修学旅行 〜前ふり編〜(MAIN跡部 ・&慈郎) |
学期も終わりを告げようかというその日、跡部は頭を抱えていた。
大会の進行は良好。
よって、部活の方に問題はない。
ちなみに生徒会という線でもなかった。
生徒総会というややこしい行事も確かに、三年の初めに残ってはいるが……準備期間なんぞ、今のメンバー(跡部を除く)がいくら鈍かろうと使えなかろうと何とかなる。
具体的に言ってしまえば「最悪忍足を連れてきて、滝も動員すれば、宍戸や向日を無理に手伝わせずと三日でけりがつく」……これが脳内コンピュータのはじき出した計算結果だ。
では何か?
答えを思うと、ぼやきが出てくる。
「……前回はひどかった」
思い出すだけでため息が出るその「原因」はハッキリしていた。
「なーにがー?」
不意に横から間延びした声に、「何がじゃねぇよ」と、いっそう深く頭を抱え込む程度に……。
「ねえねえ跡部ぇ〜」
のんびりしたそのトーンを聞いてるだけで耳鳴りがするのは気のせいでも、偶然でもなんでもない。
「んあ?」
間抜けな答えを返してくれるこの男、芥川慈郎こそがその原因として一躍買っていたのだから。
とはいえ、面と向かって「元凶は誰だと思ってるんだ?」ともいえなければ、アーン?と十八番の調子ですごんでも通じないのも、相手がジロゆえである。
跡部は自覚していることに、この昔からの友達に酷く弱かった。
それでも……言わなくてはならない、しなくてはならないことがある。
「いいか、慈郎……」
一人を嗜めたところでどこまで効果があるか分からないが……とはいえ、手を打たないよりはマシだ。
跡部は、哀しく自分を納得させながら静かに、下準備を始めた。
まずは一人。
味方につけるに越したことはない。
跡部景吾ともあろうものが頭を抱える行事……その名を「修学旅行」という。
前回、が林間・臨海をさすのはいうまでもなく――まして、彼の楽しい仲間達(訳「迷惑をかけてくれるろくでもねーが反省もしねー……だが憎めない奴ら」)のおかげで、迷惑を被った現実から逃避のしようもなかった。
実のところ、生徒会長の役目には、一つだけオプションがあったのだ……。そう、旅先で周る場所は選択方式なのだが、いくつかのクラスは被ることになる。
そしてそのクラスの分け方にひとやく買うことができる、ということ。つまり、学校全体が関わるお泊り行事にいたって、問題をおこさないように、クラスの組み合わせをある程度弄ることができる、というオプションだ。さらに言えば、部屋割りとてある程度自由に出来るときている。
前回それとしらずに(※当然「会長の采配」は公然としたルールではなく、前の会長から受け継がれたり受け継がれなかったりする裏ルールなのである)林間にいって、痛い目を見た跡部は、もう二度と同じアヤマチを繰り返すかと誓っていた。
問題クラスは意外なことに、不二&宍戸の二人組(主に不二が悪いと見ている)それから慈郎のところだ。言うまでもなく彼らテニス部員が元凶。
前者は行動が勝手だから、で、(※忍足は勝手にやっていてもばれないので表立った問題は起こさない)後者は……まあテンションが高くないときも寝ているのが問題……。
どっちかというと、後者の方が根が深い、と跡部は読んでいた。
同じ組に誰かいればいいのだが、幸か不幸か……今年度慈郎の面倒が見られる人間はそう簡単に存在していなかった。
よって……ここに新しい提案が生まれる。
「お前、誰の側だとよく眠れる?」
そう。
いっそのこと、慈朗に世話係をつけよう、という腹である。
指名されたソイツと慈郎のクラスを同じ班にすればいい。
もしくは、クラスさえ無視して部屋割りだけでも決められるように上手く「やむをえない事情」を作り出すことも可能だ。
(どうせ忍足か、向日あたりだろ)
と考えてたかをくくっていたせいもある。
俺とて、自らコイツを預かる気にはならねーよ……。と跡部がこっそりごちたのも、向日や滝・忍足相手には引き際がいいものの、跡部相手にはわがままな傾向にある慈郎や、小学校時代お守り役=跡部だった事実から考えるに、無理もないのだが……。
跡部は知らず知らず自らジョーカーを引いてしまっていた。
慈郎自らにきいてしまう優しさゆえに、既に失敗の色が濃かったのだ。
なぜなら、慈郎は、嬉しそうにわらってしめくくってくれたのだ。
「えー跡部にきまってんじゃん!面倒見Eし」
ある意味であたってはいるのだが……。
跡部は、一瞬硬直し、「悪いことはできねーか」と思うも、自分の幸せを物凄い勢いで再計算。
(どっちがいい?)
慈郎のはちゃめちゃにあとからテニス部部長&生徒会長=実行委員取締役として、呼び出されるのがいいのか・最中で一緒に説教食らう危険性がある方がいいのか……
そして、厳かに一言もらした。
「…………わかんねぇな」
「?」のマークと共に首を傾げる慈郎は、跡部にとってはいつも不可解なものだ。
ましてや他のあくの強いメンバー……特に把握しきれていない不二(やっとのことで苦手意識が薄くなった相手。しかも萩之介と微妙に犬猿っぽい)まで入れると不確定要素は増す。
よもやテニス部の問題、はもう予防すらできないのかもしれない。
だから、厳かに受け入れることにした。
このいちかばちかの、賭けを。
その放課後、跡部は職員室に唯一の特権、直談判を行使しに行く。
そこでの跡部の妥協案は「芥川慈郎と、自分は順回路が同じになるようにお願いします」意訳すれば「同じ部屋か近くの部屋」ということになる。
それから、他のテニス部要員と慈郎もそもそも纏めるつもりだったため、さらに付加えたのだった。
「不二も……宍戸を同じになるようなら出来るだけ近いようにお願いします」と。
結果、決められた部屋わり&コースわけは跡部に衝撃と……更なる負担を齎すことになるのだ。だが……その修学旅行の悲劇は、当日の運でなかう、この時点から跡部自らが引き当てていたものなのだった。
結果的に、「テニス部は仲がいいなぁ。はっはっは」だの「まあテニス部だからねぇ」だのと、後にいたるまでぐちぐちいい続けられる切っ掛けがここに完成するのである。