「滝」
「ああ、忍足か」
作業を進めれば進めるほど、当たる壁はでかくなった。
――一人では片付け切れないものがたくさんある。
忍足はそういったときの新の助っ人をしっていた。
滝萩之介、榊グループの情報管轄部門。
元掃除屋・兼情報屋。
当然羊犬側ではない。
「またかい?でも、僕に出来ることは限られている」
「しっとる。せやかてしゃあないやん」
「うちにはお腹をすかせて待ってる犬がいるし?」
「ああ、滝にはかなわんな」
本当どこから仕入れたんだ、その情報は。
大方、跡部――景ちゃんあたりなんだろうが、それにしても詳しい。
同居してるとまではいってないはずだ。
そもそもプライドの高い跡部から、飼い犬の家出を教えてもらえるとは……。
考える忍足の手から滝は笑いながら、ICチップを受け取り、モジュールを繋いで、横のマシンに差し込んだ。
「ていうか、ねー……」
うぃーん
鈍いファンの音がして、マシンが起動を始める。
ウィーンぃーん…ギュー………ガシャ……
書き換えせいかいつもより少し大きい雑多な響き。
「分かりやすいと思うよ」
「は?」
どさくさにまぎれてヒントをいうのが、滝の嫌な癖だ。
「ついでに……に気をつけた方がいいねー……」
「…それはきこえんでもわかったで?」
どうせ元の飼い主のことだろう。
「景ちゃんはほんまジロのことすきやからな」
「さあ?」
「なあ、滝。滝はなんでそないに跡部が苦手なん?」
「そんなことないねー。好きだよ」
「嘘や」
思わず叫ぶ忍足である。
滝は昔から、榊の情報部門に行く前、フリーだった頃ですら、当然のようにこちらと付き合いはあったが、その際一度たりとも跡部に情報を売らなかった。
嫌いだとかんぐられても仕方ないことだ
だが、跡部も滝もそれを暗黙の了解にしている。
よく分からないが、嫌いもすぎると無反応なのだ、という類なのかと忍足は解釈していた。だがそうでもないと本人は言い張る。
どうしてなのか、ここにきて無性にしりたくなってきた。
ジロとの情報より何倍も価値があるように思えてきた
何せ情報を集める側の情報である。
忍足とてその一端だったが、有名な情報ルートで一番知られていない人間は顔すら面にもれていない。滝はその最高峰に限りなく近かった(もう一人警察ギリギリ筋に不二と佐伯という人間がいたが、こちらも姿を消して久しい。忍足はうっすらとしか――しかもこれまた滝を通じてしか知らなかった)
「なんでだろうね」
滝はぽつんといい、にっこり笑った。
くさい。
非常に不可思議な微笑である。
だが、ふとそれが転じて泣きそうな表情に見えたため、忍足には薄っすらと何かが見て取れて閉まった。
――介入不要っちゅうやつかいな
「本当はあんな仕事したくなかったんだけど」
告白はしないとばかりに「仕事事情」=「契約守秘義務だから」と漏らされて、忍足はやむなく口を閉じた。
滝はそれを乗り越えろとばかりに微笑むがそれはできそうになかった。
自分が同じ立場にいても、そうされてしまいたくはなかったし、だからこそ滝とはいい関係でいられるのだと知っていた。
「まるで愛の告白やな」
「そう。だから止めておこうか」
気持ち悪いし。
俺はノーマルだからねー……
薄く笑う滝が、嫌味でいってるのか、冗談なのか、その狙いはどちらとも付かないが、忍足は「滝やなー」とどうしようもない理屈でそれを克服した。
ここはソウイウ街。
全てに答えを出すのは、何も知らないのと同じくらい野暮なのだ。
そのうち過去編アップしたいな……と。