仁はきっと、私が嫌い。


私は、仁が好き。





大好き。












ご   め   ん   ね   。













その日は喫茶店で休みを貰って、久しぶりにショッピングへ出かけた。
確かにいつも【買い物】はしているけど、夕食の準備とかで義務的なものだったから、今日はすごく楽しみにしていた。
欲しかった淡いピンクのスプリングコートを買ってお店を出る。このお店はサービスも良いけど、雰囲気が静かでとても気に入っていた。
お店のシンプルでかわいいショッピングバックを手に大通りをしばらく歩いたところで、私は見慣れた山吹の白い制服を見かけた。

(今日は午前中授業だったのかしら)

どこかで見たことがあるような後ろ姿だった。ぐっと身を乗り出して、反対側の道路を見つめてみる。
長身で、銀髪の…

「仁!」

思わず声に出してしまった名前。
点滅を始めた信号機にはっとして、急いで横断歩道を渡る。近づくたびに確信していく仁の後ろ姿。自分の息子なんだから、母親の私が間違えるわけがないし。
歩きにくいパンプスで、ようやく仁に追いついた。

「仁!こんなところでして何してるの?」

ポンと背中を叩くと、いつもどおりのキツイ視線が私を睨みつけた。
それは別に慣れているから良いとして…

「あの…っ」

仁の大きな背で見えなかったけど、仁の正面には栗色の髪にリボンをつけたかわいらしい女の子がほっぺたを赤に染めて俯いていた。服装からして山吹の生徒みたい。
これはもしかして…。

「仁ってばけっこうモテるのね」
「うるせぇ。おまえこそここで何してるんだよ」

ぶっきらぼうに言っているが、照れてるだけだった。でもそこが仁のかわいさでもある。

「私はただの買い物よ。仁を見かけたからここに来ただけ…っと、いけないわね」

この子をほおって話を進めるなんて、母親としていけなかったわ。

(もしかしたら仁のお嫁さんになる子かもしれないもの)

自分を適当に納得させて、さっそくその子に声をかけようと視線を正面の女の子に移す。だけど、女の子は私を見るなりじわりと涙を浮かべて、手に持っていたお菓子の包みのようなものをさっと後ろへ隠してしまった。
そして、予想外のことを私と仁に言った。

「ごめんなさい!亜久津先輩、彼女いたんですね…っ。私、その…、失礼しますっ!!」

バッとお辞儀をして、女の子は走り去ってしまった。私は彼女の言った言葉に呆然としてしまって、彼女を呼び止めることも、仁を追いかけさせることも忘れてしまった。



私が、仁の彼女??



「――――!ちょっと…っ」

はっとして女の子を呼ぶ。しかしすでに女の子の姿はもう人ごみの中に消えてしまった。当の本人である仁はぼさっと突っ立っているだけだし。

「仁!なんであの子のこと追いかけないのよ!」
「別にどうでも良いぜ、あんな女」
「バカ!そんな言い方あの子に失礼じゃない!」

しかし仁は『ケッ』と悪態をつくだけだった。

(ったく…この子はどうしていつもこうなのかしら…)

昔から素直じゃない。ケンカはすぐするし、学校で問題を起こしている。
だけど、仁は悪くない。


だって、あの子みたいに仁の良いところをわかってくれる子もいるんだから。


それより、今思えば、仁は私から迷惑をたくさん受けている。
さっきのことだって、私がいなければうまくいっていたかもしれないのに。
仁は元から無口だ。だけどそれはただ単に喋らないわけじゃなくて、意図的に口にしないだけ。

「おら、家に変えるぞ」

ほら?今も私を責めないでしょ?

「うん」

仁は優しい。母親の私だけ家庭で、私が今までいろいろあったことを知っているから。
今日の出来事は、私の中の不安をふつふつと浮き上がらせるようなことだった。


(私は仁がいたから1人でも今までがんばれたのに、私は仁に何かできていたのかな?)


私が悪かったのに。私が迷惑をかけているのに。
仁は私のこと、嫌いだよね?
そう言ってよ。嫌いだって、言ってよ。
親子なんだから、ちゃんと言って。不満もたくさん言ってよ。





「……ごめんね」





人通りが少なくなった住宅街。夕日が私と仁の影を長く照らす。
立ち止まって、私は仁の背中に謝った。

「仁、ごめんね。いつも私が…、お母さんが迷惑をかけて…」

仁は振り返らなかった。
お化粧が取れることも気にしないで、私はぽろぽろ泣く。

いつから仁のことわからなくなっちゃったのかな?
………違う。わかっているふりをしているだけで、本当は仁の気持ちを知るのが怖かった。
私は仁が好きだけど、仁が私を嫌いだという…その気持ち。何気ない今日は、それを私にぶつけてきた。

何歩か歩いて、仁は足を止めた。
そして正面を向いたまま、言った。



















「バカ野郎。そんなのとっくにわかってる」



















無口な仁。
だけど、その一言でいろんなことが伝わってきた。
私は母親だから。あの子は私の息子だから。

相変わらず歩きにくいパンプスだったけど、私は走って仁の背中を抱きしめた。
そしてもう1度謝った。

「ごめんね」
「あ?」
「先に謝っておくわ」














これからかける迷惑の分、よ。














その日は照れる仁を言いくるめて、手を久しぶりに繋いだ。
夕日が私と仁の影をゆっくりと伸ばしていった。


























あとがき
R計画の千優仁同志様へ、お世話になっている御礼にプレゼントさせていただきます。
リクって初めてだったので、本当に緊張しながら書きました。
リクは【優紀ちゃんとあっくんの親子日常話】ということでしたが…全然日常っぽくなかったかも(−−;)。途中でシリアスだったし。
ですが、私は優紀ちゃんとあっくんはこういう関係だからこそ成り立っているんじゃないかな〜という妄想(笑)があったので、これを機会に実現させてみました。
いつの間にか【普通の日常の中でふっと見つける不安】というものがテーマになってしまいましたが、プレゼントさせていただきます!
そして千優仁がもっと広まるようにがんばりたいです。


コメント>>
初頂き物です!!
こちらとしてはむしろ書くの苦手なアックンこと亜久津仁の日常です。
ビバ優紀ちゃんです(←おちつけや)
無理やり同志呼ばわりしたあげく、二つ目のキリリクまでしていただけて、光栄のきわみ。
というわけで……千優仁(うちは基本きよゆですが、この亜久津一家の親子な感じが大好きなのです)布教にこちらも走りたいと思います。
……そろそろ、軽いのやらギャグも書け自分・汗(そっちが元のはず……はず……)