選抜合宿 一回目 立海結果速報? |
【SIDE 手塚】
「おう、手塚。帰ってきたってよ」
「そうか」
昇降口から見て、部室方面がざわついていたので首をかしげた手塚に、ブン太が気づいて解説してくれた。
選抜合宿に行っていた三人が戻ってきたとのことだ。
「今日から出るのか?」
「さあな。幸村君のことだから今日は顔出しにきただけだろぃ」
「なるほどな」
幸村はテニス馬鹿だが、スポコンという文字からは程遠い男だ。
練習をしっかりこなして戻ってきたというのなら、今日はこれ以上運動量を増やさないだろう予想は簡単につく。
「むしろ、報告によってだけ珍しくね?な、ジャッカル」
「あ?幸村たちか。真田と柳ならまだしも、一人だけ先に来たっていうし、確かに……」
「……何かあったのか?」
「どうだろう。俺、さっきそこで真田に会ったけどやたら疲れた顔してたぜ。幸村が無茶いったんじゃねーか」
「………」
――それならば毎度のことだ。
……と、手塚は言いかけてやめておいた。
実際、合宿にいっていたらその疲労を味わったのが自分もだろうという想像がついてしまったせいもある。
「で、今から集合だって」
――まあ行くか。
肩のリハビリが終わった報告もしなくてはならない。
手塚は、これでいつもどおりの立海になるなと妙に感慨深く思いながら、ブン太とジャッカルの後に続いた。
* * * *
「先輩方は別に報告会をしているので、こちらはこちらで報告を始める。柳――」
緊張感が違う。
もちろん彼らのいない間も練習は続いていたし、手塚はその合間いなかったわけだが、周囲のぴんっとはった空気は感じていた。
幸村がやけに(無駄に?)おごそかな雰囲気で告げると、柳が引き継いだ。
「まず俺たちの代で選抜合宿に参加したメンバーだが、うちから弦一郎、精市、それから俺。選抜自体には手塚も選ばれている。他校だが、氷帝から跡部。山吹から千石が参加した。他はいない。ただ跡部の話から察するに次の選抜には、氷帝から数名は参戦してくるだろう」
「参戦って……」
突っ込みを入れるブン太をスルーして、そのまま話は跡部と千石のデータ分析に移った。
どのコースが甘いだ、どういうタイプのプレーヤーだそういったことよりも、どちらかというとそれぞれ学校別の練習方法をメインにしている。
立海はこれまでのスタイルを崩さず、これらの要素を上手く取り込む、という宣言なのだろう――と、手塚は納得した。
その手前にわけもわからず「なぜお前がこなかったんだ」と真田になげかれ、あげくになぜかその真田が柳から「ホモ疑惑がでてたぞ」といわれてショックを受けている意味不明なシーンを目撃してるのだが、一瞬でそんなことは忘れた。
あくまで彼らは真面目に――立海らしく「対外的には真面目に」合宿のメニューをこなしてきたらしい。
が……
「だそうだ。で、真田はどう思う?」
「――む」
話がふられると思っていなかったらしい。
真田が急に言われて、一瞬考えこんだ。
考える以前に、何やらその横顔に異常な疲労が見て取れる。
――これはいったい……?
だが、そのまま跡部のポテンシャルについて自分なりに語りだした真田に、安心している周囲に、敢えて突っ込みをいれるほど手塚は空気がよめていなくもない。
「あとは蓮二の言うとおりだ」
「じゃあ、参謀に補足があればそれを――」
と……。
ナチュラルに会議が終了するだろう様相をみせたときだった。
案の定というか、なんというか、黙ってテニスの話だけをきくメンバーではなかったので、「なんか面白いネタはないんかのう」と仁王が突っ込みをいれたのは。
当然のようにそれにのるのが、ジャッカルと赤也、ブン太。
まあ乗るというより一応きいておかなきゃの感覚なのだろうが、紳士も反対をしていないところを見ると、合宿での同学年の様子に興味があるらしい。
ところがこれがまずかったのか。
きらん。
幸村の眼が厳しくなった。
顔に皺が寄るそのさまにいち早く気づいて、顔面蒼白になったのは真田だ。
――何が……?
起きたのだろうか。
聞く必要はなかった。
「枕投げだのなんだの修学旅行とほとんどノリは変わらなかったが、」
と、まあそこまでは周りもまじかよ、真田もやったのか。跡部はしらねーだろ。つか、誰だよ提案出来た馬鹿。だのと、騒いでいたのだが……
「……たしかに跡部は道明じっぽかった」
ぽつり。
告げられた柳の声にしぃーんと見事なまでに凍る。
――………ああ。
「千石は軽い感じで、ナンパなどすると成功するタイプだろう。あれはすなわち――」
――美作か。
少女漫画のキャラクターを理解できてしまうようになった自分が悲しい手塚だが、それ以上に哀しいのは、真田の苦労をよめてしまったことだろう。
ろうろうと(?)語る柳にむかって、顎を突き出し、真田にきつい眼差しを送る幸村。
おい、とめろ(さもなきゃわかってんだろうなぁ?)、と描いてある顔と、
それをみて血の気が引いている真田に状況は嫌になるくらい見えた。
さきほど小耳にはさんだ柳の、「お前はホモなのか」疑惑といい、
「なぜお前がこなかったんだ手塚」という真田の悲鳴といい、
――つまり……
あれだ。
大方真田は、幸村に「あの二人に柳を近づけるな」とでも命令されたんだろう。ところがからまわって、なぜだか仲良し疑惑がでてくるほどに柳にくっついたということか(※実際はちょっと違うのだが手塚の予想※)
「――………次のときは気をつけよう」
そうでないと、明日は我が身、である。
巻き込まれることにかけて、此処一年ちょっと真田とともに苦労をしてきた手塚であるが、そろそろ学びつつあった。
間違えなく幸村は今度はこちらに狙いを定めてくるだろう。
柳のあの病気――ちょっとばかし、夢見がちに自分を花沢類的な感じのポジションで考えちゃうアレ――がでる限り。
「というか、なんで柳はああなったんだ」
ことの発端については別の機会に別の場所で語ることにするが、柳のコードネームは「おれ、小栗」である。(※彼の発言より抜粋)
F4的に入るんだったら跡部だよなーと思いつきで口走っちゃった仁王をどうにかしたい……とは、おそらく幸村も思ってることだろう。
「まあいいか」
肩も無事治った。
人災も免れた。
なんとなくほっとする手塚は、練習試合のときより格段に強くなっていたのである。
END