ターニングポイント 〜伝説のゲームその1 後編(MAIN不二 ALL&跡部) |
「ナイスファイト」
「……ま、こんなもんやろ」
シングルス2までの試合が終わって、忍足がベンチに戻ってくる。
6−1の大勝だ。
ハイタッチをかわし、岳人の横に座る。
今まで不二がいたところだ。
「で……その不二やけど……」
すれ違いざま、コートに向かって無言で歩き出していった不二の方を振り返り、忍足は首をかしげた。
「なんか変やない?」
岳人は「そっかなぁ?」と首をかしげた。
「……あ、そういや、昼食ってるときに、なんか跡部の真似してたっけ?なあ、宍戸」
「あ、ああ。ありゃびびったぜ。なんたって俺らがやるとこっそり笑っちゃいたけど、不二だけは口真似すらしたことなかったってのによ。インサイトのポーズまでやってたぜ?」
「へえ、そらけったいなこった……」
不二も跡部のよさが分かったんかな、と忍足は呟く。
どれだけあの二人が微妙な仲(決していい意味合いではない)か分かっていたからだ。
宍戸はそんな忍足を見て、「まあ、少しでも打ち解け始めてんなら、いいだろ?」と同じようなことを返した。
……と……そのとき、不二が、急にコートに進みながら、手をかざした。
「え?」
疑問に思ったのはベンチにいた皆が皆同じだが、後輩やレギュラー以外の面々は条件反射で応援を始める。
「「「氷帝!氷帝!氷帝!氷帝!」」」
氷帝コール……
そうあっては、最初に一声を欠ける役目は、レギュラー側だ。
誰が決めたでもないが、二年の役回りとして仕込まれた応援は跡部が試合に出るようになってからずっとこのメンバーの誰かにより始まっていたのだ。
はっと、忍足が不二の方を向く。
不二は、にやりと笑った。
こともあろうに、偉そうに――まるで跡部のように、である。
真意を悟った忍足は、急なことで思考回路がついていけていないベンチを気にせず、声を張り上げた。
「勝つんは」
「氷帝!」
「負けるの」
「犀学!」
岳人が宍戸が、慈郎がそれに従い、声を上げる。
だんだんついてくるほかのメンバーたち。
不二は、指揮をするように、そう完璧に跡部に似せてコールを守り立てる。
そうして、片手を大きく天に伸ばす。
ばさっと脱ぎ捨てられる上着――
「勝つのは……」
忍足に次いでようやくその真意を見た岳人が叫び、それに応える声……
「……俺だ」
ワァァァ……
ここにきて盛り上がりは最高潮に達した。
最早、公式戦の跡部の試合と大差ない――というか、全く同じ状況になっている。
審判が合図をし、不二のサービスゲームが始まる。
コールがかかり、速くも不二が最初のポイントを先取した。
「アーン?俺にかなうと思ってるのかよ」
氷帝サイドのコートが一瞬シーンと静まり……やがて、われんばかりの大歓声が起きた。
「のりすぎやで……不二」
呟く忍足もなんのその、心底楽しそうに目を見開いて、鼻筋に手を当てた。
「げ、インサイト……」
宍戸は笑うのも忘れて魅入っている。
岳人が横で一瞬、目を見開いて……その後飛びあがった。
相手よりも味方のほうが焦るほどに、不二は完全に跡部を掌握しきっていた。
「さっすがーすっげー似てるC!」
自分の出番を終え、シングルス2では既に眠りに入っていた慈郎が起き出すのも無理はない。
その後も、次々と業は決まる。
……が……残念ながら、不二は、樺地のように……あるいは跡部自身のように、相手のわざをコピーできるような、器用さもなければ超人でもなかった。
よって……
「破滅へのロンドだ、覚えとけ」の代わりに、
「トリプルカウンターだ……覚えとけ」
だの……
跡部調の、挑発で、
「もう終わりかよ、アーン?」
だの……
跡部がいたら真っ青になりそうな……仮装大会がなされたのだ。
試合前に、不二の姿が一時的に消えたのも、不二に良く懐いている樺地に言わせると……
「黒子の位置を……聞かれました……」
とのことだ。(「つけとったんか?」「……サインペンがなかったので諦めたそうです」「……そうかそうか……」)
そして――
「ゲーム氷帝!!ウォンバイ 不二 6−0」
審判がゲーム終了の声を上げたとき、不二はコートに崩れ落ちる相手選手に向かって、「ざまーねぇな」と吐き捨てていた。
「天才や……」
「天才だな」
「すげー天才不二だC」
「侑士、ダブル天才の片割れに称号もってかれっぞー」
王様(キング)とコールされる跡部に対して、何にしていいか迷った挙句、天才のコールが始まる。
と……思われた……しかし部員が選んだコールは……
「英雄ー!英雄ー!英雄ー!」
HERO……。 それはそうだ。
既に君臨しつつある跡部の真似をここまで完全にしたのだ、某学校をまねて、「詐欺師」としてもいいくらいである。
しかし……本当は皆がこそっと思ったニックネームがあったのを二年はしらない。
そのコールは、別のときに……つかわれかけるのだがここでは明かさないでおく。
兎に角、こうしてシングルス1の……跡部のような不二の試合は幕を閉じ――
「……やるな、不二……。いいかもしれねぇ……」
自宅から急いでかけつけた誰かは、かなりの勢いで頭を抱えてから……その中に、間違ったときめき(無論恋ではない!……興味であるが)を覚えかけ、
「……うん。跡部って結構面白いやつだったんだね。これ、癖になりそう」
不二も不二で、好感度を上げたのだった。
ちなみに、このことが、意外にも不二と跡部を近づけることになる。
跡部は、この件の馬鹿騒ぎで、天才の恐ろしさとともに――不二がわりと茶目っけのある……もっと言ってしまえば、慈郎といい勝負の素質を持ってると気付き、何やら温かい目を向けるように……
不二は、不二で跡部の面白さに気付き、今後もこっそりこれを続行したいというアイディアを宍戸と岳人に提案し、
「毎回はやめとけよ……跡部流が二人なんて、学校としちゃ濃すぎるからな」
「そう?残念だな」
なんて嗜められて、本気で残念がっていた。
跡部と合流する前に、不二は、もう一度コートを振り返った。
他の部員も、毎回でなければお祭りに相応しい!とばかりに、おおはしゃぎしている。
切磋琢磨・弱肉強食……厳しい立場におかれているみながこんなにも一緒になっている。
跡部も、特に狙ってるわけじゃなく、天然なんだろうが……
「これはこれで……」
ありだと思う。
何より、退屈なのよりはいい。
そうなると、今までのへんなプライドやこだわりも、彼らしく可愛らしいものにみえてくるから不思議だ。
「いい部長かもね」
――何より楽しいし。
が理由ではあるが、こうして不二は、テニスの腕以外ではじめて跡部を認めたのだった。
……そう、ネタとして。