「おい」
なんだい?と、のうのうと聞くのは悪い癖だ。
跡部がイラツイテイルとしりながらそうするのは、この王宮にいて自分くらいだろう。
「萩之介」
「気安くよんでていいわけ?」
今は仕事だろ?
問いかければ、跡部は「ちっ」としたうちをした。
だが次の瞬間
「何をつれてる?」
鋭い質問をしてくるのだから、さすがは王族(ロイヤルブラッド)といったところか。
「……さあ」
はぐらかし画通じない相手だということもわかった。
――だから跡部が好きだよ。
いつだか、忍足にふざけ半分にいった「敵の側に居た方が楽しいっておもわない?」という問いかけを――半ば本気で-ー思い返しながら、苦笑を漏らした。
「聞かないで置いた方がいいと思うけど」
「……だろうな」
深い息。
意地が悪いのは自分で……跡部も不幸なものだと思う。
それでも、跡部の心痛が酷くなるのをこんなに側で眺められるのは楽しかった。
――王様をこまらせてこその大臣&秘書官ってやつだもんね。
正確には、今は王様どころか隠居においこまれかけている身だ。
かといって、その血に--誇りにカゲリなど見えるはずもない。
跡部は王族の血を引いている。
それが、最初に自分が宮仕えを決めたきっかけだった。
この苦悩するほど煌くアイスブルーの双眸を見つめていたい。
出来れば、最後は自分で倒したい。
血そのものには興味を感じなかったが(たしかに魅力的だけれど)
吸血鬼にはない、何か別の欲求が沸いてでるのは自分の性分か、はたまた半分だけの血がなせる業なのだろう。
そして……今ここにいる。
出来れば一生、何もないまま――あるいは何かおきて、その命が燃えるのを見届ける為に――つかえてたかった。
――でもそろそろ潮時……
跡部はきっと王宮を追われる。
あの王、吸血鬼最大にして最古の君、不二周助に遊ばれたここの責任をとらされて。
だからこそ、自分は暫くここにいなければならない。
――潮時なのは、俺の方だったっていうのに……
なんて運命の女神は気まぐれなのだろうか。
考えこんでいると、大理石のデスクから声が飛んだ。
「アーン?何しけたつらしてやがる」
てめぇが俺をこまらせといて、よくンな情けない顔できるな。
……と、本気でもないだろうに絡んでくる彼が愛しくもあり、可笑しい。
だが、それと同じくらいあの拾い子が興味深いのも事実で、……手放せないのも多分真実なのだ。
――隠すしかないんだよ。
アイツ(ジロ)は、吸血鬼なのだから。
しかも生粋の。
「ちょっとね。拾った犬のしつけに苦労してるんだ。……というか猫かな。ちっちゃくてふわふわしてるんだけど」
たぶん、跡部も気に入ると思うよ?
笑って言えば「はっ、うさんくせー」とながされる。
けど、不意に本気で……跡部にジロを紹介するのもわるくないような気がした。
あの食いしん坊が、ロイヤルブラッド前に我慢できるかは怪しいが……害はない。断定してもいい。
ただ、今はこの王様にも立場がある。
そして……恐らくだからこそ、彼は、【もう一人】の方を誰にも言わず、不二という敢えて倒せそうもない敵を上奏したのだろう。
「……君の猫とやらも見てみたいな。するりと闇にとけたってきいたけど?」
「ああ……」
アイツはただの馬鹿だ…… そういう瞳がならば何故紅くゆらめく?
王族はヴァンプにはなれない(基本的にもとの血筋でまざってでもいないかぎり)
だというのに紅いのならば、それは噛まれた印。(ねがえることはないから安心だけれども)
その相手は誰なのか。
かまをかけてもはぐらかされるが落ちだ。
――でもこっちの飼ってるのが何か気付くだろうから。
いつか、あわせるために。
この王宮をぬけて、いつか孤独な彼と、あの癒し系の吸血鬼とつかの間のお茶会を開く
そのために、自分はちょっとしたなぞなぞをかけるだけ。
昨日と同じように。
あるいは、王宮に入ったときと同じように。
ただ笑って、「うさんくせぇ」と文句をいわれながら、笑って……
「いつか、ね」
END
オフでだした滝 英雄帰還本の後の話。br>