ターニングポイント 〜伝説のゲームその1〜  (MAIN不二 ALL&跡部) 

 その試合は後に伝説になる。

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 夏の大会で先輩たちは引退し、新人戦をはさんで、冬季大会がある。
 ところで、その直前に一般的でない小さな大会があった。
 私立のみの連合で作られたオマケのような交流試合であり、名前を「インペリアルカップ」という。
 もうまんま、行事色の強い【お祭り試合】である。
 ……とはいえ、相手はどこも氷帝とつりあう学業レベル。それなりの伝統と知名度を兼ね備えた学校だった。
 ただし学業に限っての話。

「つまりテニス部は弱いっちゅーことやな」

「あー、そうそう……」

 外部生らしく尋ねた忍足に、半ば眠りに入る慈郎。
 その様子からも分かるように、「がり勉の趣味だな、あれは」(BY宍戸)といった状態らしい。
 岳人がさらに、状況の酷さを補強するようにはやし立てる。

「……てかよ、『今時テニスくらい紳士の嗜みだ。覚えとけよ、アーン?』って感じじゃね?」

「相変わらず、特徴とらえてるわぁ岳人」

「だろ?」

 調子の乗る岳人。
 彼のマイブーム=跡部の真似、は部員の間ではメジャーだ。
 跡部自身も怒ってみせてはいるが最終的に本気で取り合わないので、二年生の間では密かに横行していた。
 ……もっとも、跡部をネタにするほど(テニスはどうあれ)親しみを覚えていない不二だけは、のらずに、今回も軽く受け流して、

「でもさ、てことは……僕たちは試合でないってわけ?」

 期待はずれな展開に、愚痴とも質問とも着かない発言を返す。
 忍足が横で同意をよせ、他のメンバー(寝てる慈郎除く)の顔を覗き込む。
 すると、一瞬の沈黙の後、代表して宍戸が「わっかんねー」と漏らした。

「「『わっかんねーな』って何(や)?」」

 やはり首を傾げる外部ペアに反し、残りのメンバーは複雑そうに顔を見合わせる。

 「つまり」

 宍戸の言葉を補充するように、岳人が説明を引き継ぐ。

「学校同士の付き合いってのがあるから、一応正レギュも出んだよ。……ただし、数人な」

 数人、という言葉に、ようやく納得がいったらしい。忍足はしきりに頷いて、解釈を述べる。
 
「要するに、準レギュ以下が基本ですむ弱い相手やけど、学校同士のヤヤコシイしがらみがあるから面子のために、『誰か』強いやつが出るんやな。……せやけど、それが『誰か』はわからへんっちゅー話か」

「まあな。……で、例年だと、時期的に(ぎりぎりエスカレーターだから引退にならねーけど)先輩たちを引退って名目で出さないで、代わりに下の――俺らの学年にまわすんだよ。そうすりゃ、ちょうど手加減になるし、上手いのは数人は入るし新人同士やろうとかうまく言い訳できるから。けど今年は……な?」

 ああ……。と誰もが思った。
 宍戸の「跡部、出すわけにいかねーだろ」という言葉をきくまでもない。
 何せ今年度のエースは最初から彼だったのだ。
 本来、最強のはずの、三年……特に部長と副部長辺りなのだが、今年は二年=跡部……ともすれば、彼が出てしまえば年下のボロ勝ち……イコール相手に対して遠慮にならない。 面子を保つ為に強いのも出す、とはいえ、例年最強のカートはしまっておくのが筋なのだ。
 かといって、跡部を出さない代わりに三年も混入してしまえば、と明らかに手加減がばれてしまう微妙な配置である。

「でも、(元)部長たちが出るわけにも行かないだろ」

「だよな……」

「……てことは、やっぱり跡部だけ休み?で残りは俺らの代?」

「だな」

 苦肉の策だが、そういうことになる可能性が高い。
 ちなみに、跡部以外に二年で有力視されてた「不二は?」といえば、「どっちでもいんじゃね?」というのが岳人の予想。

「監督も確か、あの試合だけは、関与しねーんだよ。勝敗も気にしないってかそもそも見に来ないし……」

 如実に何かを物語る内容だ。
 的確に、当日の状況を示している。

「あー!その日、跡部、家の行事で遅れるとかいってたC!」

 起きて叫んだ慈郎の言葉が真実なら、捨て試合に見せないために一応この学年から不二をエース扱いでだして、お茶を濁し、去年のメンバーは早めの引退として処理……という状況が何となく読めてきた。
 
