日吉による、とある兄弟の観察。(MAIN日吉&不二兄弟) 
【日吉による前置き】

 不二先輩は実は意外と可愛いところがある。
 本人に言ったら首を傾げられそうだが、俺は時々思う。
 もちろん、冗談みたいな騒ぎをしでかす反面、指導はちゃんとしてくれるし(気まぐれだが)俺が困惑している状況もきっちり読んでくれるあたりは、やっぱり大人だ。
 
 一方、弟の裕太は、それに比べて子供っぽい……と思われがちだが、これがまたどうしてか、なかなかに強い。本人はあの兄貴の手前弱いつもりでいるが、それは違う。

「 仲の良い、ある種似たもの兄弟 」

 正解はそれだ。

 *        *      *      *

 その日、日吉若は不二家に招かれていた。
 というのも、最近はよくある話なのだ。
 裕太とはクラスが同じ・かつ部活も同じという仲だから、当然のように交流が深い。裕太自身、うちで姉・兄に構い倒されているだけあって、放っておいてくれるこの友人を重宝しているようだった。
 そのせいか、裕太が宍戸や兄周助にまきこまれ、カラオケやライブに連れ去られない限り、特に用事もない日は同学年同士ふらふらとけ袋や新宿・渋谷くんだりに出たり、まれにだがお互いの家で遊んだりもしているのである。
 そして、今日も。

「ああ、兄貴?大丈夫だって、今日は宍戸さんとカラオケだから。なんでも、跡部部長も巻き込むとか言ってたし、遅いんじゃないかな」

「跡部部長もか……。相変わらず巻き込まれてるな、あの人」

「はは……兄貴のやつ【意外と楽しい】とかいってたから、あれはしばらく絡まれるだろうな」

「大変なことで」

「ま。おかげで俺は安泰だけど。――ところで若、無双強いんだろ?やろうぜ」

「兄が持ってるだけで、俺はお前ほどやってないぞ」

「いいよな、ちょっとやっただけで飲み込めるのってやっぱり武道の心得があるからかな」

「裕太、話しきいてるか?……まあ、ゲームも大方の【型】は弁えているからモーションを見て想像すればそうそう外さないが」

 最初は裕太のうち=不二先輩のうちということで恐縮していた日吉も、このとおりなれた調子で、「お邪魔します」と玄関に入りかかった。
 こういう場面で、きっちり挨拶ができるあたり、育ちの良さが伺えるというものだ。
 裕太の母は、ほがらかに「ゆっくりしていってね」と言い、玄関奥に消えて行ったが、裕太いわく「これから父さんとデートだから、たぶん、途中で出ていく」という話だ。
 案の定、お茶受けとともに戻った彼女は、ここも好きに使っていいからと言い残して去って行った。
 姉は仕事で外。兄は、まだ帰っていない。
 残るは家の中の二人。
 こうなれば気がねはいらなかった。

「うわ、ちきしょーっ、若、頼んだ!」

 裕太はまたも倒れこんだ自分の兵と、MAP上ボスのいるか所の手前にまで走りこんでいる友人の兵を見比べて叫んだ。

「任せろ」
 
 と、口にこそしないが日吉は淡々とボタンを連打し、目標に迫る。
 ライフポイントを手前で取得し、数発長槍を差し込む。
 すると、裕太が苦戦していたボスはあっさり倒れこんだ。
 これでこの土地は制したことになる。

「協力プレイでよかったぜ。俺、このゲームで勝てる気しないもんな」

「前よりずいぶん上手くなったと思うが」

「まあ、兄貴よりはマシってレベル。うちの兄貴、あれであんまりこういうの得意じゃないんだよ。MGSとかも速効やられてるし」

「宍戸さんとつるんでるから、てっきりゲームもやるもんだと思っていたが」

「やるにはやる。俺もまぜてもらって三人でやったりもするけどさぁ、RPGとかSLGの方が好きなんだぜ?渋いよなぁ」

「へえ」 

 日吉はちょっとだけ渋めの表情でうなずいた。
 知ってる先輩たちの、微妙に知られざる情報だけに気まずいというか、「本当に聞いちゃって大丈夫なのか」ということが裕太の話には多く含まれている。
 いう言わないでいえば、あえてばらす相手も見つからないから問題はないだろう。ただ、ここまで素直に裕太がぺらぺらと話すとなると兄のあの人はどう思うのかたまに不思議にならないこともない。
 すると、そのとき、タイミングがよくドアのあく音がした。
 靴を脱ぐ音と、重そうな何かを下す音――テニスバックだろうか。
 何となく、だが、先輩の登場を予感する日吉である。
 
