バレンタインともなれば囲まれてなかなか帰れないのが高校時代だった。
たくさんの女の子の中にはもちろん告白をする子もいたし、本命とばかりに気合いをいれたプレゼントつきのチョコを渡してくれる子もいた。今でも騒がれ方はマシになったけれど、決してその人気が衰えた訳ではない。
それを自覚してるのもどうかな、と不二は一人ごちた。
ただ大学はシステム上どうしてもアイドルの出来にくい部分がある。ゆえに、
「減ったかな」
「げ、それでかよ」
収獲を確認して、コートに向かう不二だが、これを聞いた同期――大学になってから友達になった宍戸亮は悲鳴をあげた。
それというのも一つも貰えてないばかりか、よりによって好きな子が別の男に渡す光景を目の前で見てしまうという自分の悲惨さと、如何にも「本命」なチョコを抱えている友人(不二)との差を目の当たりにしたためだった。
「嘘ついてんじゃ……」
そんな言葉が自分への慰めよろしく飛び出たが
「そう思う?」
「思わねぇな」
現実は不条理なもんだ、と、嘆くことしか許してくれない。
時間でいえば四時間目。ぽつぽつと休講の連中が引き上げてはコートに立ち寄り不二に甘いプレゼントを渡して去っていく。
まだ授業も残ってるのに。と漏らしたくなるのはもてない男の性か。
可哀相なことに隣りでアップを初めていた友人などは不二の時間割を思いだし、声をあげだす始末。
「本命たくさんじゃん!まだ貰う気だろ、お前」
午前切り上げ上等な二時限で終了の素敵スケジュールがもて男不二の華麗なる金曜。
これを無視しなお残ってるということはつまり、ずばりチョコ目当てと思われた。というかそれしか浮かばない。
「俺にみせびらかす腹かよ!」との叫びに悪びれないのが不二のすごいところだ。
「まあ。――ただ手作りは勘弁」と綺麗な顔で笑う辺りむしろむごいというべきか。
鬼だな、とその場にいた何人かが目を合わせてしきりに頷いた。
反対にその軽さにちょっとした憧れを抱く野郎がいるのも毎度のパターンだ。だからか、あるいはただ無謀なだけなのか、何故?と面と向かって尋ねる兵が現れるも
「不衛生かもしれないでしょ。知らない人のは無理」
こうぴしゃりと言われては憧れより怖さが先に来る。ちなみに「身内はもっとややこしいから義理中の義理しか受け取らない」だそうだ。
そんな中、羨ましがるでも、はたまた人でなしな友人を憂くでもなく、
「……割り切ってるっつーか普段彼女欲しいとかぼやく奴には思えねぇ」
宍戸の妙に冷静な一言がとんだ。
確かにである。
何せ不二の、彼女欲しい発言は男子の間ではわりとメジャーなのだ。
だが同時に密かに囁かれていることもある。
曰く『女運がない』
詳しくは違うが意味としては変わらない。
もてるはずの彼は高校はもちろん今まで彼女を作れた試しがなかった。
みんなも最初こそ冗談か何かと思っていた節があるが流石に一年もいれば分かる。 ついでに言えばこのタイミングで不二にその話をふるのは間違えだ。(まずいタイミングとやらはなれれば自然に計れるようになる)
途端ぴしっと氷の膜がはじけるような音と共に壮絶な笑みを浮かべて、
「大抵は憧れなんだよ」
不二が掃き捨てた。
音はどうやらラケットに巻いてたグリップのものらしいが、どこか折れたんじゃないか気になるところだ。
つづく
すみません。忙しさに負けました…… 続きは出来るだけ早く。