 そして、その日、放課後仏頂面の跡部が真っ白なオーダー表を抱えて高宣言したのである。

「自分らで考えろだと……。ついでに俺も関与しないよう言われている」

「なんでやねん」

 関西人じみたツッコミが受けると狙って敢えてやる忍足(普段そこまでのベタはやらない癖に)に、周囲も「えー」と不平を言い出す。
 が……

「生徒会選挙……ノリで俺に投票したのは誰だ?」

「「「「「あ……」」」」

「そういうことだ。引継ぎがおわってねーから、顧問にまで注文がいってんだよ。もっとも俺様のせいじゃなくて前任者が無能なのが悪いが」

 ……と最もな理由が出て、皆口をつぐんだ。
 かくして、ここに第一回、誰が出るかな交流試合会議が始まるのである。
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「忍足がシングルスに変更でいいんじゃない?」

「別にええねんけど、俺かて、シングルス1に座る勇気ないで?」

 跡部の派手な応援パフォーマンスは既に始まっていた。
 気が付けば……といった感じで、早い段階で今の形が定着したような気がする。シングルスに座ると同時だったかもしれない。
 もしや下の学年には、アレ=エース(代理含む)の特権と思われているのでは?と思い当たり――思わず無言になる、二学年生徒たち(跡部を除く)

「俺は、ダブルスで入れればいいけどねー」

 とは滝の弁。(仲がよろしくない不二はノーコメントを通している)
 ついでに、「俺、シングルス〜3がいい〜」と慈郎が主張し、「よし、決定な!」と勝手に岳人が決めてくれた。
 こちらも、異論はないようだ。

 ……となると、現在状況では……
 シングルス 忍足、慈郎(3指名)
 ダブルス 滝・岳人(恐らく)

 残りに一年を放り込むとして決まっていないのは、ダブルス二人と、シングルス一人である。
 ようするに、宍戸と、不二だった。
 が……ここでちょっとしたハプニングが起こった。
 誰もがシングルスだと信じてやまなかった不二が、にこやかに、

「なら僕、宍戸と、ダブルスがいいな」

 わがままを言ってくれたのだ。

「あのな……不二、そりゃマズイだろ」

 さしもの宍戸も、指名は嬉しいが〜と敬遠した。

「俺はまあ、ダブルスの方がいいけどよ。シングルスは相手弱すぎてつまんねーだろうし」

「せやな。宍戸はダブルスで……パートナーは強すぎてもマズイし、一年とか準レギュでいいやろ。でもな、不二……」

「不二はすっかり噂になっちゃってんだから、エースポジションじゃないと、まずいんだって」

 たしなめるように、コンビプレイを仕掛けてくるのは此処のところ本当はダブルスとして定着しつつある忍足&岳人コンビだった。
 岳人の言葉をどういうわけか素直にきく(普段はわりと人のこときいていない)不二に、忍足は調子よく岳人を嗾けながら「せやせや」と同意を寄せる。
 なんのかんの、こういったときに場を仕切るのに向かないエース代理不二周助である。

「うーん……」

 結局不二はつまらなさそうに唸ったが、結局

「シングルスかー……ま、いいや」

 軽く引き受けた。
 さて、決定の内訳は……

 シングルス1 不二
      2 忍足
      3 慈郎
 ダブルス 滝&岳人
      宍戸&樺地

 が……不二は難しいなあとやたら困った顔をしている。
 解散しようにも、あまりに真面目なので、周囲も心配になった。
 忍足がシングルス1を避けようとした理由を考えると……不二の胃が傷んだとしても無理もないことだと思ったのである。
 跡部の真似なんて…… しろといわれてもしたくない。
 それが理由だった。
 そして、シングルス1にはもれなく応援がついてくる。
 なぜなら、その名簿には「俺様が間に合わなかった時の代わりに、応援団とコールの特訓はつけてやる」とあったからだ。

「お気の毒様」

 滝ですら声をかけ……(軽くスルーされたが)忍足が涙を拭うふりをし……そして、宍戸が頭を抱えた。
 ところが……

「やるんだったら完璧にやらなくっちゃね……」

 不二に、心配は全く無用だったらしい。
 すくなくともその方面においては。
 そして、当日を迎え――

to be continued……
 書きたかった二年生大事件 跡部と不二の打ち解けるきっかけその1