「ねえ、忍足。従弟いるんだって?」
「なんや 藪から棒に……」
いやな予感がするわぁ。だてメガネを直しながら、教科書を放りだしてそちらをみやる。
あきらかにワクワクした表情で小首を傾げているのは、ジローに並ぶ部内の問題児、不二周助。
「――ってことは今度の練習試合もくるんだよね」
「別にテニス部やなんていっておらへん」
「ふうん、やっぱそうなんだ」
「ちょい、自分、話ききや」
とはいえ、これでは暴露してしまったも同然だ。
練習試合の話を持ち出してくる時点でどうせ、知っているのだろう。
「四天王寺にも忍足なんて苗字、どうせ一人っきゃいないだろ」
横からフォローにもならないつっこみが飛んでくる。
――宍戸の場合、他意はないんやから……我慢や我慢。
いいきかせるが、いらっとするのは何でだろうか。
思えば「なあ侑士、最近沸点低くなったんじゃね?」なんて先日も相方に言われたばっかりだった。
「ま。な。せやって、別に中ぼうになってから そんなにあっとらんし。なぁ?幼馴染も身内も意外とドライやん。不二んとこだってそうとちゃう?」
佐伯と裕太を思い出して言えば、
「そっか?裕太とは俺らカラオケよくいくし、佐伯とだって遠いけどそれなりにつるむぜ?」
今度もまた宍戸。
――おまえーーーー余計なつっこみいれんな。
心の中で悲鳴をあげるものの、全く通じる気配はなさそうだ。
――まあ俺としちゃ、けんやが何いわれようとしったこっちゃないんやけど……
でも問題はそれによって引き起こされる【別の悲劇】の方だ。
なんせ、練習試合といえば、跡部は一度失敗している。
立海での、あの 氷帝の大幅なイメージ低下。
問題児を御しきれなかった自らのリーダーシップへの疑問。
彼の中でのミスは許されないのだろう。
そのミスの元凶である不二こともあろうに、自分の血族だからという理由でまたも他校にターゲットを絞ったと知れば……
「あかん」
思わず口を押さえる。
「ん?何がー」
間延びした声でこちらを見る不二(兄)とその頼れない(止めない)親友宍戸亮。
――こりゃ、どうにか、謙也の、あの「いじられやすい」性格を、ごまかすほかない。
結論は出た。
そう、問題はもう一つ。
忍足の従弟――忍足謙也とは 異常にいじられやすいキャラの持ち主だったのである。
* * * *
「くしゅん」
同時刻、
「なんや、けんや、風邪ひいたんか?それとも、あれか。こないだいっとった、東京にいくなり急に伊達めがねに目覚めた従弟が噂でもしとんのかもなぁ あはは」
「ありそうやな。んー、にしても、美系でもて男君やった従兄弟がだてめがねって、それふっつーに はやってるおしゃれメガネなだけなんちゃう?妙に心配せぇへんでも、俺ら、からかったりしないぞ」
エクスタシーと、なぜか貰ったガムのにおいをかぎながら(そこはかとなく、そういうあたりが従弟をおもいださせて困るのだが)白石がそういう。
謙也は、ぞくっとする背中の震えを押さえて、はははとからわらいをした。
こっちも、こっちで従兄弟について問題をかかえていた。
いじられやすい、といわれるだけに、普段から巻き込まれがちなぶんしっかり警戒を覚えている忍足謙也である。
――侑士がどんなに変態になったってしらへん。せやけど、わけのわからん追っかけに足をそめたことで、俺までからかわれるっちゅーのは堪忍してほしいわ。
そう、彼の心配はそこにあった。
謙也の中で、ある程度ダサ男化しようと、従兄は身長も雰囲気もある、そこそこ以上のやつにちがいなかった。
だがそれはつい先日までの話。
乙女のごとく、頬を染めて片思いの話をする彼 を見る前のことである。
「――あかん……」
あんなきゅるるんっとした、動き、自分だってまだ我が従兄弟であることを疑いたい。
それだというのに
――ネタにされてもう……
そんな危険、ゆるせるはずもなかった。
かくして、従兄弟同士はきたるべく再会にそなえ、警戒をつよめていたのである。
もっともそんな警戒も、不二の悪戯と、忍足ズのタイミング悪さに 水泡に帰すのだが……
薔薇設定もからんじゃいるんですが、忍足は 芸能人ばりに 女子校生の追っかけやってるよってだけです。わからんひとでもだいじょうぶのはず。