練習試合 一回目(手塚MAIN) 試合中2 |
「ヒグマ落とし」
強烈なカウンターがコートに刺さる。
拾いそびれたのは、真田と俺が同じ方向に走ったせいもある。
だが、それ以上に相手の技は光っていた。
これには幸村も関心を寄せているようだ。
「没個性!」の怒鳴り声がが一瞬消えた。
よかった……と思うのもつかの間、
「俺様の美技に酔いな」
あちらのサイドが騒がしくなっていた。
「氷帝!氷帝!氷帝!」
「氷帝!氷帝!氷帝!氷帝!氷帝!!」
――いや、これはいつものことだ。
……が。
さっき叫んでいたのは跡部ではなく不二だった……気がする。
そうでもなければ女王様!しばいて!だのといったヒステリックな応援は加わらないだろう。(跡部ならば毎度のKINGコールで終わっている)
かつてないほどの盛り上がりに違和感を覚えるのは俺だけじゃないはずだ。
なんというか二人集まると本当に……
「王族ペア……?」
ぼやいたら、横で「ぐは」と真田がむせた。
同意するだろう?
言いたいところだが、時間がない。
次のサーブは向こうから来る。
あわてて陣形を戻した。
「真田!」
今度は、右だ。
読めているコースだけに、楽に移動ができるが……真田とぶつかる気もしたので動かない。
指示だけをする。(さっき動いたら幸村に怒られたから、という話もある)
「ぬるいわ!」
真田が返し、その球を不二が……
「拾った!」
跡部が叫ぶ。
目立ちたがるとふんでいた王様は、意外にもアシストに徹していた。
「ツバメ返し」
右に行けば左に。
前に行けば後ろに。
まあ、たまには……
「無茶な動きしてんじゃねーよ、不二。調子に乗ってんな!」
なんて、活発に喧嘩もしてくれているのだが……
――マズイな。
予想以上に跡部は上手い。
そして俺が反対に……足を引っ張っている自覚がある。(真田もどっこいどっこいだと思ってはいるが、幸村の中での責任の比重が全く違うらしいのだから仕方ない。
そうこうするうちに、攻めこまれている。
「白鯨!」
どうでもいいが、なんでクマ、ツバメ、白鯨なのか。
どんなラインナップなんだ?
首を傾げたい。
そもそも、「破滅へのロンド」だの、「タンホイザーサーブ」だの……。
「――なんで、こんなに氷帝は技名をつけたがるんだ」
真面目な真田まで、合間合間で突っ込みに頷いていた。
ある意味これも幸村のおかげと言えるのだろうか。(立海スキル=突っ込み力アップ、か?と思わなくもないこの頃だ)
が……
どうしたものだろうか。
そんな地味な功績とは裏腹、幸村の機嫌が悪化気味だった。
険しい表情もさることながら……
「チームおやじ!もう少し頑張ってくれないかな?」
ほら来た、どうしてくれよう……。
このままでは、罰ゲームと称してとんでもないことをさせられかねない。
――にしても、おやじ、か。
どうなんだ?そのあだ名は。いや、チーム名か……
む?
ちょっと待て?
「もしや……」
「どうした?手塚」
「いや何でもない」
真田にいってもどうにもならないからな。
だが、チーム名がおやじということは没個性というのは――
「こら没個性、技まで個性を消したら何も残んないだろうが」
「……………」
やはり俺か。(今さらだが確認くらいさせてくれ。俺のことなんだな?幸村)
まあいい。
去年までの俺なら涙目になったろうが今年は違うぞ。
コート外でただでさえ浮き沈みの激しいテンションを、極限まであげて怒鳴る幸村を静かに見つめ返す。
【否定するならまず勝つべし】
思いついた答えはたぶん正しい。
ならば?
――発動するか。
用意はできているのだ。
技の名前を叫ぶような恥ずかしい準備はいらないが……
サーブ権を手に入れて、あとはこちらに返しやすいコースを打ち込むだけ。
自分はそこで待てばいい。
意識を高め、周りの状況を把握する。
目指すは相手のダイレクトコースがこちらのフォアにくる一瞬。
タイミングや癖、心理をよんで………
「おい馬鹿!」
幸村の焦燥が見てとれた。
が、気にせず腕を伸ばし――
「はっ」
打つ。
力にまかせるでもなくコントロールに委ねて。
俺のゾーンは動かない。
当たり前だ。死角を突かれないように連日連夜他でもない幸村相手に練習してきた技だ。
幸村当人については何割か抜かれるが他に通用するには十分の精度を誇っている。
案の定、不二は予想通りコースをこちらに向けて放ってきた。
が、しかし……。
「なっ」
数度の返球ののち、取りそびれて真田がカバーに走る。
グリップぎりぎりにあたり、打球は不二の前にカーブを描いた。
「呆けてんなよ」
返るつもりのない球。
一瞬立ち止まる不二より先に跡部はアシストに出ていた。
あきれながらもきちんと低めのたまをスマッシュで炒め、ポイントを稼ぐ。
こちらもぼーっとしている暇などない。
「手塚」
横から低い声が呼びかけてくるが、真田から突っ込まれるまでもなく分かっていた。
つい、である。
つい、なのである。
シングルスのつもりで一人狙い撃ちにするつもりだったのだが……ダブルスのコンビネーションの前では無謀な計画だったらしい。
