「きりーっつ、礼!」
生徒に任せた号令はわりとやる気があるようだった。
(まあ、二限だしね)
新任教師としては上出来かもしれない、とリョーマはほっとした。
緊張こそしていないものの、教師という職業はなれないことだらけで二週間目にしてようやく眠気がわくほど慣れてきたのだ。
(――で……自分=先生が一番眠いっておちがどうかと思うけど)
さて、今日は……
「Well,I ask you to tell me the way to the station……」
「先生、あの……」
突然にはじめる授業は英語のものだが、これは学校側の方針だ。
文句は無視することにしている。
次は、この図を黒板に張って、答える生徒を指名すればいい。
教卓においていた手製の地図(これは英語課教務室に遊びにきていた不二と佐伯コンビにさりげなくやらせた。借りを作りたくはなかったがやむをえなかったのだ。……そういうのは苦手だし、かといって同じ教科でも、あの【跡部】先生にやらせるわけにもいかなかった)を取り出し、黒板にはろうとする。
身長はあれから伸びたが、片方で必要な質問をメモした紙をもっているため、一人で用意するのが至難のわざだった。
ついでに、Information(質問の補足事項)も続けて口走るため、ますますのものになる。
と……ふと、別の生徒が声をかけてきた。
「先生、あの……」
(また?)
しかし、ちょっと様子が違うようだ。
なんというか、質問の声は、しっかりした優等生(昔でいうところの手塚部長のようなポジション・生徒会長にも就任している)女子生徒だったのだ。
「え?」
驚いて振り向くと、ひょいっと手元が軽くなる。
思わずビックリして、補足をとめてしまった自分に耳慣れた調子の声が返った。
「Shall I teach this ENGLISH Class?……」
「は?」
叫びにならなかったのはなかなかラッキーだったと思う。
「おう、新人。今日から臨時でここの教師やることになった、越前リョーガだ。よろしくな」
「………」
「おい、どうした?お前のお兄様だぞ?」
(いちいち区切るようにお・に・い・さ・まって……)
あきれて何もいえずにいるこちらとはちがい、あちらは授業乱入にもかかわらず平然としている。
どさくさにまぎれて頭をぐしゃぐしゃにされて、「おい、きいてんのか?」といたずらっこの笑みを浮かべるどうしようもない身内には、胃が痛くなってくるが、女生徒からは悲鳴。男子生徒も「えーまじで?親戚かよ?……ていうか、リョーガ先生って……あの、臨採って噂の?」などと盛り上がっている。
「アンタ、なんでよりによってここに……」
「せっかくまともな授業やってたっていうのにさ」とは言葉を飲み込むがばれてるのだろう。
相手は明らかに面白がっているのだ。
「ま、今日はTeam teachingってやつだ。俺も後ろにいるから、何か質問のあるやつはいえよ?俺はリョーマより、うまいぜ?」
「……見学のつもり?それとも校長の許可とか――」
とったのか?と聞こうとして、口をつぐんだ。
見学ならたぶん立派な職務妨害だが、あの校長なのだ……。
おそらく校長の幸村こそ楽しみ勇んで、これをすすめたに違いない。
無謀に許可なしで乗り込んできてるにしろ、幸村は後からOKをだすだろうし、この兄貴分なら真田=暴力教頭の鉄拳もかわせてしまう。
「もうわかったから静かにしててくんない?」
「Yes,My brother」
「I Don't remember I want to be your brother……」
すぐに別の質問に切り替えたけれど。
早すぎた英語にきょとんとする生徒をむしして、二人の新米教師は視線を交わした。
腐れ縁は今このときふたたび……
written by MAYMOON