ご近所のお話 |
【SIDE 南】
部活がなかったので、たまには〜と近所のゲーセンに来たら、見慣れた顔と眼があった。
「「あ……」」
間抜けである。
対戦台の向こう側からのぞいてきた向こうも同じような反応を示しているのだが、思いっきり口をあけて、お互い ひと声。そのままぼーっとしている状態だ。
結構恥ずかしい。
それでいて、妙に様になって見えるのは、相手があの流行先進校(だと南からは見えている)氷帝に通っているからか?
短髪の、いかにもな体育会系という部分はおんなじくせに、キャップのデザインも含めて私服姿がこじゃれている幼馴染。
ずるいよなーと思いながらも、このままでは埒も明かない。
そう思って
「亮」
軽く声をかけた。
宍戸亮。
南と彼の間柄は、いわゆるご近所さんで、幼馴染というやつだ。
幼稚園から続く家族ぐるみのつきあい。
最近では流石に忙しく行き来もへっていたが、引っ越していないだけあってそうかわるものでもない。
相手が氷帝なんていう名門に入学してからも、なんのかんのと顔を見れば挨拶をし(相手の家族、犬も含め!)……
試合であえば言葉も交わし(なんせ同じ部活!)……
母親同士のつきあいのせいで情報は途切れない(ご近所だからこそのネットワーク!)。
というか、もともと行動範囲は被ってるのだ。
――このあたり他に遊ぶ場所あんまないしなぁ。
単純にお互い遊ぶ暇なく直帰のテニス部だというだけ。
――ということは……。
「氷帝は今日部活休みか」
「健こそ。てか、俺はもう帰るんだけどよ」
「え?せっかくだから一戦と思ったんだけど」
「わりぃ。金が底を尽きた」
「あー」と納得する。
南の知る宍戸亮という人間はゲームは弱くなかったけれど、自分と同じくテニス漬けなのだ。
――俺もこの分じゃ負けて金が消えるだけか。
ついでに言えばせっかくあったのに、ここでお別れも味気ない。
かといって、おごるほど所持金もあるわけでもないから簡単に答えは出た。
「あー、なら俺も帰るわ」
「いいのかよ?」
「ああ。暇潰しで来てみただけだし。でさ、せっかくここであったのもあるし、うちにゲームしにこない?」
――それって、結構ありじゃないか?
自分のだから当然飽きているものもあるが、亮が全部やっているとも限らないし、何よりそれを口実にぐだぐだと話したい(愚痴りたい?)。
某オレンジ色の髪の友人に影響されてか、幼馴染の気安さか、やたらと行動力が上がっているせいもあって、あっさり言えた。
「お金つかわないですむだろ?」
南健太郎(合言葉は気遣い)が後からどきどきして付け足すと、宍戸亮(合言葉は単純)からは、おうと、短く返事があった。
* * * *
「うちもPS2はあんだけど兄貴のなんだよなー」
「ああ、分かる分かる。普段使ってないだけにやりづらいの。しかも亮の部屋って、たしかテレビなかったもんな」
おぼろげながらに言ってみれば、「そうそう」と肯定。
「で、せっかくなら、お前んちにないやつがいいよな。どれにする?スネークとか」
「PS3?」
「ないない。あーそれより、さっきやってたのって格ゲー?」
ゲーセンでやりたりないなら……と提案してみたが、亮はうーんと唸っている。
あんまりかんばしい反応ではない。
「無双とかねーの?」
「あー」
「ぶったぎってすかっとするだろ?」
そう言われれば、確かにあればこの幼馴染向けのゲームだ。
でも、残念ながらあのシリーズには手をだしていない。
というのも、よく巻き込んでくれる友人宅にばっちりそろってるせいだ。
「……あー代わりににてるのでいいなら、これとか?意外と好きなんじゃないかな」
その手があったかしめたとばかりに、横の段ボールからあさって手渡したのは……
「あ、BASARAか。これ、な。岳人んちでも売れてるっつってた」
「岳人?ああ向日か」
「そう。電気屋なんだよ、あそこ」
「ふうん。……あ、コントローラ、そこのな。俺はいいや」
