■ 表と裏  どちらも俺だとしたら どちらがお好きですか?


「あーっくん!」

 シャウトして、

「うぜぇ」

と、けなされつつも、俺とあいつは友達なのに。

「てめぇ、何企んでだ?」

 なんてしごく静かに屋上で応戦されたとき、胸に穴が開いた……そんな心持がした。

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「なあ、南?」

 部長、昼休み、愚痴=会社勤めでもない俺の日課。
「うぜぇ」とは南は言わなかった。
 ただ、適当な相槌を打つ。
 適当っていっても、テキトー(イイ加減)ではなく、適当(好い加減)
 ……あれ?説明になってないか。

「俺さ、あっくんの友達だよね?」

 青春真っ只中な会話に落とし込んでみる。
 相手は一瞬呆然とした。

「どうした?」

「馬鹿だろ?」と顔に書いてあるから、ちょっとむっとするが、仕方ない。(俺だって、そう思うよ、正直)

「友達にもナイショのことって、子供の頃ばれたときどうしてた?」

「今も子供だろ?」

「小学校とか」

 小4のとき、裕美ちゃん(名前うろ覚え)のこと好きでさ。
 親友のみっくん(こっちは多分あってる!)に先に「ゆみちゃんが好き」って言われたら言い辛くなってナイショにしてた。
 そんときとか……
 俺どうしてたっけ?

 聞いたら南は呆れ顔。

「千石。お前、それ他の人に散々やってるタイプだろ?……むしろ俺のがそういう状況になる役回りのような……」

 うん。自分がよくわかってるね。南。
 エライエライ。
 撫でてやろうとしたら殴られた。
 でも、すぐに真っ直ぐな目を向けるんだ。(こういうところズルい……悔しいけど尊敬。)

「……亜久津と何かあった?」

 図星。

 切り替えの早い、部長さんで助かるよ。
 ちょっとそれこそ秘密にしてて欲しかったかもしんない。(たとえ感づいたとしても。)

「少しばかり嫌われたかも」

「なるほど」

 南は何も分かってない。
 知られたらコトだ。(実際何があるわけでもないけれど。)

「【ナイショ】があるのか?」

 そうです。
 そのとおり。
 言えない重みが甘くて、苦い。
 胸をカラメルの液が滑り落ちてくみたい。

「打算で出来た友達だと思われてる」

「……そこまで器用じゃないだろ?」

「わかんねー」

 俺は計算のできる男です。
 でも気持ちは結構まっすぐなの。わかれよ。

   黙り込んだら南はため息。

「あのなぁ。俺となんで友達やってんだ?」

「朝の宿題見せてくれるから」

「ああ、そうか。そうか」

 南、嘘だよ。
 まー半ば本気だけど。
 あと、ほらこうして話ししても(忘れてくれそうで)楽だし。
 ……嘘だよ。ごめん。

「いいんだよ」

「え?」

「いいんだって」

 南は言った。
 恥ずかしそうに横顔の頬を紅潮させて(俺のが恥ずかしいと思う)

「それでも俺は別にいいぞ?」

 殺し文句だと思った。

「あっくんは?いいって言うと思う?」

「亜久津は亜久津だからな。なんていうか分からねーよ。でも、いやなら無視すんだろ」

「……確かに。」

「――あいつ、壇はまだしも他の連中にはいまだにガンたれてるぞ?」

 南の告白は悪くなかった。
 でも、俺秘密がある。
 それがあっくんをどうこうはしないし、変えられやしない事実は分かってるけど。
 あっくんが大好きで、でも大嫌いだって思う瞬間がある。

「からかったあと、自己嫌悪に陥るくらいならやめとけよ」

「分かってるって」

「分かってないだろ?お前のそれは罪悪感」

 ナイショ自体は罪じゃないんだって南は笑った。

「スパイスだよ。ある意味で」

「何それ?」

「千石が考えてることは全部読めないけど」

 『だから楽しい』って聞こえた……

「本当?」

「ホント。女の告白みてーな返事させんな」

 げっ

「うわ、最悪」

 そうか、そんな風にあっくんが思ってるんなら悪くない……。
 ただ……ナイショがきちんとナイショになってれば。

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 次の日は部活が休みだった。
 さっさと帰る道の途中、あっくんの影発見。
 自販で煙草はやめましょう。

「あっくん」

「んだよ?」

 間髪いれずに戻ったこの返事は?

 そっか。
 気づいてて……?

「あのさー亜久津、俺、お前のこと好きだかんな」

「あ?」

「あ」に濁点がついてました。
 でもこの際まとめて意識の中からスルー。

「まとわりつくのやめないしーそんで多分そのせいで楽しいこととかあって……それも諦めない」

 そう、例えばそれが痛かったりしても。
 例えばそれがこいつには面白くなかったりしても。
 こいつ自身といることも一つやっぱり大切で。
 嫌いなんかじゃないし。

  「ゴマすってんじゃねー」

「……する」

 わかってんのかな?
 俺が好きだって。
 お前が好きなんじゃない。
 お前は好きだけど、切実に……。

「だって、あっくんかまってくんないんだもん」

「てめえの狙いは何なんだよ?」

「あっくんの友達」

 その場所。
 でもそんなの立場だけじゃなくて、

「了承してくんなきゃやだ。てか了承しろよ?じゃなきゃ離さねー」

 噛み付くみたいに言って、ホントに腕を放さなかった。
 こっちを見た亜久津の驚いた顔。

   うん。欲張りでいいじゃん?
 俺。
 らっきーだからどっちも手に入れないと気がすまない。
 実際それで何一つ残らないとも思わないし。

 亜久津はゆっくり俺の手の力を少し緩めて、その隙に煙草に火をつけたけど、無理に腕ごと引き離したりしなかった。

「……ちっ」

 こちらを見やって、

「……めぇも……」

 何か呟いたが、それが『共犯』ってやつだと気づいたのはあっけに取られた俺の腕があいつの制服から離れた後のこと。

 苦くてそれだけじゃ飲み込めないヤバイ液みたいな、カラメルがプリンの上に納まった。
 ぽっかりした空洞がふんわり満たされて、未だにたべられやしない欲望ごと満たしてく。

「……共犯になってくれなくていいのに」

 俺は犯人になれないから。
 お前はそういってくれたんだろうけど。

 彼女が好きなのはお前で……俺は好きでも子供じゃなくて、そうも見られたくなくて。
 奪うには足りなくて。
 満たされなくても、その中途半端な隙間に、優しいプリンの匂いを嗅いでいたいだけで。

 表も裏も、どちらも俺で。
 それが理解されてしまったら、俺はどちらでいればイインデスカ?

 あっくんの残した消えきらない煙草の赤が、当たったわけでもないのに痛かった。(根性焼きされたみたい)

 E N D

 

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