宮殿の庭は薔薇の香りがする。
そのかすかな残りを受けて、騎士団へ通じる渡り廊下を、不二周助は歩いていた。準二等の蒼い騎士姿がまだなれない。
「仕事帰り?」
横からかけられた声に、どきっとして、不二は振り向いた。
相手の出で立ちは、聖騎士の二等の上等なベルベッドで、慌てて、右手を上げる。
剣の腕では自分が上でも、聖都ででの地位はまだまだヒヨっ子(見習い)なのだ。
ところが、敬礼の姿勢をとろうと慌てた不二の手は、宙でこの旧知の相手に止められてしまう。
相手――佐伯虎次郎は不二の幼馴染で、今もよき友で……こっそり同じ屋敷で生活をしていたりもする。
聖軍の二等騎士と、準二の見習いが同居といえばたたごとではないが、何のことはない。単純に、先に都に出ていた不二の姉に仮住まいを取らせてもらっているのだ。
佐伯はフェイバーの正規軍から先月付けで急に都に召集されて住まいが見つからず、不二は予定通り見習いとして都に出てきたはいいが、寮にあきがなかったため姉、由美子のところに〜……とまあそんな理由である。
「気にするなよ」
「気にするよ、佐伯。びっくりするじゃないか」
ほっと胸をなでおろすもつかの間、佐伯はにやっと不吉な笑顔を見せた。
嫌な予感に、不二は反射的に歩調を緩める。
――佐伯は王城だと意地が悪いからな……。
それもこれも、家での順位付けが外でと逆――屋敷では、大分不二が佐伯をやきもきさせている――せいだが、本人は無意識か、意識的かそれを忘れているのだ。
「たまには……手合わせしないか?準二相手じゃ、不二もなまるだろ?」
――なるほど、何か賭けたいのか。
付き合いが長いせいか、もうお互い、大体の思考は読めるのだ。
「どうしようかな……」
思わせぶりに言うのは自分を優位にするため。
本当は階級違いがこんな口を利いていたと、ばれるだけで危険な社会なのに、不二の口調は変わらないどころかふてぶてしさをました。
微笑の隙間に、視線が剣呑な光を強めた。
――交渉してあげるよ?
佐伯は気づいているのに違いない。
だが、「ゆっくり考えろ」とばかりに、のんびり微笑み返してくる。
「そうだね……」
精神的に優位でなければ、この銀髪の美形騎士の相手は務まらない。飄々としていなければ、不安がるし、ましてや甘えてみようものならペースを崩して聖騎士を廃業しかねないのだ。
――試してみたいけど、今はいいや……。
せっかく一緒にいられるのだ。
お互い、破滅しそうだと、別れた二年前の悲劇を繰り返す理由はない。
不二は、「ソウイウ思春期は抜けたつもりだ」と言い聞かせ、答えを告げようとした。
が……。
それより先に佐伯が遮る(*注*だびでの洒落じゃありませんw)
「駄目じゃん、たまには――」
シャッ……
手をかけられた剣が抜き身の輝きを放ち、
「マジにならないと……」
切っ先がこちらに……
――右、来る!
その刹那、不二はごく当たり前に剣で、その重圧を受けた。
「……いいの、佐伯?剣を向けても――」
この敷地内で剣をぬくことは勿論、私闘は一切禁じられているはずだ。見習い含め、剣技の時間以外は。
「まずいのは、不二だろ?」
「聖騎士はいつそんなに偉くなったかな?」
「侮辱罪だぞ」
国王への謀反の響きすらもある響きに、呆れた目を覗かせた佐伯だが、すぐ一転。不二に何を言っても無駄だと認めて、肩を竦めて見せた。
いつでもそうだ。
――甘いんだよ、君は……。
「相手はいつでもする。受けてたとう――君の名誉が傷ついてもいいのならね」
これで引き下がってしまう。
それがお互いのスタンスだった。
つかず、離れず――
――言葉遊びみたいだね。
聖都に出ても、時がたっても……
それから、立場が変わっても同じなのか。
佐伯は剣を丁寧にしまい、不二もそれにならった。
目を閉じ、そのまま歩き出すとき、妙な脱力を感じたのは秘密だ。
きっともう言えなくなる。
――気持ちが風化する、その証みたいだね……
だが、センチメンタルになりかけた不二を、予想だにしない腕が引き止めた。
懐かしい匂い……。
「ペナルティ1だ」
「え?」
突然で反応できぬうちに、引き寄せられた耳元に、ささやきが届く。
「――帰ったら辱めないとな」
「さえ――」
それは中庭の秘密。
二人に何が起きたか、その後に何が会ったのかは……騎士団どころか国王も知らない。
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この設定のサエ不二もん山ほどやりたい……という主張で。
うちでBLっぽいのって これくらいじゃ?という気がするこの頃
基本パラレルノットカプサイトなのでOKですが。
2005/10/30(初出 IN ブログ) 再録07/27