■ 音はいつでもここにあるから。


 え?可愛いってスキルを、いつの間に取得したって?
 ……んなの昔からじゃん?

 言ったら南に殴られた。

「もともと子供(ガキ)だったのは認めるけど、お前、今浅ましいほど男(ヤロー)だと思うぜ?」

 ああそうさ。
 で?

「しかたねーだろ」

 珍しくワイルドに決めたら(とか思ってる地点で俺も最近ぶってるよなあ)南は呆れ顔で、「どっちがお前らしいんだか俺も分からなくなってきた」と俯かれてしまった。

 音がすんだよ。
 それをシャットアウトしたいんだ。

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 元凶がやってくる。
 俺を可愛くした被告人で、多分俺を男にした犯罪者(確定)。

「お買い物?」

 後ろから狙い済ませたように声をかける。
 本当は女の人には警戒されるので、あまりやらない。
 ナンパ目当てなら、自然に、斜めくらいからでやめとく。
 あるいはわざと気配を悟らせる。
 それができずに、一歩踏み出すのは彼女を驚かせたいからでもなんでもなく、勢いがないと躊躇する自分を知っているから。

「あら、また会った。偶然ね?」

 あっけらかんと言う彼女はさほど驚いてなくて、(いっちゃなんだけど優紀ちゃんはどっか抜けてるから)それもまた気に食わないのは男認識されてんのか、俺が不安なせいだろう。
 下げている買い物袋からは大根が飛び出ていて、主婦を主張する。
 それも新婚さんみたいでいい。
 ……確かに俺の趣味は大分変わった。

  「帰るから、途中まで一緒かな?」

 歩き出した彼女に慌てて袋を奪った。

「いいよ、これくらい」

 いえいえ、そういうわけには行かないのです。
 狙いがあってのことなので、素直に甘えててよ。

 腹のうちを隠して、千石清純(不純だらけ)は微笑む。(どうせ通じやしないのは百も承知)

「任せろって」

 少し男を出して。

「そう?ありがと」

 優紀ちゃんはお言葉に甘えて、と珍しく預けてくれたのだけれど、

「なんか今の言い方、仁に似てない?」

 もっと楽しそうに笑って、俺の地雷を踏んでくれた。(毎度のこと)

「そんなことないよー」

 ハハハ……
 これのせいかよ、ガキ扱い。
 これでは可愛いキヨ君でいる他ないじゃないか?
 なあ、南?

「あれ?……よく会うあたりも似てるかな?」

 それはあっ君の優しさ。
 あっくんは優紀ちゃんが絡まれやすい(放っておくとナンパされて、拉致られかねない)と知っているから、わざと彼女のコースを調べて待っている。
 俺はあいつの早退の理由を知っていて、いつも見ないふりしてる。
 先生に誤解されるあたり、損だと思うが、あんまりやるとそれもまた優紀ちゃんに泣かれるから実は時折勉強で補ってて、担任の教科なんかは補習には絶対ならないこととか……。
 武士の情け以上に、俺の意地で黙りこんだ。

「俺はね、優紀ちゃん目当てなんだよ?」

「またまた……」

 ははっと声をたてて笑う彼女が可愛くて、

「本当だってば」

「嘘のふり」をついた。
 嘘はつかないけど、声がいつでも本当を嘘にしてる。

  「キヨ君、お上手ね」

 帰りがけに見かけた彼女は偶然ではなく、この店がお買い物コースだってことは南からリサーチ済みだった。(南は偶然ならいいことを教えてくれるんだよ)

「そんなことないよ。優紀ちゃん、可愛いもん」

 黙ってて。
 俺に嘘をつかせないで。

「嬉しいこといってくれるな」

 お姉さんがおごってあげよう。
 優紀ちゃんは自動販売機に駆け寄って、お気に入りのお茶を買ってくれた。
 いつもの公園の入り口だった。
 ここで別れることになってる。
 俺の家は左で、彼女は右。
 本当は違う。
 もっともっと遠い。
 でもそれが言えずに、俺はまた嘘をつく。
 そんな、会うための嘘なら別に痛くなかった。

「ありがと」

 ペットボトルを受け取って、ふたに手をかける。

 そういや、彼女にとってあげたあのパンダどうしてるかな?
 優紀ちゃんの部屋で……可愛く置かれて……一緒に寝てたり…??……

 ――くそ忌々しいやつめ。

 ポジティブな思考の流れを待ちながら、俺はお茶に口をつけた。

「ううん、ホントに優秀なボディガードだって思うよ」

 優紀ちゃんが腰掛けたので、それにならって……

「……へ?」

 うっかりスルーしかけた言葉を頭の中で繰り返し、とまる。

「あの子ね、時々授業抜けて私に見つかるの。どうしてだろうって考えてた。……ずっと分からなかったのね?」

 ああ、亜久津のことか。
 分かったときも胸は苦しくなかった。
 とっくに知っていることだ。
 親は子供を心配して当然だと、最近俺もそう思えるようになった。
 ヤキモチは時折あっても、「慣れ」や「耐性」だって出来てる。
 何より、そういう肉体関係(カラダ)抜きに『大人』ってやつを一つ教えてくれたのは彼女。

