とある1時間目    〜SIDE 英二〜   

IN体育館



「おう、次!」

 跳び箱の担当は菊丸と宍戸。
 隣の垂直とびからは赤澤の掛け声が聞こえる。
 今日はスポーツテストだ。

「次は……ええと、杉下?」

「はい」

 声をかけて助走を始める女の子はそこまでうまくない。

(いっつもこけちゃうんだよな)

 英二は苦笑しながら、彼女の様子を見守った。

「あいつ、ダッシュは悪くないんだよなあ」

「そうそう、けどどうしてだか……」

 宍戸に同意するうちに、予想通りというかなんというか……

 どっかんがしゃがしゃ……。

 盛大にこける音。

(あちゃー……)

「仕方ねぇな」

 一番近かった赤澤があわてて、手を伸ばし、彼女を起こす。

「おい、菊丸!手本みせてやっとけよ」

(そうか、そういえば……)

 今日はしてない気がする。
 
「いや俺が……」

 何でだかあせった宍戸が腕をつかむが、やる気はすでに出ている。

「よし、がんばりますかっと」

 「菊丸先生!がんばって〜!!」「またやるんすか?」他周囲から応援があって、元気よく手を上げる。
 彼女も、真剣な目で見ていた。

(あいつもできるようになりますように)

 そううまくアドバイスはできないけれど、ちゃんとみてればきっと、と思う。
 あるいは祈るように思ってる。
 足元の板をしっかりと蹴り、宙に走り出す。
 くるりと回った瞬間、いっそうの歓声が響いた。

 *        *      *      *      *
「だからよ。……お前じゃ手本になんねーんだよ」

 俺はとめたぞ。
 教務室に戻った宍戸が、橘を捕まえて愚痴っている。
 英二は入ってくるなりの一言に少々へこんだ。
 
「そんなこと言うなよなあ。俺、がんばってるんだぞ」

 彼女もちゃんと集中して見ていたし、その後はいっそう練習に集中してくれたようにも思えるのだ。

(今日もまた飛べなかったけどさ)

「まあ一夕一朝でできるなら苦労しないさ。菊丸の場合、お手本には素晴らしすぎるだろうが、きっと生徒のやる気は出させてるんだろうな」

 橘が赤澤にお茶を差出しながら、コメントをくれた。
 次の時間の用意をしている彼は、ここのボスだ。
 宍戸を「まあまあ」となだめてから、体育館の鍵を手にとってドアノブを回した。

「おつかれさま」

 そうかぁと納得とまではいかなかったが、説得力のある言葉にほっとして、英二は次の受け持ち時間も華麗な技を披露するのだ。
 そしてまた宍戸にあきれられるが、生徒の人気は上がるのである。

END

written by MAYMOON

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