練習試合 一回目 (忍足・ジロー・岳人) |
忍足侑士は、珍しく緊張していた。
練習試合は最初にシングルス3続いてダブルス2、シングルス2。
ここで休憩を挟んでダブルス1とシングルス1を同時に行う変則メニューだ。
終了後時間があれば、最後にワンセットずつまた打ち合うことが許されている。
既に、コートはシングルス3が終了。
まさかまさかの
宍戸4 VS 6ジャッカル
意外な好カート。そして接戦の末ジャッカルのスタミナ勝ち。
もちろん真打ちの登場はまだまだ、である。
「てか、気づいたんだけどよ、向こうも監督いなくね?」
岳人の突っ込みに今さらながら気づく。
うちの監督がいないのは向こうにも報告済みだが、
それはそれでやむを得ないことなのだが……?
申し訳程度に、ベンチに腰かけているあっちの監督もどきは……明らかに職員には見えない。
恐らく、職員室の名ばかり監督のかわりにOBかなんかがコーチとして招かれたのだろう。
「てか、こういっちゃなんだが、役不足だろ、あれ」
氷帝側からも分かる理由は一つ。
立海選手がことごとくスルーしているのだ。
ある種の苛めだろ?と言いたいところだがコーチ側も了承しているらしく、やる気がないのは見て取れた。
右手にうちわ。左手に新書?
大騒ぎのうち、ダブルス2が終わり、コートの熱は最高潮に達していた。
…………主にジローのせいで。
「ジローさ、新人戦でアイツ見たんだって。そんとき相当気に入ったらしくて、格好E格好Eってうっせーから、ならサインでももらって来いよって」
「言うたん、お前かい」
「おう。……でも、まさかリストバンド盗んでくるとかありえねーっつの」
「………駄目すぎる」
だろ?と岳人は同意しているが、実際忍足がぼやいたのはジローの奇行ではなく、立海のベンチに対してだった。
ベンチでだれている代理コーチは新書をめくりながらも、幸村たちの方をみて溜め息をついている。
相当苦労しているのだろうかと思って、よくよくみると外れた本のカバーがおもいっきり中身をばらしていた。
少女漫画だ。
――あの溜息は単に内容への駄目出だしやな。
忍足はなんとなく悟るところがあって視線をそらした。
今はむしろあちらのこの緩い空気に感謝したいくらいなのだが。
何せ、今日の試合、任されたのはシングルス1である。
あとにもさきにもこの後回ってこないだろう役割だ。
まあシングルス2くらいならという気持ちがあったのは事実だ。
若干最近の自分はイケテる気がしたのだ(テニス的な意味で。)
「だからってなんで?シングルス1。てか2でも真田やん。なんで?なんでよりによってスタートがこれ?」
確かに夏を越すまでは遊びまくっていた。テニスをなめてた。
調子にのってたと言われても仕方ない。
それでも、この場所でのシングルス1はぼやきたくもなるだろう。
相手はこの布陣を見るに明らかに幸村である。幸村精市である。泣く子も黙り、去年当たった先輩は速攻でレギュラーから降格。そのうえ部活を止めたとか登校拒否になったとか。
都市伝説だと思いたいが、ジュニアからいる連中の評判を聞くとあながち嘘とは思えない。
おまけに、ご丁寧にも、今回の悪戯に切れた跡部は朝方一番、
「お前は落とすんじゃねーぞ。シングルス1をやんだからな」
とプレッシャーをかけてくださった。
ダブルス専門でなぜか選出された岳人も焦るかと思えば、ちゃっかり開き直っていて、今さっき「頑張ろうぜ」とか後ろからどついてきたばかりときている。
「どういうことやねんて」
――お前だけは別やとおもっとったのに。
恨めしい顔で横をにらむも、どこ吹く風。
「俺アップしてくるわー」
さっさと逃げてしまう。
岳人といえば、最近まで忍足の素行を叱りとばし……忍足が本命のために変わると決めたら決めたで「眼鏡がきもい」「髪がうざい」と【忍足侑士的改造計画】を止める印象が強かった。
それでも、なんのかんのダブルスを無理やり組まされてみてから「ダブルス仲間かなー」と思う程度に楽しくなってきていた、いわばダブルス仲間だ。
――ってちゃうやん。俺、シングルス2なら行けるとかおもっとったし。
ダブルス専門だと逃げてしまいたい。と今更ながら思ったのは、あれだ……先ほど通りすがりに幸村がさりげなく、(笑顔のまま)飲み終えた空き缶を片手でくしゃっと……
いや見間違えだと信じたい。
だがもし、あれが幸村だとしたら、ニコニコ笑いながら紙切れのごとく――
目が遠のく。
出来れば意識も一緒にいってしまえ、と少しばかり自棄になる忍足侑士(14)。
「忍足?なにぼーっとしてんの」」
――せや、ジローなら、知っとるはずや。
確かめるべきか否か。
カンマ一秒迷ってから、さっくりと質問を口にする。
「ジロー、あんな……俺ききたいんやけど、幸村君?て、丸井から見てどうなん?なんか情報あらへんの?」
「うーん……」
スパイになっちゃうCだのと、お前のホームはどっちか?的なことを口走る慈郎。
たっぷり間をとった挙句、彼が答えた言葉は完結だった。
「パワーも性格もSだって」
オワタ……
忍足の頭の中では、姉貴の「あんた、ろくな死に方せぇへんで?」というぼやきが回った。
結局、今回幸村はシングルス1には出られず、代わりに最終試合と称して行われる補欠戦にでることになるのだが、忍足は知らずにいた。
この数分後、噂のどうしようもないダブルスとともに、残りのオーダー表が発表されるまで。