ヴァンパイア(離宮 ロイヤルブラッド編 忍足SIDE) >孤独な王様とお節介な従者 

「……なんや、自分偉うないとかいうといて、やっぱり偉いんやないか」

 ポツリとつぶやくと、妙に実感がわいてどうしようもなくなった。
 中央から突然言いつけられた氷黎宮への、訪問という名の書類徴収に赴けば、まさかのまさか。
 数ヶ月前辞職したはずの、自分の上司がいて――

「まあ俺はもう王宮(そっち)にはいかねーけどな」

 ばれちまったら仕方ねぇな。
 投げやりでもなく苦笑する。
 そんな上司――元『氷の大君』跡部景吾にどうしようもない気持ちがわくが、自分の今請け負ってしまった【宰相】という地位はそれをどうこうできるには至らない。
 自分よりも、ずっとそういった派手な役職が似合うはずの彼は、本来もっと上の立場――王家の人間(ロイヤルブラッド)で……その穴埋めを出来る能力は、残念ながら周囲にはなかった。
 自分ですら補佐官の滝がいて、ようやく仕事を回せている状況だ。
 いっそ当人に、隠居の後も、その有り余った能力を引き合いに頼む方法もあるのだが……(自分がそのつかいっぱしりになって会いにいくのも……)

「ヴァンプのことに気をとられないで、のんびり暮らせるのは悪くねぇ。……不二のヤロウみたいなレベルにもなると、俺が余計な仕事さえしなきゃ、此処にいる限り何をしてもいいみてぇだからな」

 自分を中央(その仕事)から遠ざけることで、国周辺の安寧を守ろうとするこの根っからの貴族にはそれを強制することなど出来なかった。

 ――……もともとロイヤルブラッドが王宮で官吏として職務にあたることなんてざらやん?なんで跡部だけが駄目なんや……
 理不尽な……。
 そう、思う。それに従ってしまえる跡部も――

「馬鹿や……」

「『馬鹿』はきついから言わないんじゃなかったか?」
 
 せめて『阿呆』にしとけや、と、執務室で悪態をついたのはつい数箇月前のことだ。跡部が実質上、軟禁に近い形で隠遁生活に入ったのは、その直後だった。

「……せやかて、俺ももう都会につかっとんねん」

「知ってる。――だから」

 跡部が何を言うか、聞かずにももう分かる。

「あっちでうまくやれよ」

 こんな片田舎じゃなくてな。
 言外に「二度とくるな」といわれたことは切なくても、そんな状況を呼ぶほど……跡部を駆使してしまった責任がある。
 目立ちすぎたこの宰相に、古くからの敵――共存者でもある吸血鬼の純血は怒った。政治に手を出そうとすれば全ての吸血鬼をもすべることのできるというにそれをしてこなかった、吸血鬼の王――不二は。
 上手く国を治め、他の国に対しても脅威となった跡部を、危惧した。
 
『やりすぎた……跡部には引っ込んでもらうよ?さもなくば、僕たちの餌になる?』

 君はきっと美味しいからね?
 あの夜……綺麗な侵入者として、一人の従者を引き連れてきた彼はそう笑い――
 対して、明らかな脅しに跡部はひるまず、ただ一言引退を告げた。
 それもすべて……国のためだ。
 自分自身の保身ではなく。

 ――『忍足……お前ならできるだろう?』

 信頼されていることと、任されることは同義。
 唯一のヴァンプ取締り国、聖ルドルフ以外で吸血鬼を支配せんと動く国があるらしく……自分たちは、疑われている、と跡部は言った。
 疑いを晴らすためにも、一時もぐる、と。

 ――ならば、いつかは……

 思ったが消息は知れず、何故そこまで不二は跡部に拘るか?立ち消されるほどの理由が跡部にはあるのか?疑問はつきなかった。
 でも、今こうして対面してようやく納得がいく。
 偉い、位置にいる、のではない――
 
 静かに頭を下げた
 頭をたれたのではない。
 ただ、敬意を払ったのは『跡部景吾』という一人の人間、上司なのだ。

 ロイヤルブラッド ――王の血脈――

 その血の流れではなく。


「ほな、帰るわ……。けどな、忘れんといて。宰相っったってやる内容はかわらへん。お前を追い詰めて、無理やり休ませんのが仕事なん」

「そうかよ」

「せや。だから……そっちに無駄な仕事なんてもっていかへん。無理やり押しかけられるようになるまでは、まあ時間がかかるかもしれへんな」

 「それまで待っとき」とは言わない。
 それは精一杯の強がりなのかもしれなかった。
 もう一度、この王者の下で働く。
 それまでには、ヴァンプという何年もの知識を持った(歴史ごと生き抜いた)彼らを相手に、戦略をめぐらせなければならないのだから。
 一礼の代わりに、今度は軽く肩を叩き……
 馴れ馴れしさに、いつもどおり眉宇を潜める跡部を堪能してから……氷黎の宮殿を後にする。
 今生の別れにはしない、吸血鬼には決して膝を折らない覚悟で――


 だが、そのときは、思ってもみなかったのだ。
 いや、あまりに知らなかったのだ。


「あ?…眠ぃから、ここでねてんの……」

「あ、そ…… つーか起きろや?名前なんていうん?てか、どうして……滝はこんなんいれとくんや……王宮やでここ……」

「ジロー…………ぐー」

 そんな間抜けなヴァンプが既に宮殿に入り込んでいることや……あまつさえ懐かれて、仕事まで任せるようになるとは……思っても見なかったのだ。
 そして、跡部のそばにも出入りする「物凄く軽そうなオレンジ」に加え、彼らが自分たちの見方になるとは。

 時代はめぐる。
 確実に……  こと構えず、吸血鬼を敵にはせず……彼らの退屈を晴らす遊び相手になる自分たちの時代へと……

※『RE』よりも少し前の話。跡部のところに千石が遊びに来る前。隠居の理由編
 いろいろ関係してますが、単独で読める仕様。
 この後、ロイヤルブラッド側の他2作に続きます。
 滝がジロにあったのが大体同じ時間軸。
 その後忍足がジロにかまうように……。&跡部のところに千石がちょくちょくよるように……といった具合。
 忍足誕生日用更新……ながら、そのうち ヴァンプはちゃんとまとめたいなぁと……。
 伊武杏ふくめて……

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