶化してるわけじゃないって」

あの後、最後まで、本当に見入ってしまったのだ。
ほとんど無駄口も叩かずに、ひたすらじーーっと。

三人にしては広すぎるだろうと思っていたステージだが、幸村がところ狭しと駆け巡ればちょうどよいサイズになり……
悠然と動かないと思われた元就はスクリーンを見定めて、タイミング良く舞台の中央に二人をまとめたし、慶次は二人の動きをみて、立ち位置を調整していた。

花火は水芸――広い舞台だからこその大仕掛けは、新しく披露する曲にすらアリーナ全員を乗せてしまう。
観客は、訓練されたサポーターのように一体になってペンライトを回し、ときに拳を降りあげ、歌う。その笑顔、笑顔、笑顔。
佐助のところから見るよりもずっと条件が悪いスタンドの笑顔も、スクリーン越しで見た。

新鮮な衝撃だった。

ファンでもない自分が思い出すだけで、興奮が蘇るのだから、相当だろう。


「すごかったよ!人が多いからってこんなでっかいところ、サッカーの観戦じゃあるまいしなんて思ってた俺の負けでした」


ていうか、ボックスじゃないともみくちゃにされそうだった。
改めてチケットのお礼を述べる。
すると幸村は意外とあっさり、気にするなと笑ってくれた。

「たまにライブハウスのような箱でもやってみたいが・・・・・・これでも即座にソールドアウトしてしまったから、これ以下はちょっと厳しいのだ。みんなに見てもらいたい」

「――ああ、そういうこと」

 幸村の性格ならばそうなのだろう。
 納得できてしまえる。

「ちょっとは関心した?」

 幸村の肩によっかかった風来坊が、ひらひらとわざとらしく手を振ってくるのが憎い。でも実際そうだったので、「へいへい」と軽口で反応。
 慶次の方はというと、長丁場で声がかすれていたが、満ち足りた表情をしていた。

「佐助のことだから、うちの社長がもうけ優先で箱を確保したと思ってたんだろ?」

「あはは、見抜かれた?」

「わらってねー目で笑うなって怖いから。ま、ナリ様あたりはそういうだろうけどさ、実際でかい場所でも楽しめるように必死なんだよ。あの人、策とかいいながら」

「あー、やってそう。やっぱツンデレだよね」

「そうそう」

「つんでれ??」なんて横で首を傾げている幸村はひとまずそのままにして、佐助は慶次にも再度礼を言う。

「ついでに、ナリ様にもいっておいてよ。俺からっていっても、使えぬ駒っていわれちゃうかもだけど」

「はは、大丈夫。多少自慢げに憎まれ口たたくだけだって」

「で、その肝心のナリ様は?」

「お持ち帰り。される方ね」

 ああ、何となくあのひと、かなと思い当たる節があって(同じアイドルをぱしりかしてるとか、なかなかすごい?と思いつつ)納得しながら、一応たずねる。

「移動手段(アシ)の手配ですか。ってか、打ち上げいかないの?」

「残念、まだ中日(なかび)でぇーす」

「そっか」

 そりゃお疲れ。
 言って、今度は幸村のほうに向き直る。おいてけぼりで、むくれてはいないかと思ったが流石に、そこまで子供ではないのだろう。
 しっかりした視線がかえって、心底来てよかったなぁと思えた。
 だから、

「格好いいね」

 ぽろりとこぼしたのも本心。
 だが、それが相手には悪かったらしい。
「なっ」と悲鳴をあげて、急に黙ってしまった。
 からかいと勘違いされたかと思えばそうでもないらしい。むしろ真っ赤になったこの反応は――

「あれれ?もしかして、褒められなれてないの?」

「んー。そうでもないっちゃそうでもねぇけど、ここんとこゆっきーんとこお兄さんも来てなかったし。タイガーの旦那も忙しいから、父兄代わり?」

「そっか。そりゃよかった」

「何を申す?」

「何って、なあ?」

「うん」

 このあたり、慶次との会話は、半ば幸村をからかってのことだけなのだが、当人はあんまり気づいていない。そこが楽しくてついつい悪ふざけが続く。

「じゃあ、今度いくときは家族席に座らせてよ」

「いいねー。んで、MCで佐助を紹介すると」

「兄貴として?」

「そうそう。ペットの猿」

「ねーよ。それはアンタんとこのだろ」

「はは、何となく旦那の≪天守閣≫における扱いが見えたわ」

 今度こそ、わかったらしく、「何をっ」と再び怒ってみせる幸村。
 ちょっとだけ気の毒に思うが、この反応の素直さにこそ、「天守閣の面々が彼をからかう理由」が理解できてしまう。
 ところが、

「――いや、これで結構幸村、強いよ?」

 意味深長に慶次は結んだ。
 それはそうとさ、佐助は真面目に、

「悪いね、でも本当またよんでくれよ、チケット代は払うから」

 そういい、

「いや。いいのだ。来てくれただけでうれしい」

 あっさりそんな風に喜ばれて面食らった。

「あ、そ」
 
 ――反則だろ。
 幸村の顔は満面の笑みだ。

「そりゃよかった」と、ついついこちらが素っ気なくなるのは仕方ない。

 ――なんて恥ずかしい…… 

 そうか、これをもって慶次は幸村を「つよい」といったのか。
 了解するも、あとのまつり。
 ただ今は顔が熱い。
 きっと風来坊の方をみたら間違えなく笑われることだろう。
「っ」

 かといって再度見上げれば、ひどく満足そうに笑う幸村がいて――

「ああ、もう」

 髪をかきむしり、ぎこちなく、

「じゃ、また来るから」

 そう言って、きびすを返す。

「何お見合いやってんだか」慶次のからかうような声がとぶが、今は無視。
 幸村の素直さは本当に、本当に狂器だ。


「ほんと、やっぱ、アイドル、なんだねぇ」


 もう一度呟いて、実感する。
 別に身分違いというわけでもないし、恋仲でもなんでもないわけだが、今日はなんというか、これまでの俳優一年生幸村とのギャップにやられっぱなしだ。


「それで態度変える気はないけど、どうしてアーティストってやつはこうなんだか」


 もう一人の厚顔不遜な弟子(といっていいのか怪しい。一度共演時に演技を教えただけの間柄だ)までもが浮かんで、頭を抱える。
 俳優畑の自分ではたどり着けない領域に彼らはいて、こちらを見て笑うのだ。あざ笑うでもなく、からかうでもなく、「来いよ、おもしろいぞ」とでもいいたげに。

「歌いたいとは思わないけど」

 参加できないのが悔しい、佐助は何となくそう思った。
 ――でもま、 ≪待ってるから次も来るのだ!≫だってさ……
 見る側として待たれるのはそれはそれで、なんだか嬉しいものがある。
 それもまた事実。


オフ本ユキサボンの後日談。佐助がアイドルゆっきーをはじめてみるコンサート話。