部 活 メ イ ト ? (忍足 不二と跡部//岳・滝・宍) 

 跡部と不二は、テニスにおいてはぬきんでていたが、二人でいることは滅多にない。
 無視しているわけでもなく、指示の伝達や、ちょっとしたアドバイスはしているようだったが、それ以上に会話もなく……他のチームメイトといるときとは違い、二人合わさると必ず空気が【微妙】な何かをかもし出すのである。

 忍足がそれに気付いたのは、ちょっとした切っ掛けだった。
 だが、数箇月が経過しても周囲が全く気にしていないと知ったときは、「そんなあほな……」と愕然としたものだ。

(なんで誰も可笑しく思われへんのや?)

 どちらかが樺地や――せめて日吉くらい元々口少ない人間ならば分かる。
 だが二人とも間違えなく、話す方だ。
 跡部もあれで身内の間では結構おしゃべりなところがあるし、不二は言わずもがな。
 宍戸との昼の騒ぎを見ていても、むしろノリのいい方だった。
 忍足も最初こそ同じタイプ天才肌の不二に苦手意識を抱いていたが、蓋を開けてみれば、自分以上に気まぐれで、勝手なのだか、真面目なのだか分からない不二が好ましく思って、ここのところよく話す。
 特別仲がいいとはいわないが、軽いチームメイト・クラスメイトのノリにはなりやすいタイプだ。
 なのに、跡部と不二……二人で会話しているシーンを見たためしがない。
 部活中はまだしも……休憩時間や前後……ついでに学校ですれ違うときですら、ときている。

「あ?確かに、周助は好き嫌い激しいからよ」

 疑問をもってきいてみれば、宍戸も思い当たる節があるらしい。

「そうそう、不二のやつ、滝のこと苦手がってんのな。俺、そういうのあんまよくねーって怒ってんだけど、『問題ないでしょ』って交わされてさぁ。本当、二人ともいいとこあんのにな!」

 なんのかんの、一番シッカリ者でオトコマエかもしれない岳人も続けて言うが、「跡部?別に嫌いじゃねーとは思うぜ」という意見におさまって……やはり「話してるところはやっぱり見たことがない」らしい。
 ただ、その後の岳人の指摘は的を得ていて、

「跡部、テニス上手いし」

(ああ)

「不二の規準、そこだよな」

「そうそう。滝もいい線いってんのに、不二の規準無駄に高けーし」

「俺らは、別次元で仲いいけど、もともとの性格がな。アイツ、見た目と野ギャップ激しいし、内部生とはちょっとずれてっから」

 ということだ。
 ちなみに、流石に全員が気付いているのは、険悪な滝と不二の仲で……こちらはもう確実に「仲がよろしくない」雰囲気をかもし出しているから、キャプテンですら気を使う始末だ。
 なまじ、片や準レギュ入り、片やレギュ入りしてしまっているのが悪い。
 出会ったときからよほど気が合わないのか……。
 その一方で、穏便や平穏を愛しているから、兎に角お互い無関心もいいところで、他の誰かと一緒であっても会話を避ける傾向にある――例えば岳人と滝が会話しているところに不二は絶対寄らないし、岳人と不二と宍戸が会話しているところに滝は決して近寄ろうとしない。

「ま、学年あがったら流石に俺も跡部に何とかしろっていうから、侑士もきにすんなって」

「問題になってはいねぇからな」

「……せやな」

(確かに『問題』にはなっていない……)

 でも、実はそれはクラスの遠い岳人が知らなかったり、宍戸が気付いていないだけで、既に露骨に表れていたのだ。

 *        *      *      *
 翌日、忍足は理科棟にむかって、跡部と連れ立って歩いていた。
 2限の授業は化学で、前の授業はちょうど宍戸たちのクラスだ。
 移動教室ともなれば、当然前後のクラスですれ違う。
 よほど仲の悪い面子でもない限り、部活の連中とあえば声を掛けるし、挨拶もする。
 だが、前から来る不二(1時間目が化学といっていた)は、こちらに気付いて、

「おはようさん」

「ああ、忍足。おはよう」

 そう言った直後、凍りついた。
 いつもならば、大抵ここで宍戸が跡部と忍足に挨拶をし、何となく通り過ぎるのだが、今日は宍戸がいない。
 そのせいでまだ人見知ってでもいるのかと思い、聞いてみる。

「あ、宍戸はおらへんの?」

「うん。罰ゲームで、実験器具の片付けしてる。忍足……たちは、次、ここ?」

「ああ。同じ実験なんやで。……せやな?跡部」

「あ……ああ」

「…………」

 やはり、それだけではないようだった。
 一歩遅れて携帯を弄っていた跡部に気付いたときから、不二は不可思議なオーラを纏っている。
 それは直ぐ横を歩く跡部も同じ。
 絶妙に、会話の成り立たない空気は、浮気がばれた亭主と妻・昔好きだった美少女に再会したが変わりすぎていて分からなかった少年……のような、なんとも説明しがたい空気なのだ。
 もっとも跡部の心情ははかりやすい。

 幼稚舎からの王様ともなれば、最早誰も跡部を敬遠するものはいない。色めきたって眺めるものもあれど、男から敬遠されたり、苦手がられることなど有り得ないのだ。
 なのに、不二はあからさまに跡部に困惑しており……いまだそのオーバーリアクションに慣れていない様子だった(テニスで技の名前を呼んだ跡部をみて、「え?」と忍足より先に呟いたのは不二だった。忍足は目撃している)

(大方、不二みたいに、『テニスにおいて認めてる奴』がそんな感じやとやりづらいんやろ……)

 数ヶ月にして、見た目のわりに繊細で、真面目な気質を知った忍足は、苦笑しながら、合間に入り、

「ほな、不二もまたな」

 歩きだす。
 ふと……恐ろしい考えがわいた。

(これで、俺がおらんかったら挨拶も抜きかい?)

 跡部以上に良識のある自分の相方(岳人)が見たら、なんといって怒るだろう。
 それに、礼儀に煩い跡部や、それなりに流すのに慣れている不二が……何故……と思わずにはいられない。

(氷帝陣は仲が悪い言う噂がたったらたまらへんで?)

 忍足の心配は杞憂ではなく、この後暫くの間付きまとうことになる。
 さすがに、一年がすぎて、ようやく周囲の部員もこの二人の不可思議な関係と、テニスのときに支障がないという良いんだか悪いんだか分からない点に気付いたようだったが、それでも監督だけは空気が読めず、

「跡部、不二にも言っておくように」

 だの……

「不二と跡部は、そっちのコートで……」

 だの……
 実力社会ならではの組み合わせを作ってくれては、同学年の忍足を悩ませるのだった。
 なまじ、楽をしようと、(ある程度)力を抜いてナンバー3を保っていただけに、忍足にとってはこれは遠まわしな仕返しのようであったという話。


 跡部と不二の仲 1,2二年次あまり良くないよ〜という話。&不二と滝さんは犬猿……な話。これで三年生構図が大分見えてきたかなと。