「昔話をしようか?」
不二がそう笑うときに、碌なことなんてありやしないのだけれど……。
* * * *
「今日は早いな」
珍しい真夜中の帰宅に、佐伯は目を覚ました。
「まあね」
物音の原因――不二は、その肩を借りて、横に降り立つ。
補助に差し出した佐伯の手をとって、聞かれた不二はそのまま「食べたりたから食後の紅茶」と、ダイニングに導いた。
かって知ったる不二屋敷。
――これは、お茶をいれろってことか。
判断したかの魔王の幼馴染は、やれやれと肩を竦めながらも、戸棚からティーポッドを探し当てる。
ヴァンパイアとはいえ、魔法を使えるわけではない。
苦手な物が多く、ちょっと勘が鋭く――そりゃ超常現象を起せるお方も目の前にはいるが、佐伯はまだまだ普通な方だ。
お湯を沸かす過程を楽しんで、佐伯は一人流し台の椅子に腰掛けた不二の頭にぽんっと手をおいて、
「ちょっと待ってて」
すぐやるからと呟いて、葉っぱを取り出す。
「ダージリン」
「はいはい」
――いつから、俺は下僕になったんだか。
勝手な想像でいってみたものの、それがまさに真実のように思えて、がっくりした。
「……で?不二は今日、何処に行ってたんだ?裕太んとこ?」
落ち込んでるのか、機嫌が悪いのか。
どちらでもいいが、いつもとかってちがうことには違いない。
長年の間で、不二が好きそうな答えを、佐伯が用意すれば、彼は
「さあ」
乗ってきた。
これで会話だといえるのは佐伯と不二くらいなものだ。
血縁(由美子)でさえ、「あなたたち、よくそれで会話になるのね」とわらう。
「なるほど。じゃ貴族(ロイヤルブラッド)か」
「僕が?」
「跡部のこと苦手だけど、嫌いでもない。――そうだろ?」
「否定はできないね」
――実力のせい……それだけじゃないか。
ふと佐伯が思い出すそれは、不二と跡部の出会いのシーンだ。
佐伯がまだヴァンパイアになる前、それからなったすぐ後。
その双方で出くわし、それがゆえに知ったことがある。
――俺は跡部に感謝してるんだけど。
心は読まれたのだろうか。
不二は嫌そうに顔をしかめたくせに、何か思いついたようににぃっと微笑んでそしていったのだ。
「ねえ、佐伯。昔話をしようか?」
それは今を振り返らない約束――
過去を消し、佐伯をこちら側にひきずる不二の唯一のわがまま。
「佐伯が嫌だって言っても付き合ってもらうよ?」
――……いうはずないだろ。
このニコ目の悪魔は、その後散々跡部の悪口を言うんだ。それから、きっとヴァンパイアでなきゃできないような悪戯を思いつく。
佐伯は、毎度のパターンながら、それに付き従うだろうと自分でも思った。
そうすることで、罪が深くなれば佐伯はこちら側にしか居られない。
『今はいい。だがそっちにいくってことは、永遠をヤツにくれてやることだぜ?』
跡部は知らないんだろう。
――それこそが俺の望みだということも。
不二もまだ分かっていない、根本的なところでそれを望むことを。
でも……
「聞かせろよ?不二。ろくでもない遊びでも、退屈しのぎにはなるからな」
――お前が俺を必要とするなら、それでいいんだ。
どんなにろくでもなくても。
昔の話を持ち出して牽制などする必要ないのにしてみる不二の矛盾が、佐伯には愛しくて……
「その前に、お茶は必要だな」
ティーポッドからでる湯気と、ダージリンの変わらぬかおりに、今日も安心するのだ。
「じゃああのときのこと、覚えてる?」
話し出す不二の前おきからして、
「似たようなことがしたくてね」
既に剣呑の色を含んでいるとしても。
休憩ってことで更新強化祭りがてら一本?
跡部をからかいにいった後の話。合間はまた上げる予定
サエさんが書きたかっただけという話はナイショ……