何せやりなれてるし、メインは近況話だったりするし。
ディスクセットを任せている間に、南はお茶を取りに行く。
「亮ちゃんきてるの?ご飯は?食べてく?」なんて母親に聞かれたので「きいとく」と返しながら、二階の部屋に再び――
…………と。
亮は画面にうつるキャラクターを観察してた。
どうやら選びかねてるらしい。
「主役どれ?」
「一応、その紅いのと蒼いの」
「健太郎、どれつかってんの?」
「うーん。俺は、猿飛佐助。けど、あんまお前向きじゃないよ。攻撃弱いし、避けるの上手くないとしぬから」
「じゃ、この黄色いのとかは?意外と使いやすそうじゃね?」
「あー、それ、なんか苦手っていうか。うちんとこのエースを思い出すからいらっとするっていうか……」
エースとは言わずもがな千石。
南の厄病神と言われた男。(今は主に大石の胃痛の原因になってるが、相変わらずうるさいにかわりはなく、きゃいきゃい恋だなんだと叫ぶあたりが若干そのキャラクターと被ってる、と南は思っていた)
こっちの渋い顔に苦労が見て取れたのだろう。
宍戸も一応千石とは面識があるのだ。
「そっか。んじゃ、この蒼いのでいいわ」
結局、無難に主役を選んで続ける。
それを見届けながら忘れないうちに〜と夕飯をきいた。
「食べてく」
「わかった。じゃ、ちょっと母さんに行ってくる。――あ、それ、いきなり難易度あげるとしぬぞ」
「おう」
背中ごしに声がかえる。
しばらくぶりとはいえ、気がねする必要はなかったようだ。
久々だから緊張するかも?とおもったのも嘘みたいに、マイペースに幼馴染はゲームを続けている。
放置して、下に行くと、母も母で、分かっていて……「これでも食べてなさい」とポテトチップスの袋を渡された。
宍戸亮大好物!のチーズ味だったりするあたり、親の直観が怖い。
「やっぱ、なんかなぁ」
学校のメンツはメンツでいいのだが、こういう気楽な遊びは息抜きになる、とほっとする南だった。
* * * *
けれどどうして。ゲームをしがてら、ポテトチップスをつまみがてら、話題に上るのは、共通の知人のことになりがちで……いやでも千石が目立ってくるのは、それだけ他校からも注目されているせいなのだろう。
――良くも悪くもあいつは目立つ……
つい苦虫をつぶしたような顔になってしまうが、相手は興味しんしんだ。
「だってよ、選抜だろ。手塚の代わりっつったってすげーだろ」
「まあそりゃ」
部活が休みのとき南健太郎を襲来するちょっぴりはた迷惑な、自称ラッキー少年、千石だが、確かにテニスの腕はいいのだ。
選抜に選ばれたことがまぐれではないことは、チームメイトの南が一番よく知っている。
ついでにいえば、最近はまだ大人しい。(嵐の前の静けさじゃないかどきどきするのだが)
「けど、あれで曲者っていうか、迷惑かけられてばっかりだからな」
「――ああ、そこは何か分かるかもな」
「え?そうか?他校に、やっぱり迷惑をかけてたんだな、千石のやつ。そんなことじゃないかと思ってたんだ、今回の選抜だって……」
「あ、ちげーよ。ちげーって。いうか……うん」
「何だ?亮、歯切れが悪いな」
「おれとしても信じがたいんだが、跡部と連絡とってるっぽいんだよなー」
「ええええええ?やっぱりあれは本当だったのか……」
「やっぱりってことは、やっぱそうなのか」
そうなのだ。
実は、休みのたびにかまってくるので忙しい時は辟易しないでもなかったが、どうしたことか暇な今に限って大人しいので聞いてみたのだ。
そうしたら、選抜合宿で得た「おともだち」とやらとコンタクトを取るのに忙しいと言われたのだ。
「でもあいつの言う「おともだち」ってさ、相手がどうみてるかは怪しいし冗談かと思ってた……」
「……ま、まあ跡部だしな。あいつの私生活、俺らからもちょっと謎だから。慈郎とか岳人とかはわりとつるんでるっていうけど」
「あ、ああ……」
――なんか分かる気がする。
言わなくても、微妙な会話のまで通じただろう。
