練習試合 一回目(ブン太・赤也・仁王・柳生) |
「へえ、今日の試合相手って氷帝なんすか」
「なんじゃ、赤也。しらんかったんかい」
「てか、練習試合だって聞かれたの今日っすよ?」
「あのな……」
赤也と仁王の会話を横で聞いて、コート脇、ブン太は脱力した。
「赤也、お前順応しすぎ。幸村君の気紛れも悪戯もうっかりも………いつものことだけどな?少しは焦ろうぜ」
確かに赤也はだいぶ強くなったし?
ブン太は自分なりにフォローしてみるが、噂の後輩はきょとんと先輩を見たまま首をかしげている。
こりゃだめだ、とブン太は思う。
状況は十分見えてるのだろう仁王は仁王で「ま、強い相手とやれる練習試合はいい経験になるじゃろ」なんて呑気にしていた。
「まがりなりにも関東常連校なんだろぃ?いいのかよ」
まったくもってそのとおりである。
ここまでやる気が見えないと相手も悲惨というか、立つ瀬がない(もっともその相手校も相手校でとんでもないことになっていたのだが)
すると、突然、声だけが後ろから響いてきた。
「そんなこと、幸村君が阿弥陀くじを持ち出した時点でもうふっとんでますよ」
「柳生」
なんのかんの試合では相方を務めるようになった仁王へのフォローなのか、ただの感想か。
ゆったりとメガネを直すしぐさはそのまま、いつの間にか気配が消えているあたりが空恐ろしい(仁王にだんだん似てきている。入れ替わってるんじゃないか?と思わなくもない)
「そろそろ相手が見えられますから、軽くアップはしておくべきですよ。この中の誰が試合に出るか分からないのですから」
「そう言えば、のう柳生。補欠含めての阿弥陀となると、やっこさんが休む可能性もあるんじゃな」
「部長も、公平にするそうです」
「え?!マジっすか」
練習試合だと明かされなかったことにはびっくりしなかった赤也がその瞬間飛び跳ねた。分かり易い、ぎょっとした様子に、ブン太は「そっちは驚くんだ」と複雑なものを抱く。
ところで、ついでといってはなんだが、どこか違和感があった。
――そういえば……
「なあ、柳生?仁王。あのよ、幸村君って運で外したことないよな?抽選会もぶっちゃけアイツが引くといいって錦元部長が言ってたし……」
「ああ……」
「そうでしたね……」
口々に肯定の声が戻る。
もっと副部長である真田と去年部長の運がかぎりなくゼロに近いということもあっての退避なのだ。分かる、それは分かるが……
「だろ?」
なるほど、自分がジョーカーを引かないとを信じているから彼はそんな無謀な賭けに出られるのだろう。
妙に納得してしまう年長組。
他校の連中や雑誌記者に「神の子」だなんて大層なあだ名をつけられたと大笑いしたこともあるのだが、今思えば当然という気すらしてくるから恐ろしい。
全ては幸村様の言うとおり。
だとしたら――?
「おい、おいおい!嫌な予感がするぜ」
「い、言わないで下さいよ……大方予想がついてしまいました」
「ズバリ、誰じゃ?幸村のターゲットは」
「?????」
赤也にはまだ分からないだろうがそれがうらやましい。
残りの三人は顔を見合せて、ここ数日の彼の言動を振り返ってみる。
もちろん、突発的に「あみだくじ、いっか。やっちゃえー」の可能性もあるにはある。あるのだが……そこまでテニスに遊びを持ち込まない。
幸村精市とはそういった存在だ。
それなりに根拠もある、だが明らかに可笑しな組み合わせをひねり出して今頃脳内で再生しているのだろう。
そして間違えなくその組み合わせは今日実現される。――幸村精市の強運か、希望という名前の強制トレードによって……
「にしてもテニスには影響出したことないアイツとしちゃ珍しいっていうか……」
「ああ、それは思ったんですがそのために一日コートを押さえてあるんでしょうね。あみだ結果の組み合わせ試合はあくまで練習試合の一部なのでしょう。フルセットでもありませんし」
「そっか。じゃ、行きますか」
「おう」
アップは終わった。
そろそろ相手の学校が到着する時刻――
上級生は諦めたというより、何かをふっきった顔でそれぞれ肩を回したり、ラケットを回したり、タオルを取ったりしている。
何が何だか分かっていない後輩にふりかえり、「いくぞー」と声をかけると、本日自分らのベンチになる方へ。
喜々として阿弥陀の結果を発表しようとする鬼は、いつものごとくさわやかに微笑んでいらっしゃる。
その手にオーダーの紙。
「赤也、覚悟決めとけよ」
ブン太が重々しく忠告するよりも早く、横で硬直する気配があった。
「げ、(やばそう)」
野生の勘があるこの後輩は大方の状況が理解できたのだろう。
そうでなくとも、この部の暗黙の了解(ルール)=幸村が楽しそうならば何かが起こると思え。
だが、彼は今回のターゲットを無事逃れられるのだ。
そして、今回のターゲットは……
「ダブルス1、真田・手塚………コンビ名――」