ガ様 放浪記 〜出発編〜  2006/01/27 PDB・MEMO改  


 あの一件の後、さしものリョーガも、水上バイクでアメリカまでの逃亡は不可能で……どうしようか迷っていたところ、このやたら偉そうな王様に拾われたのだった。
 金持ちに飼われる生活にはなれているうえ、今までのような「義務」(仕事)は生じない。これはいいとばかりに、のんびり居候を決め込んでいたリョーガだが、ある日、風呂上りのリョーガに現在の暫定主人、こと跡部景吾は静かに尋ねた。

「おい、てめぇ いつまでいる気だ?」

 そろそろくるかな、と思っていただけにからかいたいところではあるが、真面目な空気を読んで、素直に返す。

「あー?俺としちゃ まあそろそろ頃合かなーともおもってんぜ?けど、おら…………」

「ああ越前か」

「はーい、俺も越前よ〜?」

 跡部が、もう一人の方を指していることは分かった。
 越前リョーマ。
 久々にあった弟分も、あの別れでは気にするだろうし、それ以上に自分が着になって仕方ない。
 成長したとはいえ、リョーマはリョーマだ。
 放っておいて何をといわれようが、リョーガとしては構ってみたいのが実情。

「ざけんな……」

 跡部は、「なれた」といわんばかりにため息をついてくれるが、それだけで話を終えてはくれるような優しいやつではない。

「で?青学にすんのか?」

「ん?何が?」

 とぼけても駄目だろうなという予感は間違えなく当る。

「……学校だ。てめぇも一応義務教育の年齢なんだよ。気付け。バーカ」

 「そんなバーカ」って言われても…… と リョーガは可愛くやりかえそうとしたが、跡部の怒った様子に黙り込む。

 ――こいつ、割と真面目なんだよなぁ。

 それだけでなく、こうと決めたら遣り通してしまう根性と――財力と知恵の持ち主だということもこの数日で十分承知している。

「――……って俺に、私立いかせんの?」

 氷帝はもちろん、青学も私立だ。
 義務教育中なら公立校で十分だろうが、跡部の指針はどうもちがうらしい。

「金くらい出してやる。……俺らも、関わったことはなかったことにしてぇんだ。わかるだろう?」

「ま、近くにいた方が見張りやすいしな」

「……遠慮なんかしてんじゃねーよ。それから、敵に回すな」

 何を、と聞かずと理解できる。
 跡部がどういうものか分かるだろう?
 声はきこえずと真意が伝わらないリョーガではなかった。
 跡部も――お金持ちの息子というのも大変なものだ。と、肩をすくめ、「はいはい」と適当なふりで答えた。

 ――コイツの場合自分で色々やっちゃ首をしめてるようなもんだがな。

 リョーマがいたら反論するかもしれないが、これで跡部の面倒見はかなりいい方だ。
 衣食住に限らず、やれちゃんと寝ろ、ちゃんと食べろ。お前はいくつなんだ?パスポートはあるか?……エトセトラエトセトラ……構ってくれることといえば、あっちの部長なんて目じゃない気がする。
 ――あのめがねの兄ちゃん……手塚国光といったか。……なんか、リョーマもなついてんだよなぁ。
 も、というのは他に一人熱烈なフリークが居ると分かったから。
 ライバル、というべきか。

「跡部も大好きな手塚の元ってのも確かに悪くはねーよな」

 目の前の王様の、熱望する相手である。
 興味がわかないはずもない。

「あのな……」

「気持ちは分からないでもねぇって。冗談ぬきで。俺もアイツとは一度やってみたいぜ?」

「ちげーだろ……てめぇの相手は……」

「……あってる。逆だよ。リョーマは俺じゃ相手になりませんwあいしてっからな」

「勝手にいっとけ」

「へーい」

 適当に答えてソファに寝転がる。
 だが跡部は一向に立ち去る気配がない。
 やむなく、手だけをそちらに伸ばす。
 気づかない跡部は、窓側を向いている。
 その横顔が妙に遠く感じて……突き放しているように見えて、リョーガは思わず彼のジャージを引っ張ってやった。

「おい」

「きれんなって、景吾ぼっちゃん。……選べってんだろ?……なら」

 なら俺は――
 言いかけて、声は遮られる。

「選ぶ権限はねーよ」

「は?」

 ――あれれ?計算ちがい?
 そんなことはない、さっきまで跡部はそういうつもりだったはずなのだ。
 お節介で、自分を青学にいかせる、そんなつもりだったはずなのだ。
 リョーガは首をひねる。
 跡部景吾との会話の気持ちのよさは、この「わかる」空気感で、それがすれ違うはずがない。
 可笑しな話、もう確信していたことだった。

 ――俺、結構コイツのこと好きだわ。

 勝手ながら、だからこそさっきの答えにちょっとおどろいた。
 思わずちゃんと向き直って、跡部の横顔……そらされた視線を見つめる。
 どうにも妙な気持ちにさせられた。
 跡部がやきもちでもやいてるのでは?とふとおもったからかもしれない。
 だが、納得したように頷いて――

「……そうか」
 にやり。
 完全復活した王様は、何やらよくない台詞をはきだしていたような……気がした。

「リョーガ」

「あ?」

「決めたぜ。てめぇは、氷帝にこい。俺様がじきじきにみっちり指導してやる」

「いや、だって、おい、お前んとこって超絶おぼっちゃ……」

「ぐだぐだ抜かすな。明日は速い。用意しとけよ」

「おい、ま……」

 まてって……。
 言い切ることなく、跡部はジャージを残したまま、するりと居間をぬけでていってしまった。

「おいおい、まじかよ……」

 豪華なクルージングも、ハイソなパーティーもなれているものの、同世代のまごうことなき紳士・淑女見習いの園に入ることは……リョーガには考えられなかった。
 跡部が選んで、その中に入れるといったら入れるのだ。それが嫌なら自分で場所を見つけなくてはならない――つまり、そういうこと。

「うわーアイツ、本気だよなぁ。しゃーねぇ。……どっか、別の候補でも探してきて納得させるっきゃねーわぁ」

 『仕方ない』
 それこそ言い訳かもしれない。
 何処かで、いつかは戻らなくてはならないことをリョーガは感じている。
 戻る場所があるのか、不明だが、顔だけでも出さなければ、彼ら――弟分を含めた越前家の人間は絶対納得してくれやしないだろう。迷惑をかけることになろうがなんだろうが、「とっちめに」くるに決まっている。
 しかし、ここにそのままいると氷帝――

「景吾のやつ、学校でも凄そうだもんな」

 少しの間世話になってるだけでも彼の有言実行っぷりや、派手さ加減はおもいしらされているのだ。
 場所が変わってくらいで変わるとは思えない。
 これまでは屋敷にいれば安泰だったが始終ぶうぶういってくる跡部景吾を思うと、若干頭が痛い。
 かくしてリョーガは別の学校(跡部が納得しそうな)探しのたびに出ることにした。 
 ただし、一応スタートとして、一時的に氷帝に属させられる決定は下されていたが。

取りあえず開始。読みきりで 期間好き勝手
 約束は 氷帝→ 他校 → 青学 → 氷帝(再)……という順番のみ。