跡部景吾といえば、他校からも十分認知されるテニスの才能と――……それ以上に派手さがある男だ。
普段どんなセレブな生活を送ってるのか、同じ学校でも理解しがたいのかもしれない。
「でよ、跡部がいきなり携帯いじってっから、慈郎がふざけて誰だってきいたんだよ」
「それが千石だった、と」
「たぶんな。女じゃねーじゃんって慈郎のやつはつまんなそうにスルーしてたけどな。その後、『え?ちょっとまって、うけるー』とかいってたから」
「へ、へえ……」
「それより、選抜の話だが、どうだったんだろうな?」
「跡部にきいてないのか?俺も言ってないんだけど――」
「いや、またこれが……意味わかんねー。跡部の報告、柳のシャンプーだし」
「は?」
「いや、こっちの話。関係ない庶民生活にばっか興味覚えて戻ってきたんだよ、うちの王様。まあそんだけすごかったってことだろうがよぉ」
「ああ、でも今回のメンバーってうちの千石とそっちの跡部以外は全部立海だろ。それなら亮のが知ってるんじゃないか?練習試合だってこないだおばさんにきいた……」
「あー……立海はすげー」
「そうだろうな」
何せ、関東のテニス関係者ならば皆知っている学校だ。
特に今年は【神の子】と恐れられるナンバーワン、幸村精市がいる。
実は南も何度か彼のプレイを見ていて、特に――新人戦のときは度肝をぬかれたのだった。
「いや、なんつーか、プレイってより、なんかあの学校自体がありえねーっていうか……」
ますます歯切れが悪くなっていく幼馴染に、「ああ」と妙に合点がいってしまったのは、そのくだんの新人戦の後のことがあったからだ。
――俺がいうのもなんだけど、実際強烈っぽいもんなー、あいつ。
部長候補同士だからと挨拶をさせられたときの一言目が、「このへんで目つきが悪いワカメみなかった?」だったのだ。
しかも「見ていない」といったら、「そう。ならいいや」で、あとの言葉はオールスルー。
山吹など眼中にないのかとおもって胃を痛めていたら、そうでもなかったらしく……先生が改めて声をかけ直したとたん「ああ、山吹は、君なんだ。ごめん。気付かなくて、地味だから普通に部員だと思ってた」とずばり、人の痛いところをついてくれて――その後少し会話を交わしたものの……
「おれ、あいつと話してて相槌以外打たせてもらってないきがする……」
そもそも、会話といえたのか怪しい領域だ。
何を話していたか覚えてすらいない。
なんせ、幸村と来たら、にこにこ笑顔で人を(強制的に)頷かせ、にこにこ(強制的に)遠ざけ、大抵流れを彼の思うがままに進めているのだから。
「だろうな。何せ『没個性』だし」
「え?」
「…………いや、こっちの話」
まあ、何となく幸村はトラウマを作りやすい人物なので、放っておきたい。
幼馴染の心情を理解して、別の方向に話を映す。
当然その間もコントローラーで器用に相手は敵を倒してヒット数をかせいでいた。(だいぶ慣れてきたらしい)
「ていうか疑問に思ったんだけどさ」
――そりゃ立海はだいぶ変わってる学校だ。
でも、氷帝もすごいとおもうんだよなー
というのが南の疑問。
「いやいや、俺らんとこは……いつもどおりだって」
「いつもどおり、ね」
――ああ、そっか。いつもどおり跡部がのりのりで目立ってるってことか。
あいきゃんあんだすたんど。
画面向こうのキャラクターにつられ、英語風味になりながら、南は諦めて話を続ける。
「じゃあ、さ、立海のどのへんがすごかったんだよ。何となく幸村は……分かるけど、それだけならそこまですごいっていわないだろ。それにプレイとかもやっぱり得るものは大きいだろうから」
正直、練習試合の相手をしてもらえるだけでうれしいレベルの学校であることには違いないのだ。
情報ならば南とて喉から手が出るほど欲しい。
真剣な顔で聞くと、相手は眼を合わせ――
「「…………」」
しばしの沈黙。
だが、それに耐えきれないように、目をそらして
「…………ダブルスが意味なかった」
――は?
