昼 休 み (不二&宍戸 & 慈郎 & 跡部) |
「今日はそっちが食堂(昼用の食権)。俺が購買(パン)な」
「うん、分かった」
教師が黒板を見ている間の、水面下お決まりのやり取りの後、チャイムがなるのを待つばかり。
二人はスタンバイしている。
一見するからに体育馬鹿とおもわれる(だが成績は実は結構いい)宍戸はともかく、茶がかった髪をさらりとなびかせる美少年顔(ただしここでは地味め)の不二がまさか……と思われるが、入学から数箇月たった今では、クラスメートも流石に慣れて「ああまたか」という顔をしていた。
そもそも校則などあってないような学校である。
「教員も走るとこけるぞー」と注意することはあれど、優秀な生徒を前にやぼは言わない。
多少の無茶も「ははは元気がいいことですな」「ええ、生徒はこれくらいじゃないと」ですまされる傾向にあるのだ。
だが、流石に、怒号(というか悲鳴)が飛ぶこともあった。
ここでスタンバイしている二人にではなく……主に隣の隣のクラスで、である。
同時刻、今日も、そのクラスでは男子生徒の何人かがある席をおもむろに見ていた。
万年寝太郎、こと芥川慈郎の席である。
ざわめくことの出来ない特別厳しい生活指導(といってもこの学校なのでたいしたことはないが)通称【鈴先】こと鈴木教諭の、古文だから、私語はないのだが、空気が違う。
何せクラス中の目が、慈郎にいっているのだ。
焦点は机につっぷしてる彼が起きているのか、どうか。
思いをはせてドキドキしているのはなぜか……。
「うわっ、芥川?!」
それはチャイム音より少し前、机からむくりと起きだした彼に驚いた周囲の声なのだが……ただ起きただけなら、そこまでの騒ぎにはならない。
「気をつけ、礼!俺、飯かいにいってくるー!」
起きた慈郎は無敵だ。
勝手に号令をかけて、チャイムがなる手前、本当にぎりぎりのところで、フライングに走るのだ。
教師もなれてはいるのものの、いつおこるか分からないハプニング(時間も日によってずれる)に心臓をばくばくさせながら、結果、
「ま、まて……授業が……」
と、驚くのが関の山。
生活指導ですらこうなので、他の教師は大抵がスルー。
みんな、このクラスについては数分速く終わる用意で授業をすすめてくれる。
ダッシュをかけた教室の後、取り残された生徒が更に、
「げっ、やっぱ起きてたのかよ」
「ちぇっ。なら頼めばよかった」
「だよなー。うわーくそ……マジで慈郎のやつ、騙された!」
などと騒ぐから益々煩くなる。
隣から苦情がくることもしばしだが、それも学園特有の「なれあい」で大方なかったことにされる。
キンコーンカーンコーン。
チャイムがなり、不二と宍戸の方も走り出した。
が、既に下の階、覗き見える慈郎に、叫んだ方がどう考えても早い。
こんな場合は当然のようにダッシュしながら大声が飛ぶ。
「おいジロー、変えたらパンかってくれ!」
「僕のも!いつもどおりで!」
これもまた見慣れた光景。
慈郎のクラスメートよりも、より慈郎になれたこのテニス部の連携は上手く働き、慈郎も下から
「わーった!かっとくC」
気楽に答えを返してくれる。
「またテニス部か」「さすがだよなー」「いいなぁ。ジロと仲良くて」と……起きてる慈郎(寝てる場合、素早い宍戸と不二にこの羨望がいく)は注目株で、ざわめきは彼らのものになる。
……と、こうなってしまえば、誰も迷惑をこうむってない平和な情景のように思えるのだが……これで一番の被害にあう&他人事なだけに迷惑なのは近隣のクラスだ。
そして、宍戸たちのクラスと慈郎のクラスの間には、跡部のクラスがある。
逆隣のクラスから羨ましげに覗く岳人(時々便乗する)を尻目に、一人頭を抱えるのは、当のテニス部のキャプテン――後で「お前んとこもいい加減にしとけよ」と教師に笑われる我らが跡部様だった。
「……またか……」
性格からしても、跡部はもともと美意識が強い。
後に生徒会長に決まったのも(半分は周囲の悪のりのせいだが)その真っ直ぐさ加減ゆえだろう。
慈郎は初等部からの付き合いなのでなれたものだが、宍戸と……ましてや新参の不二のこの行動には差別といわれようが、何か解せないものがある。
実のところ、それは不二の見た目が紅顔の美少年であり、「そういうことをしてはいけない空気の持ち主だから」という跡部なりの美学のせいなのだが、この頃の跡部はまだ気付いていない。
しかもテニスに関してはそれなり以上に認めているだけにたちが悪いとさえ思っていたのである。
だから今日も跡部は放課後、せいぜい慈郎を捕まえて、効果が無いと知りながらも、
「いいか、慈郎……あんまり張り切るな。真似をするやつらがでたら授業はどうなる?教師はいいが、購買の方にも文句がいって、パンの数が経るかもしれないぞ?」
と、裏側から優しく操作するほかない。
たまに、「ポッキーとパンなら俺がもってきてやる」などと賄賂を用意して。