歌舞伎町   01> 「イントロ」

「今日も綺麗だろ。な、樺地?」

「ウス」

新宿歌舞伎町二丁目。
午後三時。
路地裏のとある店舗では、開店時間にむけ着々と準備が進められていた。
オーナーは跡部景吾。
仲間からの通称「けいちゃん」。
ここでは「ママ」で通っていたはずだが、それ以上に多くの信者をかかえ、「跡部様」と呼ばれている。

呼びかけに低く応じた樺地はこの街じゃ知らぬものはいない、彼専門の用心棒だ。
そもそも跡部自体が生粋の金持ちで(この辺の事情を知る者は少ないが)やくざ者を雇う必要はないため、樺地は当然真っ当なボディガード職ということになる。

だが、場所を荒らすのも問題。
ということで、一応大手企業で裏家業にも縁の深いグループが経営する専門店の用心棒も兼ねていた。
位置的には跡部のバーの向い、なかなかの面子を揃えたホストクラブだが、女性専門店ではない。ゲイ向きに特化した店だった。
そして何故か……

「……んでこんなに知り合いばっかんとこで働かなきゃなんねーんだ?」

 そこいら一帯では元氷帝テニス部のメンバーが図らずも一同に介することとなっていた。(ンな阿呆な)

さて、跡部が化粧直しをしてるその頃、更に裏手のホストクラブ(女性向)のオーナーは雇った掃除屋の仕事を眺めていた。
掃除といっても、真っ当な清掃業ではない。
よく言えば二丁目の裏側に関してのエキスパート、悪くいえばならずものの、厄介引受人。
名前は忍足侑士。
ここのホストクラブはオーナーこそがナンバーワンだと言われている。 
本当のナンバーワンはジロ。
OLだけでなく、年配層からも絶大な指示を受けるが、性格は限りなく怠惰。寝てばかりが可愛いと受ける趣向は、忍足には少なくとも理解できなかった。
だが、まあその犬のような彼を飼ってるのは目下のところ忍足だったりするんだが……忍足自体もかなりその日ぐらしなので、なんとなく一緒にいるという表現が一番あたりな気がする。
と、のんびり忍足が器具の点検をしていると、直ぐ横にオーナーがつかつかと寄って来た。
きちっと着こなしたスーツに、薔薇のスカーフが違和感なく四十過ぎの男の渋みを余すところなく発散させている。
忍足とも古い付き合いだった。

「お前がいなければ芥川も少しはアフターを取るんだが」

控えめに、だがきっぱりいちゃもんつけて、働かせるオーナーに「人使いあらいわ」と忍足はぼやきながらも、律儀に床の清掃に務める。
今日は比較的真っ当な仕事だったから、血で絨毯が染まるような大惨事にはなっていない。

「(ぼそっ)単なる清掃やったら別の人雇えばええやん……」

「何か言ったか?」
 
「…………」

「仕事はすんだのか、なら部屋にこい」

 忍足は持ち直して、「嫌や」とにべもなく言いかえした。

「あんた、けいちゃんのブロマイドかざりすぎやで?いくら、相手が【誰でもええ場所』からのお持ち帰りかて、あれは酷いやろ?起つもんも起たへんなるわ」

「………いってよし」

「ほな帰らせてもらいますわ。……つけたしとくけどな、センセんとこの売り専な、あそこの趣向ずれてきてんで?二丁目のニーズは広いんや。例えば、チョタはいろっぽいなったけどクネ系(カマ趣向)は止めた方がええで。あんまりマンマなんもキモイ言う客もおる。仕事の範囲が広いから言わせてもろうたんや……っと……出すぎた口やったな」

「考慮しておく。……忍足、ジロは今日は遅い」

「………お先に失礼しますわ(せやかて跡部のところに行くなってか?)」

 忍足はせせら笑うように、いったんお辞儀をして出て行った。



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