■ 置き物


「不二。お前さ、ここを逃げ場にしてんじゃん?」

  不二は「ん」とうなったまま、雑誌を読んでた。
 俺の部屋。
 こいつは時々勝手にやってきて、適当な時間にかえっていく。
 部活もあるし、近頃はそうそうこなかったが。

 俺は取り上げられず、むっとしたまま自分も本に目を落とす。

「帰りなよ?」

 声は出したけど、実際そう思えてないことくらい、不二にはばれてんだろうな。
 案の定、

「やだ」

「素直だな、相変わらず」

「さえ相手に可愛いふりなんて気持ち悪いでしょ?」

 そのとおりで。
 でもだったらもっと相手しろとか思わないでもない。
 何が哀しうて休日男2人でまったりしてんだか。
 勉強教えあうとか……?それもフモウだな。

「テニスしにいかね?」

 一番俺等らしい提案をしたら、

「いいよ。さえが本気でやってくれるなら」

 あっさり返された。

「本気、な……」

  どうだろう?
 俺、できるのか?

 出し惜しみしたいわけではない。
 不二相手で真剣勝負。
 血が騒がないでもない。
 むしろ……

「いいな。でもそれ、公式で当たりたくないか?」

「でしょ?」

 また予想しての会話か。
 雑誌の音がぱらぱら耳に響く。

「だからさ」

 いいながら不二は唐突にめくるのをやめた。
 こちらをにっと見る。
 瞬間でそらされた目はあまりかちあうことがなかったのだけれど。
 それだけで何か見透かされたような心持ちがして、俺は背に走る寒さを笑顔でやり過ごす。

「無駄でも、ここにいたいんだけど?」

  だめ?
 聞いた目は本気で、答えを予想してないからこその真剣さがあって……

 ――だめなわけあるかよ。

 答えるのが悔しく、追うのが俺だということもまた納得がいかない。
 自由でいる信条を覆す気はない。
 相手が不二だからこそ。

「勝手にすれば」

「じゃそうする。僕は佐伯を縛らないよ」

「そう」

 そうしろっていうのは違反だ。
 俺は言いたくない。

 それはまるで、どちらか先に告白するかのゲームみたいで。
 それすらも気に入らない俺はとっくに頭に入らなくなった活字を放り出して、

「邪魔」

 そう宣言する。
 でも、それだって結局のところ、

「邪魔ならどかせばいいでしょ?でも佐伯はそれをしないから……」

 手を伸ばして雑誌なんて読んでないとアピールするようにそれを渡した不二が

「とことん邪魔してるんだ」

 今度こそそらさず真っ直ぐ射抜いた視線が俺の一部を捕まえた。

「本当に嫌なやつな、お前」

 雑誌をとりあげて俺はめくり始めた。

 さっきまでの不二と同じ。

「似てるんだよ、佐伯は」

 だから最悪だと笑うお前が俺はにくくてたまらないよ。
 俺は雑誌ごしに不二の髪を捕まえて、ひっぱってやった。

 痛いよ

 とか笑うのが悪い。
 キスでも奪ってやろうかと考えて、もっと痛いことを思いつく。

「気持ち悪いだろ?」

 噛み付いた耳元が驚くほど寒くて、何だか可笑しな気持ちになる。
 ヤりたいとかそういうのではなくて……何か「動物」相手にしてるみたいだと思った。
 顔をしかめた不二をみようと乗り出す予定が、そんな気もうせて、

「帰れよ」

 駄目押しにいってやった。

 ……結局不二はそのままそこに居た。
 なじんでる置物だ。
 その日から、不二は俺の置物になった。
 ペットとかおもちゃよりも遠いのに、目につく嫌な置物。

 E N D