虎の威を借る……(SIDE幸村)   >幸村・佐助

 よく分からないが自分を事件に巻き込んできた男、そんな認識だった。
 そのはずが――

 ――巻き込んだのは俺の方なのかもしれん。

 いくつかの「偶然」の出来事を経るうちに、幸村も気づきはじめた。佐助は憎まれ口を叩きながらも、ボディガード役を買って出ている。

 俺に巻き込まれちゃって災難だね、俺と知り合ったのが運のつきだよ。旦那もまあ、俺様と非日常を楽しんでみてって。

 茶化す口調は一向に変わらないが、いつだって、目は真剣だった。
 幸村を伴った事件の前では、いつだってふざけながらも「命の危険」を知らせてくれた。あるときは身をていして庇ってくれたし、あるときは事前に怒らせたりからかったりして遠ざけてくれた。

 ――ああ……。

 敵の狙いは佐助ではなく自分、なのだ。
 その瞬間、どうしてだろう。
 幸村の心に、すとんと答えが降りてきてしまった。

 今更ながら、だ。

 もう付きまとわないって、と呟かれたのは何時間前だったろうか。
 やむを得ず横に布団を敷いて、「けが人を労われ」なんて悪態にいやいやながらというそぶりで応えた。あれからどのくらい立っただろう。
 佐助の呼気は――聞こえない。少なくとも寝息のように、分かりやすいリズムでのものは……。

 やがて――代わりに問いかけが一つ。

「寝てる?」

「……」

 幸村が寝てないことなど、承知で尋ねてきたのだろう。佐助の声がする。
 分かられてるのだとしたら、簡単に応えたくない。
 安直だが、どうしても嫌で……嫌で嫌で仕方なくて、幸村は口を噤む。

「ねてんならいいや――」

「……」

「ただちょっと謝っておきたかっただけだから」

「………なんだ?」

「やっぱおきてたんじゃん」

 「悪いか」といえば喧嘩になるかというとそうでもない気がする。
 逆らうだけ無駄だ。
 幸村は答えず、ただすっとそちらに――寝返りを打った。
 ……と。
 三日月に細められた目が、自分に向かってくる。
 面白がっているようで、奥底では、決してふざけていない佐助の瞳だ。見ると胸騒ぎがするから、できるだけ覗かないようにしていたが、こうもちかいと見ざるを得ない。
 その真ん中、暗い部分がすぅと小さくなり、

「明日ですべて終わる――」

 佐助は、たんたんと告げた。

「明日で、旦那はもう自由だよ」

「……なぜだ」

「さあ」

 誰かがあいつらを倒すからじゃない?と、佐助はまるで他人事のようにいうが……

 ――お前だろうが。

 誰かではなく、お前が、だ。

 それは強い確信。
 幸村はもう騙されなかった。
 佐助は嘘をつく。嘘ですべてを生かしてきたような存在だ。それは疑いようがない。

 でも、と幸村は思う。

 たぶん、それは誰かの――否、幸村(自分)のための嘘なのだろう。
 ならば、きっと……

「佐助」

「何?」

「佐助」

「だからなんだよ」

「……一人でいくつもりか」

「な」

「一人でいく気なのだろう」

  何かいおうと、その目が一度見開かれるのを幸村は見逃さなかった。

「させん」

 腕をひき、強く抱きよせる。むしろそうした意志すらなかったといってもいい。
 無意識のうち、だ。
 ただただ今この人を――佐助という得体のしれない、でも自分が大切に思いだした男を放り出したくなかった。
 だだをこねるように、幸村はそのままの体勢で佐助を布団にもぐりこませる。
 やがて、その腕の中、あきらめたように、声があった。

「……あったかいね」

 言葉は、初めての降参だったのかもしれない。
 佐助はもうもがこうとしない。温かさにゆだね、細身の自らを落ち着けるように幸村の肩に頭を乗せて――

「もう少し巻き込まれてやる」

 傲慢に――彼のスタンスにあわせて吐かれた幸村の言葉に、僅かばかりに頷いて……

「もの好き――」

 呆れたように告げたのだった。
 ほんの少し、近しい人間がわずかばかりに分かる程度の、嬉しさもにじませながら。


何ていうか、これ 一部なんですけどね。なっがい話の――。
ただそれを書いてる暇があるか怪しいので先に出してみました。現代パロで、組織もの。実際目をつけられてるのは記憶のない幸村。佐助はそれを知って、今回に限り、しゃしゃりでることを決意。最初で最後の再会、ってところです。そのクライマックス手前……衝動書きしてみた。