練習試合 一回目(手塚MAIN) 試合中1 |
「決まってしまったものは仕方ない……」
慣れとは恐ろしいものだ。
俺はため息をつくとipodの円形部分に触れた。
曲をかえる。
いっそイメージトレーニングにせいを出した方が、今さら落ち込むよりずっと有効だ。
選曲がなぜか幸村に押し付けられた【魔王】なのは自分でもいかがかと思うが、気分は幾分安らぐのだから悪くない。
特に隣でお通夜状態に陥っている真田を見ていると、融通がきかないことの恐ろしさを痛感させられる。
――真田は幸村の理不尽をすべて試練だと思ってる節があるからな。
学習能力がないのか。
その真面目さが、幸村をエスカレートさせる要因だと、そろそろ気づいてほしい。
「真田、そろそろ行かないと幸村がお冠だぞ」
「うむ」
ipodをベンチにおき、コートに入る手前で落ち込む真田に声をかけた。
「気持は分かるが……」
「ああ……」
分からないはずがないんだから、頼む。
もうあきらめろ。
正直言って、俺もダブルスは得意ではないんだ。
むしろ苦手な部類なんだ。
オーダーの関係で柳と組み勝利をおさめたこともあるが、やたらと丸井が柳に感激していたところをみると、俺ではなく柳の功績で勝てたところが大きい。
実際真田もダブルスを組まない方だが柳とは組まされていたから、分かるが――なんというかダブルスにおいては柳が凄いのであって俺たちは足を引っ張る方なんだ。
だから、そんな二人が組んでは勝てるかどうか危ういのも分かる。
真田の心配もちゃんとつかめている。
ましてや相手は氷帝だ。
新人戦で目立ったプレイを見せた中にはあそこの選手が多くいた。
断トツなのは恐らくシングルス1の跡部や2の不二だろうがダブルスにも強烈なのがいたように思う。
とんでいるのだとかとんでいるのだとかとんでいるのだとか………………………………………
…………………………………………………………………………………………………あれ?奇抜なだけで、勝てる、のか?もしや(失礼)
「真田、相手は――」
意外とスタミナに弱味が、と言おうとして固まる。
先に進みでた真田が急に止まったからだ。
「あ……」
予想外のことがあったらしい。
口をあけて、ぽかんとしている。
視線の先は――
「‥……………………………………………………………………………………………は」
目がおかしくなった、か?
うち(立海)も大概だが……いいのか?本当にこれで……
組み合わせ以前の問題だ。
いや組み合わせも十分奇抜というか――シングルス要員といってもそれはないだろう?といいたい。
――終わったな、氷帝。
ダブルスに跡部がいる時点でため息しかでないが(ひとのことは言えないがあれこそシングルス向きだろう)
それよりも……
「「……俺だ」」
――跡部の横で同じくらいあのパフォーマンスにのりにのってるのはどう見ても……
跡部には新人戦で慣れて――免疫ができていたのだが、予想外の人間の予想外の行動。
――跡部だけならまだ何とか分かるが……なぜ?
ただでさえ派手な氷帝コールだ。
そこに加えて跡部のパフォーマンスは有名だった。
(うちも全国常連ともなればそれなりに応援も発展しているし、部員もそこそこにいるから目立つ自覚はあるが、氷帝に比べればまだまだ可愛い自負さえあった)
が……
「――不二ってあんな性格だったか?」
感想が思わず口をついて出る。(どうせ真田は聞いてないからいいんだが)
跡部の横で跡部以上に、何かになりきっているのは、どう見ても……
――どうみても不二周助だろう。あれは。
氷帝のシングルス要員。
しかも上から数えて二番目、つまり、シングルス2。
よっぽどのことがない限り変わらないだろうポジションの人間がなぜ?
氷帝には、何かあるのか?
目立ったものが勝つとか?
まあ部長の性質は強さに影響するかもしれんが。
…………………………………………。
……………………………………。
………………………………。
……………………まあ、うちも――幸村はあれでいて、ストイックというか声援もなんのその如何にストレートに相手を下すかに命をかけている節があるし、それに応じてか、柳や俺も淡々とこなす方だ。赤也が試合のタイムを報告しては喜ぶのも、幸村の性質によるところ。
喧嘩っぱやく効率的な部長のやり口は来年にも遺伝するだろうが。
――っと……話がそれたな。
今は今日の相手のことだ。
跡部と不二はテンションが相当上がっているらしい。
ついでにギャラリーも、いつの間にか始まったうちの「常勝立海大」を追い抜いて氷帝が毎度のデリバリーアウェイを作り出している。(あのチームはどこでもアウェイをデリバリーしてくれるからね、というのは幸村の言い草だ)
ところで、妙に静まったと思えば真田の様子がおかしい。
なんだ?その納得したような、つきものがおちたかのような顔は?
「そうか、流石は幸村だな」
「――いや、違うと思うぞ?」
恐らくこの組み合わせを持ってきた功績に感動してるんだろうが。
幸村は何も考えてない、多分……。
確信している。
まあ真田がかわいそうなので言わないでおくが。
それはさておき、試合を始めるか。
「満足したか?」
跡部に――言おうとして、不二の方に視線を持っていったのは、その方が妥当だと思えたからだ。
「うん」
満面の笑みが返ってくる。
妙に疎外感があるのは何でだろうか。
コートには真田(味方)もいるというのに。
「じゃ、やるぜ?」
跡部が、ラケットを回す。
ラフ オア スムース?
真田に選ばせると何となく運が悪そうなので俺が言った。
「ラフ」
結果はスムース。答えようとする跡部の前に不二がサーブ権を取った。
――後攻だな。
よく分からないが、何となく、勝てなくもない――いい勝負になりそうな予感がする。
ファーストサーブを手に入れた氷帝側の応援に跡部への王様コールだけでなく「女王様」コールが加わる。
辺りに興味は湧いたが気にしてる場合じゃない。
ウィンクついでに投げキッスしている不二も――まあ、幸村のコールに比べれば可愛いものだ。
――もう跡部で耐性がついたのか、幸村のせいで慣れたのか怪しいが……
さっさと終わらせられればどうでもいい。
「没個性!没個性!」
そう。
このコールを終わらせるためなら俺は真剣にやる。
――というかキャラクターが濃すぎるんだ、みんなが。俺は普通だ!
加えて言うなら真田は目立っている方だろう?
試合前に幸村が「キャラクターがたってないから駄目なんだよ」といってきたのだが、没個性って……本当に勘弁してほしい。
「俺様の美技に酔いな」
――うん。
モノマネしてる横の含めて、氷帝が異常なんだと思うぞ。
きれいに決まるサーブはともかく、この決め台詞はなんなんだ?
うちはうちであれだが、氷帝レベルまで個性を際立たせろと言われても無理がある。
普通に試合をするほかない。
「「「没個性!没個性!」」」
だんだん定着しそうになっている変なあだ名はさておくとして。(メガ2のがまだましだと言いたいが、今さら逆らっても無駄だ)
「手塚……」
苦渋の顔を見せるな、真田。
俺だってなんとかしたい。おまえも幸村は止められないだろう?
サーブが立海にうつる。
ひとまず俺が打とう。
さっさと終わらせたい。
そもそも雁行陣をしいて一人がストローク、ボレーと担当わけにするにせよ、どっちかに特化していない二人だから難しい。
「ボレーメインの並行陣にするか?」
柳が「実はあれ、上級者向け」とコートを指していることも知らず、俺の言葉に真田は頷き……俺らは二人とも前に出ることにした。
まずは、サーブのため一度俺が引き下がったのだが。