詐 欺 師 と 紳 士 (手塚 & 仁王 他) |
手塚の「メガニ」が定着して早数箇月。
学校の暮らしに慣れると同時に、部員の特徴も大分掴めてきた。
だが、手塚には、その中で相変わらず読めない相手がいた。
仁王雅治、その人である。
まず初日から銀色のチョロ毛を結んだ髪が目立っていたが、パッツン前髪だの、赤いのだの、スキンヘッドだののいる中では、それもまだ大人しい方だった。
同世代にしては大人びた様子と、言葉のなまりも、人を惹きつけはしたが、手塚からすれば突出したものでもない。
時代がかったものもいれば、データについて只管述べるものもいる……【俺語】といわんばかりの言葉を使うものもザラなのが、立海のテニス部だ。
(だというに……何故、こうも気にかかる……)
無論、恋ではない。(気持ち悪い。そんなこと有り得ない!と、手塚とて大声で否定したいところである)
でも、下手をすればそれよりも性質が悪いほど、仁王の行動から目を離しがたいのだ。
「理解できないものほど気にかかる……優等生の持つ、一般特性だな」
何となく持った手塚の苦手意識を察してか、柳はそう言ったが、実のところここ数週間、手塚自身、必要以上に、仁王に親しみを感じていた。
というのも、仁王は態度や見かけに反して部活については思いのほかに真面目で……手塚が苦手・不得手と自認する類の遊び人でも、不謹慎な人間でもなかったからかもしれない。
実際、仁王は、仮にさぼりかと思われるときすら――幸村という最強の口ぞえ人を得られる程度に「理由」をもっているようだった。
おかげで『明確なペナルティ』も付いたことはなく、ブン太などはそれに気付いてずりぃ!と叫んだほどだ。(ちなみにその情報がジャッカルを通じて、同じクラスの柳生へ流れて、手塚も知るに至ったのだが)
……と。兎に角好印象とまではいかないまでも、マイナスではなかったはずの仁王だが、此処一週間よくも悪くも「可笑しい」と手塚は思っていた。
「……手塚、ちょっくら付きおうて?」
「あ……ああ。ラリーか」
ダブルスの者と組んだ方がと言葉にしかけて、
「いいじゃろ」
遮られたり……
「……そちらがいいのなら、構わない」
返答は本当だが、何かと大人しいだけならまだしも、やたら自分に構ってくる……ような錯覚を起こさせられているのだ。
普段、仁王の絡む相手といえば、代表はジャッカルであり、真田であり、他の幸村曰く「名前も覚えられない大勢の部員」なのだが、この調子で絡まれるでもなく、「相手」をさせられて早一週間。
気まぐれに数日なら分からなくもないが……
(……間接的にネタにされることはあっても、こんなことはなかったはずだ)
ここにきて、自分のポジションをうっすらと悟りかけている手塚である。
とはいえ、真田やジャッカルのいうように、震えて断るほどのこともされていないだけ、警戒も薄い。
ゆえに、「いい」と答えては、可笑しな技を仕掛けられたり。途中で何故か(本当に偶然なのかといいたくなるタイミングで)ハプニングが起こって中断させられたり忙しい。
(流石にこのままでは身が持たないな……)
手塚は、困った時一番頼りになり、かつ危なくない男――柳生比呂士を頼ることにした。
だが、比呂士は、あっさりと「平気ですよ」と返してくれる。
「親交を深めようとしているのでしょう」
「…そう、か」
性善説でも唱えかねない断定には、これ以上問い詰めたり状況の悪さを訴えたりする気分がそがれてしまう。
今更、幸村の怖さにも真田の妙な時代がかったところにも、共にため息をついたりジャッカルの不条理&不幸にも慣れているが……柳生は柳生で独特だったのかと、手塚は心の中で手を打った。
「彼のことは気にするだけ無駄ですよ。……静かにしておく分には害もありません。なに、慣れればちょくちょく悪戯の一つや二つしかけてくるでしょう」
「それは……いいのか?」
「彼なりの仲間表現なのかもしれません。何はともあれ現状、放っておくことが一番です」
(もう少しマイルドな返答が来ると思ったが……)
妙にクールというか、割り切れている部分が気になるが、基本の人あたりのよさは相変わらず、な柳生の言うことだ。