「裕太、先に帰ってきてるの?」

 同時に独り言とも呼びかけともつかない声が漏らされる。
 噂をすれば影、である。
 裕太のうちで彼に遭遇したことは実はまだない。
 ついでに言えば、居間を陣取っていたこともないから、流石に普通ならば緊張せざるを得ないところだろう。
 ところが、日吉は肝が据わっている方だったから、裕太に「先輩帰ってきたけどいいのか?」と、静かに聞くだけだった。
 裕太は、「はいはい」と、促されてドアを開ける。
 曇りガラスごしに、周助の大荷物が(部活でもないのに打ってきたのか?)見えたからだ。どうやら手がふさがっているらしい。
 
 がちゃん。

 あけてやると、どばっと大きなラケットバッグとともに噂の人が現れる。

「ただいーぅぉっ!……あれ、きてたの、日吉」

 日吉は、ポーズ画面に切り替えてからコントロールを置き、軽く立ちあがるとぺこりを頭を下げる。

「お邪魔しています」

 律儀な少年だ。
 ……と周助が思ったかどうかは分からない。
 ただそんな弟の友達(後輩)の様子に、びっくりして叫んでいたことに気づかれていないと見たのか、にっこり笑顔を作りなおした。

「ゆっくりして行ってね」

 その顔は完全無欠なお兄ちゃん。
 くるりと回れ右をして、左の階段に向かっていってしまったが、日吉はかの人の動揺に気付いていた。
 なぜなら、段を上がりながら「あーびびったぁー」とかなんとか(本人はちっちゃいつもりの声で)言っているのがばっちり聞こえてしまったからである。

「悪ぃな、若。兄貴のやつ、いつもなら平気で乗り込んでくるくせに、妙に愛想なくて」

 これだからこの兄弟は面白い。
 不二周助という先輩は弟の手前、あわてた自分を見せたくないなんて可愛いところをもっているし、弟は弟でその「余裕のある兄貴」を疑問視すらしていない。
 あくまで「弟」の可愛さを失わない少年と、頑張ってちゃんと「お兄ちゃん」する兄。
 日吉はふきだすのをこらえるのにやっとだった。
 
「どうかした?」

「――いや、何でもない」

「あ、そうだ。兄貴も一緒でよければ、夕飯どっか食べに行こうぜ。外行けって母さんに言われてるんだ。それともお前んちもう用意しちゃってる?」

「用意は、まだ大丈夫だと思うが……」

 さっきのいまでは、先輩も落ち着かないだろう。
 判断して、この中で一番大人かもしれない判断を下す。

「今回は遠慮しておく。偶には兄弟水入らずもいいだろ?」

 ところが、せっかくの遠慮も、そこは不二の弟。

「つっても兄貴と二人とか微妙だしさ。いいよな?」

 笑顔で変に押しが強いところは意外と似ているのだ。
 結局、数分しないうちに着替えてきた周助も、意地になったように「弟の友人と仲良くしよう作戦」をしかけてきて……なし崩しに、兄弟に巻き込まれることになる。
 二人の不二に巻き込まれるのは、跡部とおなじ「意外と真面目系苦労人」属性の宿命なのか。
 それでも、日吉としてはこれはこれで十分楽しかったから、「あり」だと思っている。
 いまだ、ようやく不二兄が懐きだした(?といっていいのか分からないが、距離の隔たりが溶けだした)跡部に、「そろそろ諦めて芥川さんと同じようにおもりに回ればいいのに」と呟いて、日吉はせっかくの夕飯を楽しむ覚悟を決めた。
 きっと二人のフリーダムな意見に振り回されることもあるのだろうが、楽しい時間になる。
 そんな確信がある、午後6時。
 家には急ぎで連絡をいれて、一緒に駅前まで繰り出し……帰宅はちょっと遅くなるけれど朝練には響かないだろう。
 今から満足な笑顔を浮かべていると、

「若も結構兄貴のこと好きだよなー」

 と、勘違いともつかない友人ののんきなコメントが耳に入った。

「お前もな」

「え?」

 んなことねーよ、とか否定の言葉も聞かれるが頷いてなどやるものか。
 この兄弟の仲良し具合を知らないものなど部にもいないのだから。
 不二先輩にいじられながら散々かまってもらいたがっている鳳に明日自慢しようか。
 微妙に二人に毒されつつある日吉若であった。

  日吉が来ててビビった兄に萌えてみた、だけの話。日吉と裕太は仲良しだと思う。というか、その学年全般に。鳳はからかわれつつも……な感じでよろしく。裕太は、氷帝設定です。