またも不可思議なことを言い出した。
「いやうめぇのは認める。というか、山吹のダブルス層があつくても、ある意味でなかなか超えられないっていうか、技レベルでいえば……な」
「へえ。そんなに――でも意味がないって……」
「シングルスやってた」
「はい?それって……」
「手塚と真田だったんだよ。どっちもシングルスしかできねーから結局シングルスっぽくなってて、本当なんなんだか。あ、でももう片方の方はすごかったんだぜ。やっぱり技が全然違う。丸井って、慈郎がずっと騒いでるボレ―ヤ―がいるんだが、あれはファンだって言いきる理由がちょっとわかったかもな」
「ふうん」
宍戸をそこまで言わせるのだから凄いのだろう。
ゲーム機で器用に敵を倒しながら、手を返すそぶりでボレーをまねてみせる宍戸の眼は真剣だった。
「それは怖いな。それから、真田か……。千石は当たったのかどうかわからないが、やっぱり立海の要だな、あの男は」
「男、な。あれでタメとか嘘だろ」
「――だよなぁ。笑っちゃ悪いけど、最初先生かと思ったよ俺」
「俺も」
そこもまた否定できないのが真田という人間だ。気真面目そうだから、幸村の下で苦労してるのだろうが……どうしてもおっさん顔なのである。悲しいかな南にすらかばう理由をうかばせないほどに。
「でもさ、ダブルスはくんでなかったっけ?前の大会んときとかも。たしか、柳・真田とかさ。あと、幸村・柳ってのもあったよな。あのチームはたしか一応ダブルスも両方やってるんだよな。氷帝とかうちとちがって」
「そうそう。だからこその手塚・真田ペアってなるわけだ」
と。
話が弾んでいたら、どうやら気づけば最終決戦になっていたらしい。
無意識にボタンを連打している相手に、南は焦って声をかけた。
「あ、ていうか、ごめん。話を遮るけど次強いからやばいかも」
一度ストップして、装備を、といいかけたところで
がちゃ。
既に次のステージが始まっていた。
そして――
「いやー、たしかにやべー。つえー。てか、これないわ。勝てる気がしねーって」
「え…………?!」
まだ始まってもいないんだけど?
画面を見る。
すぐに映し出されるのは、さっき選ばなかった紅い方の主人公。
登場シーンだけあって、さっきはなかった名前がどどーんっとでかく書いてあった。
――ああ!
「ぜってー勝てるきがしねぇって!」
今じゃなきゃよかったが、タイミングがタイミングだ。
たしかに勝てる気がしない。
なんせ、
「最強のダブルスじゃん。あたりたくねーよ」
画面に現れたのはシンプルな名前
ずばり 真田 幸村
日本史の登場人物だし、武将の名前なのだが、神がかったタイミングだった。
「真田・幸村」=年齢詐称疑惑のある真田弦一郎・怖いおひと幸村精市
くしくも並列にならんだ苗字はダブルスのコールと一緒なのだ。
そういうことである。
「ぶっ」
これには南も耐えきれず思わず吹き出した。
何せ、脳内で浮かんだ絵づらがひどすぎたのである。
南の頭の中では、甲冑が似合いすぎる中学生と素手で戦えそうな中学最強【神の子】が、テニスコートで槍をもっていた。
テラシュール。
そういうことである。
合掌。