ヴァンパイア(Vampire不二SIDE)   >暗躍後夜 

 いつ【彼】をこっち側に引き込んだかは忘れたも同然だ。
 だから例え彼が今みたいに音もなく、気配を消すふりまでしてもぐりこんできても別に気にならない。
 屋敷は後輩――越前のところを気紛れに間借りしてる。
 英二も一緒だが、気づくと骨だ。
 ソファで本を読み、くつろいでいた僕はさっと飛び上がった。
 サエがイタズラを考える前に、
「……観月には会った?」
 まだ姿を見せないサエの方に先に移動してみる。
 彼の位置はとっくに気配で悟ってる。
 ――君の中の僕の血はそんなに甘い呪縛じゃないから。
 例えば忘れていたとしてもいやがおうにも会えば蘇るんだ。
 あの頃のことが。
「ああ、聖職者な。あれはどっちかっていうと悪魔祓いの気があった」
 降参したサエは姿を現し、後ろに回った僕を誘導した。
 ロビーはちょうどいい光に保たれている。
 暗すぎるのも僕らは好かない。日の光以外ならばある程度の明るさが欲しい。
 まじまじと屋敷を眺めるのは始めてかもしれない。
 僕はロビーのシャンデリアとステンドグラスに目を取られ、ふとあの哀れな聖職者を思い出した。
 唇の上端がそりあがったのは偶然じゃない。
 ――悪魔祓い、ね……。
「そうかな」
 ――もっと嫌なものだと思うけど?
 思うが言わない。
 サエなら分かるだろう。
 気づくこともできないのなら、もうイラナイ。 
 意地悪なことを考えてる僕の問いかけに、サエはゆがんだ笑顔を見せた。
 ――少しまた似てきてるね、僕に。
「お前に近いものを感じるよ」
「何だい、それ」
「観月さ」
 サエはそう口にして僕の肩を小突いた。
 座ってろといいたげだ。
 指先がかすかにシャツごしに体温を伝えるが、その冷たさは吸血鬼特有のもので僕は戸惑い、指示に従ってしまった。
 顔はあの頃のまま。それなりにやけた肌もまっすぐな瞳も、爽やかな表情と声も。窓を塞ぐよう、人の前に立つとき身長を利用して影を作る様子も――今日はそこまで早い時間でもない。これくらいの光ならば僕は耐えられるのに。
 ……過保護だね?
 僕が裕太にしてるみたいに……もっと分かりやすいサエがにくい。
 そういえば、同じ立場(吸血鬼)になっても、僕らスタンスは変わらなかった。
 巻き込んだ僕の気持ちを見透かすわりに彼は何もできない。
「観月は後悔ばかりするタイプだよ。自分を分かりたくないってごねるね。……でも裕太に何かあったら許さない」
「【だから】じゃないのか?」
「さあ?けれど、あの様子じゃ平気だね。何かない限り関与しないよ」
「事前予防は終った、か?」
 ――それは君の役目だろう?
 サエは動く、僕のこの言葉で。
 計算ずくで人を操るのなら、僕の方がよっぽど観月よりも悪役の器。
 ダテに吸血鬼を生きていない。
「血は足りてるのか?」
 冷めた紅茶にカップ口をつけたら、そう尋ねられた。
 あの頃と同じように屈んで顔を覗くサエが面白くて、僕は強請ってみせる。
「少し足りない」
「嘘付け。足りないのは別のものの癖に」
 ――囁きに泣きそうになったのは残念ながら僕じゃなくて、告げた君だね?
 さてそろそろ行動しないと……。
 これ以上の執着もこだわりも無い方がいい。
 ちょうど屋敷のものが戻る気配がある。
 僕はサエに合図した。
 サエは窓辺に下がり、退出の準備をしながら、 
「……で、ターゲットは?」
 悪くない問いを発した。
 ルドルフは問題ない。
 つぶそうと思えばたやすいし、目晦ましになるから裕太をあそこにおいておくのはある意味で賢いかもしれない。
「そうだね……」
 真の狙いは裏で糸を引いてる立海。
 それから……
「幸村」
「宰相か」
 裕太は任せたよ。
 目で告げるとサエは頷いて、
「また来る」
 笑顔で去っていった。
「さて、どうしたものかな……」
 直接の布陣も詰まらない。
 どこを動かそう。
 ティーカップを置けば、目の前にはやりかけのチェス。
 朝、越前と英二がやってたもの。
「これじゃ、僕には勝てないな」
 同属を動かすのはどうにも癪に障る。
 どうせなら、そうだ……
「軍がいいかな。それからロイヤルブラッド」
 久しぶりに跡部でもからかってこようか。

ある日のサエと不二(ともに吸血鬼)。微妙にルドと連結。そのうちきっちり話がつながります。
ルド一話目と『思い立ったら〜』の後の話。
設定だけあげるのはなんなので、UPしましたが、これだけだと分からなくなり気味涙
後で追加して、順番に読めば分かるようヴァンプ話はUPするとき直します

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