詐 欺 師 と 紳 士 その2(手塚 & 仁王 他) |
「兄弟か何かなのか……」と呟いた、迫力&真面目さが持ち味の【真田ヴォイス】が耳を離れず、手塚は教室に入ってからも柳生と仁王について考えていた。
(似た特徴……というとやはり親戚か……ありえるのは従兄弟だが……)
最早思考の迷路である。
すぐ斜めにある柳生の机(&本人)をじっと眺めて、無言でうんうん頷く手塚には、さしものジャッカルも心配したらしい。
「おい……また誰かに騙されてないか?……俺もここのところ、丸井には手をやいてんだけどよ……」
休み時間、益々深く考え込む手塚の肩を叩いてくれるが、手塚はあくまでもマイペースだった。……というより、さり気なくヒドイことにジャッカルの声などどこ吹く風、である。
授業中は、真面目が信条なだけに思考も停止していたが、その日の放課後、
「……ああ、そうか。靴下の折れ方が、癖が……」
柳生と仁王の家の事情より先に、あることに気付いた。
此処のところずっとあった違和感への答えは、目の前の【有り得ない現実】に打ち勝ち、手塚はいよいよ、柳生と仁王の入れ替わりを見抜いたのである。
靴下の折り癖だと、ペン回しを出来ない柳生がしきりにペン回ししていたり……ないはずの、後れ毛がちょこっと飛び出していたりと、よくよく見れば分からなくもなかったが、そこに感づいたのはさすがといえよう。
だが……哀しいかな、如何せん観点がずれていた。
ダブルスのプレイのための作戦には結びつかず、幸村の意味深長な言葉によって、手塚はとんでもない思い込みを抱えることになった。
「仁王、か……もしや」
「おお、ようやくかの」
「……なぜそんな変装を」
と、問いかけた手塚だが、「それは幸村が……」と事情を説明しかけた仁王の口元を押さえ、はっと息をのむ。
「?」
首をかしげて、そ知らぬふり(と手塚には見えた)をする仁王に、手塚は間髪いれず、
「分かった。今はまだ話さなくてもいい……」
深刻な調子で返し、だんまりを決め込んだ。
(入れ替わりの修行(?)をしてまで、相手と交代したいなど、仁王と柳生の家にはいったいどんな辛い事情が……)
手塚の頭の中を回るのは、幸村が悪戯に残してくれた一種の【暗示】だ。
(不憫な生き別れの兄弟、か……あるいは祖父の後妻の息子……か……有り得ないとはいえないだろう……)
何やら壮大な昼ドラ風大河ロマンか、はたまた韓流か……といわんばかりのストーリーが彼の脳内で急速に出来上がりつつある。
さらにそこに、いい按配で休憩時間だからと、真田が通りがかり、手塚に『入れ替わり』をきくや否や、
「分かった。……大変だったな」
などと同じように、黙り込んだものだから、まさか「おもしろそうだから、ダブルスで遊んでみよう」という幸村のちょっとした提案だとは考えもつかなくなる。
そもそも……手塚が、微塵たりとも「家の事情で入れ替わらざるをえなかった」という筋書きを疑わなかったのには、とある理由があった。
実は、たまたまこのクラス及び隣の暮らすではBSデジタルの連続放送により、あるドラマが流行していたのである。
その、感動の名作のタイトルを……【二人のロッテ】という。
双子が入れ替わり、それぞれ自分を引き取らなかった母と父に再会する感動のストーリーである。
これはもうタイミング含め、できすぎていた。
それもそのはず、実は、この海外ドラマ、親世代に活躍した俳優が出ていることもあり、幾つかの家庭で母親がはまったのが原因でもあるが……子供の間で大きく流行らせた原因は丸井ブン太その人なのだ。
つまり……入れ替わりのアイディア自体、ブン太がふざけて仁王に提案し、通りすがりにネタを求めていた幸村が採用とした……というのが事件の発端だったというわけだ。
