部室トーク Lv2.0(赤・2・8・ブン・ジャ・幸・真) |
立海テニス部は校内でも人気の高い部類に入っていた。
全国制覇の立役者、幸村精市を筆頭に、多くの女生徒ファンを抱えている。
だが、そんな彼らも一男子学生であることにはかわりない。
当然、部室で好みの芸能人トークなんてことも(たまにではあるが)するのだ。
* * * *
「好みのタイプぅ?」
予期せぬ質問だったのだろうか。
丸井ブン太は着替え中の手を止めて、振り向いた。
その「何で言わなきゃいけねーんだよ」とかいてある凶悪面に、答えをうきうき待っていた後輩、赤也は一瞬怯んだ。
ちょっとした好奇心だったのである。
クラスのやつらに聞かれた「どんなタイプの芸能人が好きか」自分も答えを考えながら、ふと先輩はどうなのかなと思っただけなのである。
部室にいる先輩(柳生・丸井・仁王・桑原)の中で一番聴きやすいからきいただけなのである。
なのに、なんでこの人こんな機嫌悪ぃんだよ……。ちょっと理不尽だと、赤也はぼやく。
……と、そこに通りがかりの銀髪があっさり先輩の不機嫌な理由を暴露してくれた。
「あーあーブンちゃんに聞かない方がいいぜよ。これで彼女思いじゃからのう」
詐欺師という不名誉なあだ名の先輩の発言だけに気をつけたいところだったが、そこはそれ。
彼女いない歴=年齢の後輩としては興味が先に立つ。
「え?!丸井先輩、彼女いたんすか!」
「んだ?どういう意味だよ」
「いや、だって、意外っていうか……どんな子っすか?芸能人で言うと誰系?」
聞くっきゃないっしょ。
さっきより気合いの入った赤也だが、ブン太は臆することなくあっさり言った。
「わかんねーわ」
少しは考えていたところを見ると、それなりに想像してみたらしい。
実際の写真なんかこの人はたぶん持っていないだろう。
そこはもうあきらめることにして、本来の話題に戻す後輩その1。
「んじゃ、先輩の好みのタイプってどうなんすか?」
「そうだな、新垣結衣とか可愛くね?」
「彼女はいいですね。蒼井優も好きですよ」とは、何気にこっそりはいってきた紳士の好み。
清純派が好きと普段から言うだけあって、選択が分かりやすい。
「真田君もわりとそのあたりが好きだと踏んでいます」
紳士は、妙な情報も持っている。
みんな敢えて突っ込みはいれないが、「ああ……」と納得の表情を見せていた。
この部で真田はわりと純情青少年ポジションなのである。(降臨してる王さまがぶっちゃけすぎの下ネタ好きだからだと思われる)
「ところでジャッカル先輩は?」
「あー、アッキーナとかいいよな」
「きた、グラビアアイドル好き!」と声を上げるのがブン太。
確かにジャッカルはグラビア系が好きそう――そう思われているのか、周囲に知られている事実なのか、仁王ブン太筆頭にうんうん頷く様子が見られる。
「意外とジャッカルは馬鹿タレも好きじゃろ?あー、むしろ赤也か?スザンヌとか」
「えー、俺は……頭悪いのはちょっと……。なら、ベッキーとかのがいいかも。あと、柳原とかも、意外と可愛いと思うっす」
「え?マジかよ」
「意外とだって!……つか、丸井先輩、王道めんくい決定でしょ」
「……うっせ」
「ブンちゃんは王道じゃのう」
相方ジャッカルが真剣に頷くところをみるともしかしたらこれは本当に彼女も王道可愛い路線なのかもしれない。
「はいはい!けど、俺一番は志田ちゃん!断然志田ちゃん。可愛すぎるっしょ」
「志田ちゃんか。……まあ、確かに可愛か。お子様にはちょうど好さそうじゃのぅ」
「えー!そういう仁王先輩は誰が好みなんすか」
そういえば、と一瞬の間。
みんなこの手の会話は彼にふってこなかったらしい。
視線が集中する。
「滝川クリステル……」
ぼそりと洩らされた答え。
「ああ」と誰かが言う前に、部室の机から椅子を引き出して、斜めに腰掛け、
「こんばんは、滝川クリステルです」
「です」
連続してモノマネを始めるダブルス2(ブン太&ジャッカル)。
やると思ったよ、こいつら……とばかりに肩をすくめて、仁王は「何とでもいえ」と食いつきもしない。
と、そこに……
がちゃり。
扉があいて、
「あれ?みんな何凍ってるの」
この部室最強の人幸村精市が入ってきた。
後ろには柳と手塚がいるが、組み合わせが妙なところを見ると、偶然一緒になったのだろう。
「そうだ、幸村はどんな芸能人がタイプ?」
特攻したのはブン太。彼は比較的幸村に許されるキャラクターらしく、彼でなければこんなにやすやす質問できなかっただろう。
「うーん、お天気の半井(なからい)さんとか結構可愛いよね」
「え?」
うーんと?確かに悪くはないが、なからいさんってあれだよな?あの、NHKの……てか、趣味、それってこの年で結構マニアックなんじゃ……
各々首をかしげかけ……
「何?」
にっこり笑って、同意を求めるかのかの君の顔に、あわてて反応した。
「いやいや」
「意外だなと」
「そうそう」
「あの……」
凍りつく4人衆。
「えーと……そうだ。なら、柳は……」
フォローがわりに唯一立ち直ったジャッカルがききかけ……途中で止まる。
柳には聞く必要ないだろう、とはみんなの胸のうち。
達人の好み=井上真央はある意味でここでの公式になっている。
仁王がよりによって大知真央と間違えて泣かされたのは記憶に新しい。よりによってそこと間違えなくても!まだフィギュアの新星のがよかった、と赤也はそのときのことを高速で振り返っていた。
ついでにいえば、そんな赤也の横で、ブン太は、幸村まで急に顔色を悪くしているのが気にかけていた。
こっちもこっちで柳がらみで何かあったのだろうか。そういえば、真田・柳とともに彼が行った選抜の帰りに妙に柳を恐れていたような…… 思考の迷路に入りかかるが、ブン太は、「ここで軌道修正できるのは俺だけだ」と、何とか意識を戻す。
見渡せば、ちょうどいいところに手塚。
「手塚さ、お前、エリカ様だろ。実は」
「あー、あり得るのう、これで結構強気に攻められてみたいタイプじゃけぇ」
「だろ?仁王。な、手塚そうだよな?エリカ様なんだろぃ?」
手塚は、空気を読んだのか、うなづく――かに見えた。
だが、返ってきた答えは
「別に……」
いっぱくおいて、「うめええええ!!」という声が響いた。
幸村は、いつの間に返しを覚えた手塚に、やるな、とこっそり呟く。
残念ながら、真田同様手塚のことをからかえる時期ももう過ぎたかもしれない、と。