忘れてるひと(SIDE長政)   >長政・お市・信長・慶次

【SIDE 浅井長政】

浅井長政、高校一年生。
性格は真面目で律儀。
浅井ってうざいまでの優等生キャラだよね〜とこれまで同じクラスの女子に嫌がられること数度。
後輩に「格好いい〜」と見てくれと役職(中学時、生徒会長)で憧れられること数度。
自称、一般的な生徒。
ちょこっと違うとしたら、前世の記憶があること。

*  *  *      *  *  *
入学式の前、桜の木の下では今年も因縁が渦巻く。
*  *  *      *  *  *

「あ………」

「?」

眼があった直後、思わず長政は声をあげていた。
その先には綺麗というより可愛らしい顔立ちの少女。
はっきりと目があったはずだ。
なのに、その眼は、すぐ何もなかったように逸らされてしまった。

――お市……

桜の花びらの合間、まるで彼女のためにあるような光景で……その美しさには始めて会った時も見とれた。
だから、間違えない。
やっぱり彼女だ。

だが、長政は少女の姿を追うことに戸惑いを覚えた。

たしかに、彼女はこちらを見たのだ。
見て、認識したうえで目をそらされた。
「誰?」とその瞳が語っていた。
反応から、事情は察せられる。

――あいつは俺を覚えていないのか?

「嘘だと言ってくれ……」

思わずぼやく。

すっと通った鼻と、小さな口元。
俯きがちで、恥ずかしがり屋な少女は、かつて自分の妻。
しかも、むしろ自分にベタぼれだったのは彼女の方で、自分は――今思うとわりとひどい態度だったかもしれない……。

――……っ。だがっ!俺がすぐ分かったのに、こともあろうにお前が忘れてるのかっ!

そう。
叫びたくなるほどに、「長政様、好き」と連呼していたのだ。彼女は。

お市とは確かに戦略結婚でもあったのだけれど、たしかに死ぬ前には、もう一度彼女を抱けたらと心の片隅で願っていたのは事実。
だが……

――まさか、こんな形で再会がかなうとは……。

頭がくらくらする。
長政は唸りながら、立ちつくしていた。
手には発表されたばかりのクラスメンバー表。
何ともなしに眺めれば、こともあろうに同じクラスだった。
ついでに何人か、見覚えのある名前にはっとする。

――異常だ。
自分が分かる範囲だけで、独眼竜だ、虎の和子だ……兎に角因縁が深い。
この調子だと、魔王も――彼女の兄もいるかもしれない。

何もここまで集まらなくてもいいだろうに。と、吐き出しかけたそのとき後ろから肩を叩かれた。

「おーい、生きてる?アンタ、顔色悪いぜ」

振り向きざま一瞬、相手の姿を認めてまたも凍りつきそうになったが、長政は息を大きく吸って回避した。
髪の毛こそ長くないが、またも見慣れた男がそこにはいる。

「ああ、大丈夫だ。気にするな、前田の……」

不思議なほどするりと返せたのは、相手が、前世に因縁を持つ中では、比較的まっとうな方だったからかもしれない。
前田慶次。
家は違えど一応、同じ魔王の………家臣ということになるのだろうか。
自分にとって信長は義兄だし、相手は生家から出奔している身の上なので、少々勝手が違うかもしれないが。
マイナスの印象がない「古なじみ」に変わりない。

「慶次でいいって。で、浅井――長政か。長政でいっか。同じクラスだし、よろしくな」

手を差し出され、礼儀上こちらも応じる。
ニコニコと屈託なく笑う相手は、「真面目だなぁ」と握った手をぶんぶん振ってきた。
言葉の前に「相変わらず」とついたような気がするのは、気のせいだろうか。

「何だ……お前も、もしや」

「ん?何、長政、一目ぼれ?」

「なわけあるか」

「いやいや、俺じゃなくて」

ほら、あの子。
指さされるは案の定お市で、再び長政は少しテンションダウン。

「まだ出会ったばかりだ……」

「ふうん」

それよりも話を逸らされてないか?
ふと思うが、なんだかどうでもよくなってきた。
前世の因縁がなんだ。くだらない。
そう言いたいのは、彼女が覚えてないせいかもしれないが……