だが、真田も手塚ももちろんのことながら、そんな事情はしらず、……かつ、、えらい感じやすいお子様だった。
よって、手塚などは真剣に、
「仁王……そう……だったのか……」
真剣に 【双子】説 への切なさに、声を詰らせていた。
目が心なし赤い。
そのまま、肩を強く叩き、柳生の皮をかぶった仁王の前に進みでて、仁王立ちになって……涙が零れそうな双眸をかっと見開く。
そうして、徐に……真剣勝負の鉄面皮は、こう訪ねたのだった。
「で……どちらが兄だ?」
手塚としてみれば大問題だったらしい。
加えて言えば、手塚はその後も、たまによく分からない感性を発揮し、失笑を買うが、それもまあ愛ゆえ……と思いたい……思いたい……思っておこう。
このときも、当然、すぐ後ろまで迫っていた幸村@総隊長殿に爆笑されたのはいうまでもなかった。
ついでに、仁王の方はというと、よもや信じ込むとは思っていなかったらしく「は?」と口を開けたまま閉じられなくなっていた。付き合いがようやく出てきた程度だったので、手塚の性質を完全に理解してなかったのだ。
その横で、最早「手塚(と真田&他の部員)は俺の玩具」とでもいいたそうな悪戯仕掛け人幸村精市は、反対側から素早く駆けつけてきた柳生(仁王の変装中)を指差し、ますます声を張り上げて笑っている。
「ははははははは、似合ってるじゃないか、柳生。……大方何をしてるか検討はついていたが、実際に制服ヴァージョンをみたのは始めてだよ。まさか真面目なお前が、本当に仁王とタッグを組むとはな」
「幸村君……」
「……柳生、なのか……」
ため息交じりに、手塚の呼びかけに、「ええ」と柳生比呂士は、妙にほっとしたように肯定を返した。どうやら、柳生なりに「見抜いて欲しかった」らしいことが伺い知れる。(だから、すぐ見破った幸村の言葉に、強ち攻め立てられないにちがいない)
だが………なんだかんだ、加担していたらしい柳生の言動に手塚は密かに傷ついた。
そのうえ、紳士の容赦ない一言が待ち受けていた。
「幸村君と……仁王君ごときの悪戯に騙されないで下さい」
「…………」
諌められることか?非常識なのはどっちだ?
という根本的問いかけと同時に、真田や手塚だけでなく……
「ごとき……って、やぎゅ……」
さしもの、仁王が絶句するほどに、柳生比呂士はさり気なくキツイ。
あえて恐怖の権化幸村精市を抜かして、仁王にだけ「ごとき」をつける辺りも抜かりがなかった。
のちに、「だから比呂士は敵にしたくねーんだよ」と丸井ブン太がさり気なく言い、柳も「柳生が、蚊帳の外にいてくれるなら」と時に注釈をつけるようになる柳生比呂士……別名、仮面紳士。(仁王と入れ替わることからあだ名はこう進化する)
(柳生だけは…まともな類だとと思っていたのに)
手塚は、こっそりとため息をついた。
紛れもない、それは手塚国光の本音だった。
ついでに少し先のことを話せば、この「変装」はあくまでも遊びでしかなく、コートの上で彼らが「入れ替わる」のは、これより先、先輩たちが引退した後で(流石に先輩が困ったので止めたらしい)あるが、それはまた別の話。
また、手塚がからかわれやすくなったのもこの件から。
良識人比呂士は味方であって……幸村&仁王には逆らえず(恐らく弱みを握られている)……実は冷たい……という説が手塚の中にこっそり息づくようになる。
ただ、一方、この件で、確実に仁王と部員との溝が縮んだことも確かであり……なんのかんの立海テニス部は、引っ掛けられた手塚や真田含め被害者を増やしつつも、憎めない詐欺師と紳士コンビを容認するようになるのだ。