「もう分かってるんだね?」

 黙ってるなんて俺の思いあがり。
 見透かされてる思いやりが少しだけ痛んだ。
 それが自分のためであると知ってるあたりが、「ガキ」で、それがいたみを生む。

「うん。だからね、キヨ君にはもっと感謝」

「なんで?」

 なんで貴女は簡単に受け止めてしまうのだろう。
 それでいて、本質は無視してくれる。

「だって、仁のこと分かっていてくれてるでしょ?それでこうして代わり役をやってくれる。もっとスマートに……。ごめんね」

 『ごめんね(見抜いてて……。)
   (そうじゃない方が楽だと思うけど、)どうしても嬉しくて……』

 目が語る言外の言葉に流したかったのが涙なのか、溢れるほどの愛しさなのか、もう俺には理解できなかった。
 ……痛い。
 指先がしびれるほどうずく。
 思いちがいなんかじゃないと分かるのは心臓からダイレクトに音(声)が響いたせい。
 雑音には決してならないのに、辛かった「音」に俺は自分をごまかした。

「あっくん女の子苦手だからね」

 大得意『ガキ』のふり。

「母親だよ?」

「全般だもん。俺逆だし?」

 可愛くおどけて……。

「ハハハ、女の子泣かしちゃ駄目よ?」

 …………………。

「――泣かさない」

 ガキになれ!と思ったら思ったで、コントロールできなくて、真剣さを隠しきれずに瞳がぶつかった。

「……本当に格好いいね」

 もう黙って。
 本当だって分かるから。
 フィルターが今はきかなくて、大人と子供の中間の二種類、どちらも使えずに胸が痞えた。

  「そんな風に見たら、女の子的にイチコロだよ?」

 女の子はいらない。
 貴女がいいんです。
 彼女の声は雑音じゃない。
 避けようとした声は、めちゃくちゃクリアーに聴こえ始めている。

「……「元」女の子だもん。分かるな。……もてる理由」

「ね、優紀ちゃん。ちょっと黙ってて……」

 それ以上何か言われたら鼓動が五月蝿くなって、話すどころじゃない。

 ……て……馬鹿か、俺?
 話さなかったら何で一緒にいんだよ。
 声聞かなきゃ何のためにいんだよ?
 いつも必死にごまかしてるって、馬鹿か、俺?

 それでも隣で笑っててくれる彼女が可愛いかったから、取り合えず「ゴメンネ」と呟いた。

  「……恥ずかしい」

「機嫌悪かった?」

 笑う君に教えたい。
 違うんだってば。
 声の変わりに鼓動をききやがれ、ちきしょー。

 ぎゅっとしようと思ったが、後のことを考えてやめておいた。
 ふざけたふりでスキンシップするのは得意だったのに、意識した途端これだから……

「ガキでゴメン」

 言って、しょげるふり。
 覗き込んでくれる優紀ちゃんにキスする夢をみた。
 現実はナデナデ……とかされてたけど。

 格好悪くても接触を求めるよ、即物的だもん、オレ。

「素直だと思うよ」

 嘘ついてることも見抜いてるのかもしれない。
 本気だとは分かってなくても、どこかで大人ぶりたい子供で、子供にもなれない俺を、優紀ちゃんは分かってるのかも……。
 幻想だと思いたいけど、幻想じゃなさそうでそれも嫌だなあ。

「ぷはっ……」

 ペットボトルの中を飲み干して、

「サンキュ」

 笑っておいた。

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「不毛だな、相変わらず」

 南は言う。

「ソウデスネ」

 タモさんに答える女の真似して、不機嫌づらを隠さない今の俺はガキ。

  「男なんて元来ガキなんだよ」

と、格好つけてみたけど、何より中途半端を格好いいと言えてしまう大人の彼女が憎らしくて、愛しいから……。

「で?」

と、南が俺の真似。

「音も何もお前、彼女の全部の音拾ってどうすんだよ?……きこえねーもんまで聴こえるようじゃ腐ってるぞ。頭」

「沸いてていいよ。俺、好きだもん」

 そうだね。

「ついでに夜、鳴き声とかも聴こえるかも……」

 ばこっ

 南に殴られたー。

「そりゃ、幻想(つーか妄想)だろ」

「だから、ガキはガキなんだよ。可愛いとこあっても、それがOKだったりすんだからさぁ(ほら、付き合ってきた彼女たちみたいに)それ利用できりゃ立派な男だろ?」

「ああ浅ましいな」

 浅ましくていい。
 音はいつでもここにあるから。
 たぶん優紀ちゃんの声なら、いっつも聴こえてる。
 シャットアウトできねーんだったら、取り込む(てか、取り込まれる)までだよ?南?

 E N D

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だらだらしてまふ。(意味ねー)

 

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