練習試合 ボーナストラック |
「手塚、何やってんだ?」
ハチャメチャな試合が終わって皆がホッとしてる頃、
ジャッカル桑原は、奇妙な光景に出くわした。
「……………」
視線の先には手塚国光。
さっきまで幸村に、真田ともども正座で説教されていた本日のみのダブルス要員である。
「えーと……」
話しかけてしまったはいいが、答えが返らない。
だからといって、スルーできないのがジャッカルの優しさ。
それは重々に分かってるんだろうが、いつのころからか独特のふてぶてしさを手に入れた手塚は、まさかのスルーだった。
「あの、な……?」
呆れる前に、不可思議に思うのは、なんだかんだとチームメイトをやっている慣れというやつなのだろうか。
ジャッカルは、ふと、その手塚の手が額に向かって無意味に動作していることに気づいてしまった。
もっといえばさきほど幸村にお小言をもらっているときから、手塚がやたらめったら氷帝側のベンチを気にしていたことも知っている。
氷帝寄りでブン太の世話をやいていたジャッカルだから断言できた。
手塚はずっと一点を見つめていた。
丸井ブン太の横できゃっきゃっと騒ぐ女子高生のような金髪。その横であきれ顔というか苦虫を噛み潰し、彼女が服を選ぶのを待つ時の彼氏役のような――あの跡部景吾を。
――それで分かる俺ってどうよ?
自問自答するジャッカルであるが、手塚の思考パターンは柳が思うより難しくない。
ましてやブン太が呆れるほどガキでもないと思う。
単純な話、ちょっと庶民的で好感が持てるもんだ。
――いや、あいつんち立派な日本屋敷って噂だけどよ。
それでも真田の武家屋敷ほどではないだろうし。などと馬鹿なボケをかましてる場合でもない。
突っ込みは鮮度が命。
立海で何を学んでるんだと嘆かれそうだが、テニス以外でここで磨かれたスキルといえば(幸村に逆らわないことを除けば)その速効性の高い、突っ込み力だと半ば本気で思っている。
めいめいの興味対象に向けて意味不明な行動を図る、フリーダムを兼ねそろえたレギュラー陣。
野放しにするわけにはいかない。
「で、な。あれ、だろ。それ、インサイトとかっていう」
そう。跡部景吾の必殺技(?)
手塚は、ベンチから腰を浮かすでもなく、だが素直に頷いた。
ちゃんと聞こえている。
手塚というのはこういうやつなのである。
むしろ的確に突っ込みをいれることについては、今や自分より上じゃねーかとおもうときすらある。がそれよりも究極なのは、本気でやってるときと敢えてやってるときが半々なる「ボケ」(というか突っ込み待ち)。
「ああ……」
――今回は、本気だな。こりゃ。
手塚は、元来一人で突っ込み待ちするタイプではないのだ。
先日の好きなタレント話でもわかるように、タイミングよくさっと機転をきかせることはしても、基本はのんびり予想の斜め四十五度のことを考えているタイプなのだ。
よくいえばマイペース。
悪く言えばふりだーむ。
だが毒はないから、こういうときは特に構えないでいい。
突っ込み待ちじゃないらしいとわかったので、まあ普通に会話を続ける。
「あいつも、メガネしてんのかもな」
「は?」
「いや、だからよ。手塚もよくやってんだろ」
そうそう。
だから別に違和感がないというか、真似だと気付かなかったのだ。
ジャッカルは妙に納得しながら、答えを言う。
「メガネを直すときの癖だろ」
ぽむ。
手塚はラケットを軽く上下に振った。
何やってんだ?ま、いーけど。
ジャッカルは、とりあえずなんだか分からないが謎が解けた風の手塚に、「やっぱそうだよな」と同意を促す。
が、
「それか」
軽く語尾上がりで言う手塚の様子には気づかず、すたすたと過ぎ去った。
なぜならコートの奥で、金髪に絡まれて大変なことになっているらしいブン太が名前を読んだからだ。
「馬鹿か?」
トータル的に見てその光景について、真田が、こっそりと本気の疑問符を漏らしていたとかいないとかの真相も、かくして闇の中。
とんでもない練習試合が終わっても、今日は立海は平和である。
(良くも悪くもまったくもっていつもどおり)