歩き出した突然、横でむすっとしていた跡部が話の続きを促すように言った。
千石は首を傾げるより先に「え?」と声をあげていた。
――今、俺、跡部君がいうところの「滅茶苦茶くだらない話」してたよね?
確かマネージャーがいることのメリットと、女テニとの交流はどうやって深めるべきか、が議題だったはずだ。
――興味が出たとか?……
自分に問いかけると同時に答えは出ていた。
跡部はそういうタイプではない。
女は嫌いじゃないし、テニスに時間を取られる分ある意味それなりに憧れとか希望とかもあるだろうが、敢えてそれをいうほどのことはない。
そもそも千石は知っているのだ。跡部が自分と同じくらいテニス馬鹿だと。
それならば何だというのだろうか。
小首をかたむけて、相手のほうにじぃっと視線を流した。早い話が覗き込んだのだが……
「んだよ?」
またすぐむっとされてしまう。
――こっちが聞きたい。
そう思う千石である。
だが、そのまま不思議そうにして(内心ちょっとひっかかってるけれど顔は崩さないで)いたら、「黙ってろ」と声が飛んだ。
負に落ちないが千石は口を閉じ、
「まだ何も話してねーじゃねーか」
跡部の言葉に固まった。
要するに……いつもは無視する跡部が率先して自分から話しかけてきたらしいのだ。
――うわ、なんか……。
寒いこといわれた……と思う。
だが、その反面、相手は女の子でもなんでもないのに妙に気持ちが浮かれる自分を見つけて口を閉じる。
――俺って馬鹿?
そう思っても、何だか嬉しいのだから仕方ない。
「希少価値ってやつだね」
「は?」
一人ごとに跡部がまた顔を向けた。
偶然を装って近づいたことは多々ある。でも、正面切ってこんなふうに視線を向かい合って話すのはなかなかないことなのだ。
千石が分からない顔を作って観察していると、不意に跡部【様】はぎろりと睨んだ。
「……黙ってろっつっただろ」
――やれやれ。
しかたないなぁ。
千石はどっちが悪いのか、はたまた一体本日の跡部はどうなっているのか心配しながら、視線を前に戻し、同じ調子で歩き始める。
しばらくまた無言が続いた。
跡部は何かを言うことを止めたのだろうか。
それならそれでいつもどおりなので、気にしないのに、と思いながら、十字路を曲がる。
普通ならここまでだ。
迷子を装って届けられ、「またか」と呆れられながらも「ここまで来ればわかるよ」と別れる。
それはもう二人の通過儀礼になっていた。
でも、今日は違う。
――角を曲がって2ブロック。
ほんのすこしをカウントしながら、千石は「あのさ……」と小さく声をもらした。
しかしながら声は―ー
「早く言えよ」
跡部の方が先で――
そのうえ……
「誕生日なんだろ」
ぼふっ。
頭に置かれた手は決して嫌な物じゃなくて、ついでにオマケとばかりにおしつけられたマフラーは頭ん中まで暖めてくれる。……当然振り払えないから、不本意ながらマフラーを持った手にうずめられたまま千石は尋ねる。
「これ……」
「バーカ。てめえの考えなんざお見通しなんだよ。俺にねだろうってのは百年早えー」
「ならなん―ー」
「何で?だと?……アーン?うっせーだろうから先にいらねーのおしつけただけだ」
つまり、それがこのマフラー=千石への押し付け誕生日プレゼントだと、跡部は言ったのだ。
気付いた千石はそのまま俯いて……
「はは……」
笑いで肩を震わせた。
その様子に「んだよ?」とか「やったんだから静かにしてろ」とか言う跡部の悪態が、たまらない。
――これだけで嬉しいなんて思わないけどね。
でも喜べてしまうのも本当だ。
-―ただ……
そう、そうなのだ。
――読みが甘いよ、跡部?
与えられた物では満足できないのが人の常。
「じゃ、ご要望にお答えして、静かにしてる。
だから跡部も黙っててよ。気分いいんだから」
――折角の誕生日なんだし。
ずっと狙っていた唇に、軽くふれるだけのキスをした。
別に凄く好きだとか、愛してるとかそういうわけじゃなかったけれど、跡部からもっと反応を引き出したかった。もしくは気になって仕方なかったのかもしれないl。本当のところ、どうにも目についていたし。
千石は「らっきー」と呟いて、今度こそマフラーごと沈められた。
のぞきみると、案の定、跡部は真っ赤になっていて、千石気付いてにやにやし、見事に蹴られた。
そうされたところで今日は誕生日。
、「ひどっ」とか「いたいなぁ」とか不満を漏らしながら千石はもますます調子に乗るし、抵抗したくても何となくサプライズな日に負け、移動できない跡部に、ラッキーな気分になるのだが。
Pブログでそのままに〜と思ったけれどUP。せんべが好きらしいと気付いたから。
そのうちサエ不二の騎士も収納かなー……短いのはうろグのままです。