頷いて、素直に放っておくことにした。
が……しかし、このことが後で手塚にとってとんでもないことを巻き起こすことになる。
* * * * *
普通だといったわりに、来る日も来る日も仁王の態度は可笑しかった。
朝は、普通だと思ったのに、放課後になって急に話しかけてくるパターンもあったし、反対に朝は話していたのに「集中したいから」と急に、放課後話しかけられない雰囲気になっていたこともあるほどだ。
しかも、試合残念ながら慣れないダブルス形式(まだダブルスの練習はあまりしておらず、基本としてある一定のレベルのシングルスが全員出来るように基礎を叩き込まれている最中だったので)では、声をかける合間もない。
シングルスも反対にダブルスを練習しろといわれて、一度組んだ時に分かったことも、ただ「仁王はダブルスが上手い」ということだけで、プレイが安定していなかった。
それでいて、決して下手というのでもない。
ただただプレイスタイルが不規則なのだ。
それも一週間もすると、すっかり板に付いたようで、今度は柳生と組んで着実なダブルスとしての安定性を放っており……
「凄いだろ?」
幸村に声をかけられて、ようやく手塚がはっとする程度に、【見とれるプレイ】に進化していたのだが、
「……そうだな。ただあいにく一つだけ分からないことがある」
勝手しったる幸村に対して、手塚と……横で控えている(次ダブルスなのだ)真田は、若干首をかしげていた。
「なんというか……仁王にしては大分お手本どおりというか……慎重な技を使う」
「そうなのだ。……手塚もそう思うか?」
「ああ……」
シングルスでのプレイを見ていて――相手にする限りでは仁王雅治という男は、奇抜なことを好んでいた。
そういう意味では、ダブルス組んで三日にして、鉄柱あてという技をやってのけた挙句、持ち技にしたブン太と変わらないかもしれない。
ジャッカルのフォローが利いている辺りも似ていた。
対する、仁王の今の相方、コートの中の柳生ももちろんフォローは上手いが……
「柳生も……仁王に感化されたのか?」
「彼にしてはアグレッシブ……というか奇抜だ……攻撃型なのは頷ける部分もあるが……」
「へえ……」
幸村が口元を押さえて、笑いをこらえるように頷いた。
声が上ずっている。
「つまりお前たちは、比呂士が可笑しいっていうんだな?」
「「……ああ」」
それから、静かに声を潜めた。
「仁王と柳生には、実はこのまま、二人でダブルスを組んでもらうつもりなんだ」
「なっ……」
オーダーは上の学年がするのでは……と一瞬考えるが、考えただけ無駄だ。
今年の上も強いことは強いが、幸村相手では桁が違いすぎる。
その幸村が敢えてアクの強い二人にダブルスを提案したなど何事か?などと……思っていると、
「どうも事情があるらしい、あの二人……。家の関係らしいんだが……」
思いも他に、彼が静かに――真剣に言うので、真田も手塚も思わず凍ってしまった。幸村の絶対権力は既に同学年の中に染み渡っているのだ。
逸れに加えて【家】となると……氷帝ほどの名家が集まっているでもないが、柳生のところもそこそこなだけに、何やら曰くありげに思えてならない。
「似ていないが、兄弟か何かなのか……」
真田よりも先に手塚は声を潜めて詳細を促す。
失礼だが、真田よりは事情を察すに鈍感でないつもりの手塚国光(職業学生)。
それとて幸村に比べれば赤子のようなもの。
「さあそのうち分かるだろ」
綺麗に微笑まれるうちに、チャイムがなり、あっという間に始業の時間が迫ってくる。ミステリアスな(既に)エース候補をかわして、手塚はさっと教室に向かう。
真田は同じクラスでないからいいものの、手塚は片方と同じなのだ。しかも片方によく相手にされている。いつ間違えて余計なことを口走らないとも限らない。
取り合えず観察して、何か掴むなり……テニスに支障がないように、あの二人の(というよりもこの場合仁王だが)奇行から離れられるように、しておこう、……そう思ったのである。
to be continued(短いけれど 一度切ります)