この段階ではまだUPするつもりではなかったのですが、
アニメの進行がまさかの方向に来て、被るんじゃ疑惑が出てきたために先出しします。
本能寺の変関係の核心に触れかかる部分があるため、知りたくない方は、ブラウザバックを。
大丈夫だという方は、下へスクロールをお願いします。&数話続きます。






















本能寺前哨戦 漆黒と出会う(SIDE 松永)  >松永・お市


「長政様……ねえ、どうしようか……にいさまは戦いに行かれたんですって。……どうしよう……市、にいさまを赦すつもりないの……でもにいさまも死ぬ?……どうしよう」

少女は虚空を見つめ、誰かに頬笑みかけた。
そこにあたかも愛しい面影をみたかに、その寂しげな微笑。
兄が嫌いではないのだろうが、憎んでもいる。
複雑な感情。
そのはずがどうしてだろう。
籠の中の彼女の笑みは、歪んでいた。

【魔王も彼女がここにいると知らないのか?】
口の動きで、松永は風魔に確認する。
風魔は首をかしげ、更に彼女の方を視線でさした。

――分からぬから状況を伺って近づけ、ということか。

座敷牢の中には他に影(忍び)は見当たらない。
決まった時間に近づくは、もとより織田の頃から彼女についていた侍女とのことだ。

朝餉は終わり、夕までには時間がある。
静かに状況を見て、一歩、また一歩、近づく。

「ああ……だから、市は行かなきゃいけないの……誰かに取られるなんて赦せないの……」

ねえ、長政様?
長政様も市と居たいよね。
だから、兄様も一緒に逝くの……

意味を為さなくなっていく言葉と、あやふやな現実。
ただ、彼女が欲するものが、松永には見えた。

取られたくないほどのもの、

「誰を、かね」

なくなった【彼】を与うための手段は、彼女の生を奪うことしかなく……その手段はあいまいで協力する気にはならなかったが、そうでなければ――

「素直に逃れんとする鳥ならば、籠から出て舞う方がよろしい。その方が自然。閉じ込めて愛でるとは……いささか彼(明智)の感覚には興が冷めた」

美を知るものとして、嫌いではなかったのだよ?
今とて。

伝えても、彼女の眼はこちらを向かず――
放っておいてもきっと変わらぬだろう。
たきつけて動かすもまた、松永の趣味ではない。

ただ自然に――
ただ欲するがままに――

選択肢を与うことすら億劫ではあるが、哀れとはいえ力を持つ姫ゆえ未知の動きが期待できる、その一点にのみ執着が湧いた。

「動きたくば動けばよい」

魔王ならば今頃は本能寺に向かったか。
呟いて、その扉を開ける。
座敷を摺るせいか、衣ずれか、楚々と少女は舞い降りて……そのまま松永をこぼれんばかりの瞳で見つめる。
編み込んだ藁の香りと、場にそぐわない菫か桜の薄い匂い。
絹糸の髪を撫ぜれば、さぞかし心地よかったろうが生憎と女に寄せる情は浅く――愉しみ方を百も心得るせいで、かつて傾国を謳われた織田の妹にせよ食指が動くこともなかった。

禍々しい純粋な顔から眼をそむけるでもなく、まっすぐ――合わない目を合わせ、風魔に、連れていくよう命じる。
ただそれだけ。
ただし、直接ではなく、あくまでぎりぎりの――彼女自身が選んで移動できる山道へ。

「あとは成行きに任せるが一興」

しかし、はて?と、呟いた後、ふと気が変わる。
――それでは、明智に恨まれようか。
別段恐怖は感じないが、自分自身が未来の確定要素を強めては面白くもない。
賭けは五分であって初めて楽しめるものだ。

「風魔よ」

もう一仕事頼もう。
言うが早いか、風の悪魔は忠実に任務を遂行する。
場は、武田が陣地。
向かい合う明智軍の陣――

松永は、三度口を開く。

「卿のものではない。籠の鳥が紛れていたようだが」

 それを、逃したのだ、と。