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EPISODE:00> Three month ago〜再会〜(後編)(SIDE ATOBE) 仕事にさえ慣れてしまえばそこは地上と変わりなかった。 「跡部(あれ)はじっとしてもいられないだろう」 かつての恩師はため息がてら、外出を許したのだと、千石に聞かされた。 お飾りから昇格するまで、どんなに早くとも三年はかかると肉親ですら踏んでいたのだ。戻ったら――戻れるかどうかは分からないが、テニスをプロとして愉しむ時間はなくなるかもしれないが、生活に困ることだけはないように思えた。 「ねえ、跡部君」 「んだよ……」 考えにふけっていたら、横から、待機に飽きたらしい『上司』(不本意だが千石が直属の上司になっていた)が、覗き込んできた。 「俺がどうして雇われてるか、聞かないんだ?」 (きいたところで意味がねーじゃねぇか) それもそうだね、という風にオレンジの髪は、勝手に人の気持ちを読み取り、相槌を打った。 「インサイト、なら、もっと詳しく分かるのかな?それとも俺の方が上?」 「何がだよ」 「この間、教えたじゃん。読唇術と読心術」 「……んなの、インサイトの応用だろ?」 所詮は分析力と、人を見抜く目。 「そうだね。俺もナンパは昔から得意だし?」 ――訂正。実際軽いのかもしれないが。 「……ていうか、テニスしない?」 「気がむかねーな」 「なら仕方ないな。じゃあさ、俺の話聞く?」 (仕掛けてきた、か?) それとも純粋に、話し相手に飢えているのだろうか。 比較して、なんだかんだで、このぐうたら上司に気を許してしまっていることを思い知らされ、跡部は顔を歪めた。 「……意味があるヤツならきいてやってもいいぜ」 「ないかもな」 「なら話してんなよ」 「だからさ、跡部君が話してよ」 「……あ?」 ぶっきらぼうな言い方が、千石らしくない。 「しらねーのかよ」 思わず声が裏返ってしまった。 「跡部君は吸わないよな?身体に悪ぃもん」 「…まあな」 本当はあまり好きでない苦味を吸ってでも、紛らわしたい沢山の疑問符があったが、「ここを出た時のために止めとけば?」と言った千石に、手を引っ込めた。 「ヤツラにとって、俺はまだ『部長』らしいからな。こっちもその気が抜けてねぇし」 「へえ。犠牲精神ってわけでもないんだ」 「誰が困ろうがしらねーが、俺はあいつらがテニス出来ねーのに一人でぐずぐずラケット握ってもつまんねーんだよ」 「……なるほど」 明確な脅しがあって、確実に得られる答えがある。 (ちっ……スポーツってのはビジネスじゃねー……) かみ締めた唇が痛かったが、『自分』が巻き起こしただろう事実の方がもっと痛かった。 「フェラーリの社長令息が、セナだったっていう落ちより酷いもんね」 「うちの事業は、そっちは未開発だ」 「だけれど、参入の予定とかちあった」 「……否定はしねぇ」 それだけで、こんなことにはならないが……。 (それにしろ、ここまで腐敗してるとは思わなかった) 「だねー。俺らは地下(ここ)のコートだって、楽しめるのに」 「強いやつとやりたいだけなのにさ」 「一試合するか?」 「そうこなきゃ」 千石はにかっと歯を見せた。 「お前はプロには……」 「なれたかも。けど、色々なもんが足りなかった」 才能とか? 本当に才能があっても、潰すものもいるのだ。 習ったばかりの技術を駆使して、無表情を装い、罪悪感を極力悟らせないよう急いで部屋を出るも、跡部には後ろからついてくる千石の苦笑が見て取れるようだった。 「ま、いいや。天下の跡部様を相手にできるんだし」 「ちげぇねーな。俺のレンタル料は高い」 「いってろ。今度こそ、1ゲームとってやるから」 「低い目標だな」 変わってしまった何かに、目が熱くなったが、先ほどまでの空虚はどこかに消えている。 |
written by MAYMOON