【SIDE 土方】
「使える、か」
山崎の判断もだが、斎藤がいうとなると意味も重い。
土方からすれば、斎藤の、その「客観視」はゼッタイだった。
実力をより分けると言う意味では、自分よりも優れているかもしれない。
「このまま眠らせておくのは勿体のない逸材、というわけか?」
まあ、俺もそこについては否定しねぇが。
思わず、そんな「らしくない」言葉がついてでるのは、小憎らしいまでに彼女が冷静だからだろう。
「というか、正直、俺も隊士候補だと思っていたからな」
苦笑が漏れる。
「無理もないかと……」
若干、苦しげな斎藤の口調が全てを表している。
それいぜんに、と土方は、肩をすくめた。
「負けだ」
全面降伏だ。
「使えるものを使わないのは、俺の流儀に反するからな」
は、剣こそ習いをしていないものの、ほかについては、知らぬ知らぬといいながら何をさせても卒なくこなしていた。こなすというと、間違えるかもしれない。
――出来る、が正しいか。
かといって頭でっかちではない。
「ただでさえ、少ない資源でどうにかしろていわれてんだ。近藤さんのためにも、とりたててもわるかねーよな?」
「ええ」
もはや斎藤の声はきこえていなかった。
庭からくる彼女の視線に、頷いて、「連れてこい」とさせば、監査方が微妙な面持ちで彼女を迎える。
「……というわけだ。、お前を、新撰組副長つき……補佐の補佐として任命する。もちろん、断ってもらってもかまわない。俺はやる気のないやつにまで働かせる気はないからな」
「いえ……」
置いてもらっている以上何かを返すのは当然だ、と、思っているのだろうか。それなら、別にいいんだが、と言おうか言うまいか、迷う土方へ、は、しずかに答える。
「それで結構です。出来ることはしますので」
「あ? おいおい、いいのか・そんな簡単に決めて」
「ええ別に……そこに同意できることがあるのならばさせてもらうまでかと」
「それより」と彼女は続ける。
「斎藤さんの補佐ということになるのでしょうか」
「いや、補佐というより、肩書きはともかく、同じことを別の角度からしてもらう形になるな。とはいえ、山崎たちとは被らない」
「といいますと?」
まだ何かあるだろう、と、彼女は暗にとうている。
――いや、それは気のせいか?
土方は、我ながらどうなのか、と問いかける。
かいかぶっているのか、あるいは本当に彼女がきれものなのか。
たっぷり考えるも、考えるだけ無駄だ。
(もともと彼女もなのだが、自分も自分でうごかして、動いてみた方がやりやすいたちのモノ。)
「早速だが、一つ頼みたいことがある」
余裕を持って、言葉を紡ぐ。
それはもはや命というより、義を感じた同志たちの、ひそやかなやりとりとすら言えたかもしれない。
「外部は斎藤に、内部は山崎にまかせてあるんだが……」
「はい」
「一つ、内部でも入り込めない部分がある」
山崎は先にひきはがしてある。――実はひそやかに彼の自尊心を傷つけないか不安だったとはいいがたい。
その山崎がやりにくい、唯一の場所。
――羅刹、その研究。
むろん何とも言えないところで、実際彼に頼んでいる部分もあるのだが、最近になって、研究に足せばいいと「推薦されてきた逸材」もある。追加して、良く関わりの分からない女子のかげも。
「――研究内容について理解できるほど学業に通じていませんが?」
「いや、そこまでは求めねぇ。むしろ、それを利用するやからや、それについてもう少し踏み込んで使いたがっている連中の方が俺としちゃ不安だ。見張って、いざってとき、取り上げる「タズナ」がいると思ってる」
「その役を裏で引き受けろと?」
「一つ、ひきうけちゃくれねぇか?」
「出来ないこともありますが」というより、斎藤さんの方がむきなのでは?あるいは、と、の分析は続く。
そしてそれは大方正しい。
だがしかし――
――アイツは、確かに仲間をきちっと疑えるし、いざってときは剣を抜くだろう。それこそ山崎とは違う止め方もできるか知れない。
だが……
「――物理的な側面では斎藤もいるが、精神面での動きをおうには、苦手なきらいがありすぎる」
「なるほど」
「だからこそ、だ」
「分かりました。ならば」
引き受けましょう。
あっさりと。
びっくりするほど、あっさりとは頷いた。
更には、一歩も二歩も先を行くことを……
「それで、まず、誰についていけばいいですか? 怪しまれずに入りこむには巡察か、隊士としての訓練だと思いますが」
「そうだな――手始めに、巡察を。見習いの監査か斎藤の下をにおわせながら、手伝えばいい」
「監査よりは、斎藤さんの補佐がいいでしょう。おもに書をまとめたり、報告を手伝う役目として」
「――おう」
流石に、ここまでとは思わなかったぜ、。土方は、見つけてきたこの逸材の能力――それに気付いた山崎や斎藤にたいして、頭のさがる思いがした。
――頼もしい限りだ。
これで、内部には新たに三人の女性が加わっていることになるが、についていえば、もう間違えなく「戦力」であり「有効な人材」だろう。
「頼んだぜ」
言葉に無言で頷く所作をみて、斎藤そっくりだと感じながら、土方はゆっくりと踵をかえした。
早速、その後ろ、斎藤が彼女へ近づく様が見えた。既に信頼してる自分の同士のようにすら見える。寡黙でなかなか懐かない男が珍しいことだが、それこそが安心につながる。
「――問題は、二人目……か」
思想の範囲が広すぎて、頭はいいのだろうが、働きが極端な女。
最も使えなさそうな、それでいて、消すにもどうかとおもわれるあの平和ボケした【頭痛の種】。
「なんで かばうかねぇ」
山南の考えが読めないから怖いのか、本人が面倒なのか。
「まあ、いい。なら調べてくるだろう」
同じ女だしな、とつぶやく土方は知らない。
その二人が関わっていることも。よりによって、仲がよいことも。
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