「恋はいいぞー」などと気楽に言い放つ慶次にも問題がある。
なんだか、思い出話するにもややこしい相手だ。

「うるさい、前田。黙ってろ」

取りあえずなれた人間がクラスメートなのはありがたいなと思いこむことにしておこうか。

「慶次でいいって。つか、俺意外にも前田ってのはいるからねぇ。今のうちになれた方がいいってことよ」

「前田慶次……」

「今度はフルネームかい、つれないお人だねぇ」

やっぱり「相変わらず」とつきそうな調子に、長政は眉をひそめるが、慶次は、

「さ、式がはじまっちまうぞ」

と、肩を叩いて、早々に体育館に走りだす。

――まあ、そもそもがそういうやつだったか。

当時も、たまに、思わせぶりなことを言ったかと思えば、何もなかったように振る舞っていた。前田慶次とはそういう男だ。
けらけらと流す彼が、【覚えて】いようが関係ない。

――でも、あれは……。

【長政様?あの、いちね、生まれ変わっても――】

「あんなことを言うのが悪いのだ……」

正義じゃないぞ、いち。
それとも、どうせ忘れるのだからと約束をしてやらなかった自分のせいだろうか。

後悔はあったが、時間は長い。
新しい生を前世と混同するつもりはないが、思い出してこの方ずっと触れたかった黒い髪がちらつくのだからしかたない。
あれの、黒髪だけは理想なのだ。
自分になぜか言い訳をしながら、長政も体育館に向かう。

と、ふと、その手前、渡り廊下に見慣れた影を見つけて絶句。

「――信長公……」

慶次、お市ときて、まさかとは思ったが、そこには魔王の姿がある。
そして、こともあろうに、かつての義兄は、自分の妹を抱きとめて、頭をポンとなでてやっていた。
「お兄様が冷たい」と泣いていた市を思うと、どうにも複雑な気分になる。
どうやら、お市がこけかけたところを受け止めたらしいが……

「気をつけろよ、市。おまえは何かに集中すると他を見ないだろう」

「うん……にいさま、ありがとう。今度はちゃんとする」

「気にするな。それより――高校にもなってにいさまはどうかと思うが。せめて一人称には気を使え」

「……でも、にいさまは私のヒーローだから」

「仕方ないやつだ」

近づくにつれ、聞こえてきたセリフに頬がひきつる。

――なんだ、この甘い感じは……

恋人じゃないのは分かる。
兄らしく、妹らしく――多少行き過ぎはあっても仲が良い兄妹というのも。

だが、妙に癪に障った。
覚えてないのならば、確執もないだろうし、よかったなといってやってもいいところなのだが――。
妙な予感があった。

そして、予感は的中することになる。

お市が体育館に入ってしまえば、三年である信長は式典に出る理由もないから当然校舎側にむかう。
長政が歩く方向だから、必然的にすれ違う。

――と、そのとき。

「ああ」

妙に納得した顔で、信長がこちらに気づいた。
ご無沙汰していますというべきか、お初にお目にかかりますというべきか迷っている間に、長政も思わず立ち止まる。
その不自然さに、なぜか冷や汗をかいた。
とたんに、信長は感慨深そうに、「……ああ」と、もう一度呟いた。
爆弾発言が降ったのはその後、



「お前も記憶のこってたのか」


「っっ」


――何で!!!!!!なぜお前、今さら市を!!!!

もう何が何だか言いたいことが自分でも分からない。
だが――


「……頑張れよ」


などと、しれっと言われては……

――ふざけるな!!!!

真面目な長政が怒るのは必定。
ようやく妹を可愛がってやれている信長としては、ちょっとした意趣返しもあったのかもしれない。
どうせ、お市は長政に惚れるだろう。
そんな予測、信長は勿論、慶次にも……はてはこの先知り合いになっていく他の前世を共にしたメンバーにもつくことだった。

けれど、長政からすれば、お市が自分を見ていないことは青天の霹靂だ。
八つ当たりだと分かっていても、どうしていいのか分からない気持ちで、心はすでにちぢに乱れている。

そこにきての駄目押し。

信長に叩かれた肩を払って、何とか立ち直り式の始まる体育館に入る頃、長政は珍しく爆発モードだった。

――こうなったら何が何でも市につきまとってやる……

佐助や慶次がきいたら「それストーカーっていうんだけど」とあきれそうなことを考えながら、むっと唇を一文字に結び、列につく。
そんな長政を、名前の順ですぐ隣にいた市が「何となく素敵」だなどとマジマジみているとは気付くはずもなかった。
後ろから、慶次が「やっぱり恋はいいねー!」と、早速この恋の顛末に気づいていることにも。


お市と長政。
今生は、どうやら、しばらく、矢印が前回と反対に向いた片思いになるようである。

ようやく日常スタートの二本目はノーマルかぽー。
こちらはしばらくツンデレが焦る様をお楽しみください。
お市かわいいよお市、信長も今生はお市にやさしいんだぜという話。
長政と慶次、お市は同じクラス。佐助もかな。
浅井夫婦以外はクラス分け一度定めなおすかも。