未知との遭遇 バス後編 |
【跡部MAIN】
「ねえねえねえ、俺、最後?」
突然降ってきた声に、顔をあげる。
幸いイヤフォンはさしていてもiPodの音は止めているので、聞かれた内容は分かった。
――バスの席はぽこぽこ空いていたし、中途半端な場所を陣取っていたのに、何だってコイツは俺のところに来るんだ?
首をかしげたいところだが、答える方が先だ。
何となく行動のパターンは読めた。
何せ相手は目の前で手をひらひらさせて、
「起きてる?」
だなんて呑気に繰り返し尋ねている。
きっとこちらが答えるまでしつこくされるに違いない。
「アーン?」
イヤフォンを抜き取り、視線を向ける。
「見りゃわかるだろ?お前待ちだ」
「えーやっぱ?電車が遅れちゃったんだよね」
嘘つけ、ただの遅刻だろうが。
言う前に、今度は目の前に紙が、ひらひら。
見れば確かに遅延証明書。
「ああ、そうかよ」
「よし、んじゃ俺、隣ね」
よろしく、と笑顔で自分に席を詰めさせる少年。
恐らくこれが最後の一人、手塚の代理なのだろうが……。
跡部は何となく嫌な予感がした。
「おい」とすごんでみても、
「いいよね?跡部君」
軽く返されてしまう。
何で名前を知ってやがる?
普段ならそう突っ込みをいれたいところだが、今声を返したら負けだという状況だけは把握できた。
会話のきっかけは、作らないに限る。
そういうことである。
「んっと、まず、挨拶だよね。後ろの――ええと立海の、目の細い――」
だが、止めるより早くくるりと斜め後ろを見るのはどうかと思うし、
目の細いという形容も気の毒になる。
一応名前くらい教えておいた方がいい。
――俺にばかり降りかかってこられても困るからな。
というわけで、多少安易かもしれないが、
「柳だ。隣が幸村」
名前とついでに、プレイヤーとしてのタイプなんかも足しておく。
「そうそう。あの人たちも含めてさ。ちゃんとしておかないと二年少ないっていうし」
礼儀正しいのかなれなれしいのか判断に困る。
――……それ以前に俺が何で、友達前提みたいに話しふられてるのか、わけがわからねーよ。
だが、もう遅い。
巻き込まれた、とふと思った時には既に相手は、
「ねえねえ」
と後ろに話をふって、一気に注目をかっさらう。
おっほんと軽く咳払いしてから、
「千石清純、ダブルスメインの山吹切ってのシングルスプレーヤー、になる予定。特技はすごろくとか、運のよさが必要なもの全般で、好きなのはかわいい女の子。最後の枠にはいれちゃった運にびびってるけど、テニスは好きなんでよろしくおねがいしますっ」
「――……」
一息で言いきった。
いいながら、「よく出来た?」とこっちを向くのはやめてほしい。
跡部の知り合いだから大丈夫だろうといわれかねない親密さを演出された気がする。
――計算、か?……いや、違うんだろうが。
調子が狂う。
「ああ………よろしく」
跡部が訝しげにしていることは分かるだろうに、あっさりと声が返った。
面喰っている立海のメンツの中で、立ち直って挨拶をしたのは幸村だ。
元来人に興味がないタイプかと思っていたらそうでもないらしい。
それとも千石だからこそ気になる何かがあったのだろうか。
――いや、ないな。
コート以外での淡白さ加減から予想すれば、あくまで「立海の代表者」と意識しての挨拶なのだろう。
現に、すぐに名乗りがてら「立海からは三人出ている。実質二年の代表は俺になっているから、何かあったら聞いてくれ」と続けている。
一方柳の方が本人自体に好奇心を寄せているのか、突然の闖入者に対して好意的に見えた。
一言、名前と所属、よろしくと告げた後に、真田にも言葉を促す。
更に奥にいた年齢詐称疑惑のある彼はきょとんとしていたが、やがて
「真田弦一郎だ。よろしく頼む」
と、律儀に告げる。
お前までこたえてやんな……。
つけあがるだろうが、と呟きながらも、
跡部は、この時点で何となく「千石の性格」を把握しはじめていた。
「っしゃ」
何やら気合いを入れるような声とともに、前を向き直り、千石が、ちらちらとこちらを見ている。
合宿先である埼玉の施設まではバスで30分。
無視をせずいるのは大分厳しい時間だ、と。
顔を背けるも不自然で、やむなくそのままでいると案の定詰め寄られてしまった。
「記念すべき一人目!跡部君のこときかせてよ」
そして「1人目?なんの話だ?」などと疑問をはさむ余地もなく、
「んじゃ、まず、ケイタイの番号教えてよ。あとなんだろ、氷帝ってどんなとこ?てか跡部君ってどんな子がタイプ?」
などなど。
矢継ぎ早に質問されるわ、答えなきゃ答えないできめつけられるわ、あげく……
「あーそっか、そうだよね。好きなタイプっていうか彼女いたりする?好きになったのがタイプってことは……なさそうだなー」
「アーン?」
「なんか女泣かせっぽいもん」
「あのな……」
「で、さ。それより俺気になるんだけど、部屋ってどうなってんのかな。二年まとめてならいいけど三年と一緒とかきつくね?」
「まあ、それは面倒だな」
「だよねー。でも立海のひとたちもなんか真面目そうだからなぁ。おれ仲良くなれるかな?どう思う?ていうか、跡部君はもう交流あるの?」
ETCETC・・・・・・・
バスの間中ひたすら話しかけられ、なんのかんの相手をしてしまい、跡部はぐったりすることになる。
ななめ後ろの席では、柳が観察ノートの跡部景吾のスキル項目に、「優等生ならではの面倒見の良さ」と付け加え、
幸村は他人ごとのように見つめ、
真田に至っては同情の眼を向けていた。
自分が貧乏くじを引かされたと見た跡部は、早々にバスのステップをとびおりていった千石の背をさして、
「あいつ、なんであんなに元気なんだ……」
と、そっちの三人に思わずボヤいたのだが……
三人ともそこは、お前が言うかと言わんばかりに、
「氷帝も、ねえ?」
「同じようなノリだろう」
それどころか、
「ああ、跡部って意外と繊細なんだ。気を使われてるのかもね」
ずばりな答えを投げかけてくれた。
合宿スタート直後、
当然、氷帝メンバーがなんのかんのとセーブしていたことを有り難く受け止める余裕などまだあるはずもなく、
跡部はげんなりしながら、千石と二人部屋だけは免れますように、と祈っていた。
まだ序盤。続く。