ついつい使ってしまった癖のお陰で、あっさりポイントを取られてしまった。
流石に悪いと思っていることが伝わったのか、真田もそれ以上いさめる気はないようだ。
大人しくポジションに戻っている。
反対側のコートでは、無邪気に不二が「何で突っ立ってたんだ?」という跡部の問いに答えている。
「たぶんあのボール取れたよ?ただダブルスで手塚ゾーンなんて有り得ないから……ネタとおもって待っちゃったんだけど」
「寄りによってネタかよ」
……と。
跡部が口に出したのと、俺が思ったのは同じタイミングだった(俺がつっこむのもどうかと思うが)
耳をそばだててみる必要もなく、不二は「うん」と可愛く笑っている。
「もッと別の言い方もあるだろ?罠とか」
「ないない。ペテンシじゃあるまいし」
作り笑顔の効力は、身近にもっと怖い例を見てきているので慣れている。不二程度ならば可愛いものだ。
それよりも……「普通はやんないよねー、この局面で」だの「馬鹿じゃないの?」だか聞こえたのは気のせいにしていいよな?(幸村なら瞬殺だと思う)
ついでに、どさくさにまぎれて一緒に、
「んなオチいらねーよ、消えたいのか!!」
とか叫ぶ幸村もも無視……………………………………………したい。
柳が「またか」と頭を抱えているのは(ダブルスでゾーンを使って、以降封じるように言われていた)前科者として分からなくもないが……。
せめて次のブレイクまで見ていてもらいたいものである。
ところが……
「タイム!」
つかつかとコートに踏み込んで、ネットを踏みつけるや否や、我らが部長幸村精市は宣言した。
こうなると立海では誰も彼を止められない。
だが、氷帝はさすがに氷帝だった(キャラクター的には立海以上だと柳が言うだけのことはある)
「てめぇんとこはもうタイム取れないだろ」
幸村の形相に明らかにおののきながらも、はっきりをストップをかけてくれた。
「跡部、悪いな」
が、その程度ですむのならばうちでも何とかなるというもの。
悪びれない顔で、幸村は答えた。
「馬鹿相手じゃ練習にもならないだろ?だから指導くらいさせてくれ」
「ちっ」
おい……
そこで引き下がるのか?跡部。
その前に、幸村もなんだ?その言い草は。
「……おれがバカみたいじゃないか」
抗議する気はないので、呟くにとどめておくが
「ねえ、手塚来いよ」
頼んでいるのか命令しているのか分からないいつもの調子で、呼ばれたため口を閉じた。
口調の軽妙さとは裏腹に、手の平を自分側に持って、下からスナップする外国のギャングのような動きをさせる幸村。
ご機嫌が麗しくないようだ。
「キャラクター的に埋没したくないのは分かるけどさ。もう少しましな試合しろよ?」
「……む」
つい真田じみた返事になってしまうのも、それだけ今回ばかりは幸村が正しいと思ったからなのだが(理由はどうあれ負けに転じつつあったのは事実で、ここまで来ると俺に非がないとはいえない)
「分かってるよね、立海(うち)の掟は?」
「――負けてはならぬ」
「分かってんならやってこい」
「……………ああ」
頷く以外どうしろというんだ?
実際に俺も負ける気はないんだ。
ところが、意外なことに、ネットを踏みつけた足を見つめ注意したのは柳だった。
「精市、悪いが試合はもう――。
跡部も忘れてるだろうが………」
――ああ。
そうか、練習試合とはいえ今回は合同練習もかねる。試合自体をながながと続けるものではなかったはずだ。
結局、「補欠の試合も作るのだろう?お前も出るのだから」と柳が矛先を幸村に向け(幸村は珍しく阿弥陀くじで補欠を引いたため、出ない予定だが、そうなったらそうなったで「あとで試合、勝手にやるから」と宣言していた)
「そっか。じゃあ、跡部これでいいよ」
釈然としないうえ、勝負も途中のまま、あっさりと変則ダブルスは幕を閉じたのだった。
ところで柳……
その口ぱくで「醜態を晒すな」、と伝えてくるのは何?どういうことだ?
学習能力は一応付いているつもりだが……
「ワンセットマッチ以上この組み合わせでやって得るものがあるのか?」
その意見はもっともなことでもあるが、釈然としない思いがする。
まあ取りあえず、
「お前にダブルスは無理だ」
その意見には力強く頷いておきたい。
少なくとも後少し、他のダブルスを見るなり研究させてほしい。
それよりはずっとシングルスの方が上達も早いのだろうが。
* * *
部室の会話。ブン太・幸村・仁王
「そういや、幸村君。没個性ってなんで?」
「個性が足りてないってこと。むしろ埋没してるだろ?俺らの中じゃ、手塚っていまいちなんかねぇ。まあ最近ちょっとは強くなってるみたいだけど」
「幸村のルールは厳しいのぅ。柳生も気づけば紳士化してたし、真田もほれ?あのとおり、ちょっと時代錯誤だった程度が、いまでは言葉も武者だ。あれで大丈夫かのう?」
「本人楽しんだからいいんじゃない?」
「ちょ、幸村、それは……」
「ブン太も、だろ。ガムちゃんと膨らましながらでも試合できるようになってんだろうな?」
「「…………」」
触らぬ神=幸村にたたりなし。
これが立海の≪裏≫の掟だという話。