入 学 式 (不二 and 宍戸) |
(無駄に広いなぁ……)
本日づけ入学となる氷帝の敷地で、不二周助は感嘆の息を漏らした。
ここは、世間一般でいうところのお金持ち学校だけれど、学力重視の試験は難しくて、自分でも受かると思っていなかったし……受かっても入るかどうかで少しもめた。
同時に青春学園も受かっていたのでそっちの方がいいんじゃないかという意見もあった。特に母は、青学に対して、氷帝が、初等部(幼稚舎)からの所謂「上がり」組も多いから友達を作るのも大変そうだ、と危惧していた。
実際は、「お金がかかるからじゃないかな」と不二は冷めてたし、どっちでもよかったのだけれど、結局学費も大差なく……評判もどっこいどっこい。
そこで、結局本人の行きたい方に……という話になった。
不二は幸いここの緑の多い景観を気に入っていて、友達に関しても周囲に溶け込むのは苦手ではなかったから、あっさり氷帝に決めた。
とはいえ、敷地へ立ち入ったのは、テストのときの教室と、学校見学で限られた一区画を除いて、今日が実質はじめてである。
都会の一等地に、どでかい面積の校舎……一貫校らしく整備された区画を、並木道を含めた自然が縁取り、どこからともなく鳥の鳴き声が聞こえる。
新しいばかりか、格式ある講堂も備えた施設と、ばかデカイ校庭には、もう……感動より前に、ただただ呆然とするしかない。
やがて式の時間になって、講堂に集合するよう放送が流れるまで、不二はその壮大な景色をなんともなしに眺めていた。
* * * *
形式ばかりの式が終わり、教室に向かうと持ち上がりの子たちは既に周囲と談笑し、最初こそ居心地悪そうに外部生も、徐々に周りと溶け込みはじめる。
ぼーっとしていると取り残されてしまいそうだったが、面白い奴がいなければ敢えて話す必要もないし、自分の見てくれのよさは分かっているからそのうち誰かしらよってくるだろう。
のんびりと、指定された席を見つけ、腰掛ける。
……と、横から長い髪の目立つ男子生徒が、「よお」と声をかけてきた。
「俺、宍戸亮っていうんだ、よろしくな」
「不二周助。よろしく」
笑いかけると、照れたようにそっぽを向いて「お前、外部だよな」と言った宍戸は、何となく親しみやすい雰囲気だ。
同じ外部生かなという気がしたが、
「いや。俺、上がり」
と、あっさり否定された。
「へえ。……なんか、もっとこうギラギラした感じなのかなって思ってたんだけど……結構、普通?」
最初に氷帝を薦めてきた人は、たしか親類にこの学校の子がいるとのことだったが本人の親ではなかったし、そういうものなのかもしれない。
訪ねてみれば、宍戸も頷いて、
「ああ、かもな。一部の成金くらいだろ……んなの。
マジな金持ちは偉そうにしてないぜ?」
俺んちは中流だけどな。
そう言い、にかっと笑う。
健康そうな、いかにもスポーツ少年といったその顔に、野球部っぽいな……と妙な偏見が沸いた。
「まあ、中には例外もいるけどよ」
「例外?」
「そ。……そのうち紹介してやるよ。っていっても、王様みたいなやつだから直ぐ分かると思うぜ。
……それより、外部のが金持ちっぽいって。…お前もじゃね?」
「そんなことないよ。うちは普通の外資系」
「おら。知り合いに、クリーニング屋の息子とか、電気屋とか結構いろいろいるけど、そっちよりよっぽど金持ちっぽい」
ちなみに後で紹介されて知ることになる宍戸のスクールでの友達や、幼稚舎からの腐れ縁は確かに庶民風で、不二も「彼らに比べればはるかにお坊ちゃまなのか」と納得することになる。
だがその時は、そうは思わなかったから、「ははは」と乾いた笑いで、
「響きのせいじゃない?」
と受け流しておいた。
宍戸もあっさり、「かもしんねー」と肯定していたし。
暫くするとチャイムがなり、軽いホームルームが始まる。
席もラッキーなことに近かったため、こっそりと会話を続けてみた。
教員は、中年のちょっとかわったところのある美術担当で、どこかにくめない愛嬌のある顔をしていた。
私語は気にしないらしい(ラッキーだと思う)
それでも、初日からははばかられて筆談にきりかえたが、宍戸は話せば話すほど話しやすいタイプだった。すくなくとも不二にとっては。
早速ながら、友達の心配はやはり母の杞憂だったらしい。
ホームルームが終わっても、何となく惰性で残って話を続けることになっていた。
周囲も似たり寄ったりで、今すぐかえる人間はいない。
内部の人間はどうか分からないが、部活の紹介ももうやっているし、目新しい放課後の学校はやっぱり興味を引くものなのだ。
「不二さ、お前、部活はどうすんだ?」
「うーんテニス部にしようかな。見てみないとなんともいえないけどね」
「マジ?なら、俺らと同じか」
(野球じゃなかったのか……)
驚いていると、何を勘違いしたのか、宍戸は「俺は最初から決めてたんだって」と、荷物をつめた鞄のほかにスポーツバックを手にしてみせた。
すると、横から野次が飛ぶ。
「早速勧誘かよー宍戸、ずりー。俺らも先輩から既に何人かひっぱってこいって指示されてんだぜ」
「うっせー。……不二はアメフトって感じじゃねーだろ」
「はは、まあな」
がたいのいいクラスメートもどうやら持ち上がり組らしい。
(先輩との繋がりもあるんだ……へえ)
その辺りが、他の学校とは違って珍しいのかもしれない。
でも、マイナスでもないのだろう。
不二は、「ま、同じクラスだし、よろしくな」と差し出された手を取って握手した。
相手は「握手とかってひっさしぶりー」と何やら盛り上がってる。
「堪忍してくれな。面子があんまかわんねーから、内部の連中はうかれてんだよ。ここじゃ転校生もこねーからよ」
「なるほど」
「じゃ、早速行こうぜ」
「え?」
「テニス部。見学いくんだろ」
強引に決められてしまうのは、どうかと思うが、宍戸の目は真っ直ぐで
「うん」
頷いてしまう自分がいた。
「本当は、見るのだけじゃ嫌なんだけどね」
皮肉をいえば、「いうじゃん。周助」と、呼び名が変わってびっくりする。
「だって、弟いんだろ?来年うちにくるかわかんねーけど、なれといた方がよくね?部活メイトになりゃ、話すだろうし」
それとも仲悪ぃのか?
宍戸の多少心配げに聞いてくる顔に、不二は思わず笑みを零していた。
「そうだね。裕太っていうんだ。僕が可愛がりすぎてちょっとひねくれちゃってるけど、いい子なんだよ」
「てか、周のが捻くれてるっぽいよな」
「かもね」
結局、宍戸は、不二と周助の両パターンで話しかけてくるのだが、なんのかんの仲がよくなってしまい、周囲にはやたらつるんでる二人のイメージがつくことになる。
テニスコートで早速慈郎に困るほど懐かれたり、岳人と腹を割って話したりするようになっても、クラスメート兼部活メイトは、三年間続くことになる。なんのかんの名コンビがここに誕生したのである。