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「……というわけだ。まあ、いい。、お前を、新撰組副長つき……補佐の補佐として任命する」
断ってもらってもかまわない。
土方にそう言われたものの、他に生きていけそうなすべも(今のところ)ない。
三食昼寝つき、とはいかないが、そこそこ以上の条件下だ。しかも欲されているのは、「戦い」でもなく、「山南さんの研究」についてらしい。
「研究内容については理解できるほど学業に通じていませんが」
そういったややこしいあれこれや、伝承調べも「しろ」と言われたらするが……。
――むしろ、そういったことであれば……
ふと、友人の顔が頭によぎる。
もしいたら、それこそアレの仕事だな。なんせ他に役に立ちそうもない。
そうこう頭で考えるうちに、土方たちはどんどん、話を進めていく。
どうやら、聞けば【研究内容】とやらは利用されると困るものらしい。
――というか、研究が何か、実はきいてないんだけど………いいのか? ………………まあ、いいか。
どうせ、聞かされても興味もないし、知らされて困るものであれば私には知らせないだろう。
そう思って頷く。
話は綺麗にまとまっていく。
――物理的なことを止めるのが斎藤さんで、こっちは、あの眼鏡が何考えているか、心理を探れと。
まあ、自分の方がまだ得意だろう。
斎藤のことは、既に【有能】と分かっているのだけれど、それとは別に機微に疎いだろう事実も推し量り済みだ。
「分かりました、そう言うことなら引き受けましょう」
すぐ了承する。
土方は「出来る男」だ。その場ですぐに、次の指示が飛んできた。
そうして、数分後――
全てを決めて、土方のもとから離れたまあ、いい。は、呟く。
「……で、ー結局、何の研究なんだろうか」
「っ」
「ん? 斎藤さん、知ってます?」
「――、お前は……知らずに、その――」
「研究内容は知っても知らずともよさそうだったので」
というか、後で追って説明されるものだとばかり思ってました。
言えば、斎藤が絶句している。
――んー?
首を傾げるに対し、横の斎藤も斎藤で
「………」
頭を抱えているものだから、拉致があかない。
「――皆さん知ってるようなら、誰かに聞きますが」
「待て――不用意な言動は」
「はぁ……もちろん、さりげなくするつもりですが」
それが出来る自信もあるので、心配される意味が分からないわけだが・・・・…そこまで神経を使うならば、その研究とやらはよっぽど大切なのだろう。斎藤が話す気になってくれたなら、それはそれで、誰かにききに行く手間も省けるというものだ。
「、このあいだの件は知ってるな?」
「あー、何だか隊士が薬やっちゃったみたいな…」
「ヤク?」
「いえ。おかしくなったという話なら……」
聞いてたらいけないはずではあるが、聞こえてしまっていて大方のあらましは分かっている。
が素直に告白すると、斎藤はほっとしたような――苦いような顔をして
「落水だ。――原因は、ある医者に持ち込まれた薬。名前を落水という。効能はお前がきいてのとおり、力、技の増幅だが、問題は――」
「気をなくす、と」
「そういうことだ」
「土方さんはあまりよく思っていないようですが? 」
中にはそれを頼りにすべきだという意見もあり、対立している。そういうことだろう。
簡潔にまとめてみれば、そのとおりの答が斎藤から戻ってきた。
「取りあえず状況は飲み込めました。では、巡察に行きましょう」
「…………」
黙りこむ斎藤。
このパターンに慣れてきたであるが、整った横顔に、「大丈夫か、コイツ」と書かれてあるような気がして、少しばかり「どーかなー」と思う。
こっそり斎藤さん、格好いい!とか思ってたのに。
――いや。相変わらず顔はいいなー。
だが、まあ、ちょっと侮られるのは面倒だ。(癪にさわるというより、コンセンサスがとりづらくなる。連携することになるんだから、少しは信頼してもらわないと、という気がある)
――動いているうちに、慣れるか。
は、斎藤の動きを促した。
何せ京の道、ちょっと歩けば覚えるだろうが(どうせ碁盤の目だ!)慣れていない。
先導してもらわなければ、働きようもない。
「あ……」
「なんだ?」
「そういえば、何も持ってないんですが、いいですか」
「?」
「それとか」
刀をさす。すると
「今日はいい。昼間、安定もしている治安だ。隊士に混ざれば問題ないだろう」
含みのある声がきた。
――やっぱり、覚えなきゃいけなくなるかもねー。まあ、そんとき考えればいいや。
基本的に楽観的というか、なるようになる、という性質。
は、大人しく頷いて、斎藤のちょこっとだけ後ろを歩きだした。まあ、いい。の方が若干あるものだから(なんせ長身)すぐに、隣になってしまったのだが。
* * * *
――それにしても……
どうしてこうなったのだろうか。ちょっとしたミステリーだ。
こっちに来て、最初に見た場所は屯所内。
周囲の空気と、襖越しに聞いたやりとり、有る程度うろついたところで「ああ、」とパニックながら納得してしまった。此処、私の知ってるとこじゃない!と。 これ、もしかしてアレじゃね? タイムスリップとかトリップとか。いや――そういうの馬鹿げてんだけどさ。と……
軽く脳内一人パニックを一周しているうちに、本能が先に、「賢く生きろ」と告げてきた。
まず、住居と食べ物の確保。その前に衣――。
明らかな不審人物から、ちょっと見分からない程度になるまで……迷ったまあ、いい。が、見つけたのは隊士の私物だか、隣接宅の住民の私物と思われる衣装。
これを慌ててきて、(何となくだが、何となく着られてよかったと思う)「これ、男ものじゃね?」というセルフ突っ込みとともに、外へ。
――出ようとした結果、つかまったんだよね。
そう。
なんだか知らず知らずのうちに、隊士候補の列にまぜられてしまったのである。よくよく考えれば、あれは、新八だかという男のせいか。
まー、「食うに困らないし、腕一本で稼げんだぜ?」って言葉とともに、にかっと笑ったその顔は、嫌みがなかったもので――若干毒気を抜かれたというか、流されてしまったというか……
――自己責任だな。つまりは、。
今はそう思うことにしている。
「ところで、まあ、いい。」
「はい?」
「……あまりキョロキョロするな」
「――ああ」
ごめんなさい、自覚はありませんでした。ちょっとお外が楽しかったというか、ちりを掴もうと自然に体がしてたもんで。
思ったが、とはいえ、巡察の最中だ。斎藤の言うことも一理ある。
素直に「分かりました」頷いて、再び無言へ……。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
静かにしていることも、相手といて会話をしないことも、まあ、いい。としては慣れっこなので、気にならない。斎藤もまたそういう性格の持ち主だった。えんえんと、二人は巡察を、問題なく、終えていく。
むしろ耐えきれないのは一般の隊士たちだろう。
三番隊の人物はもちろん斎藤に慣れている厳格な隊士ばかりだが、補佐として紹介された長身の美少年(としか見えない)に、戸惑いと興味を隠せない。
まあ、そこは、特にきにしない斎藤でも、感じ取れた。
最後の曲がり角、彼はふと気付いたように止まり、「先に戻れ」と指示をした。
「どうして?」
戻っていく彼らの後、訊ねるのはもちろん、いい。。
「言いそびれた。落水(あれ)のことは他には言わないでもらいたい」
「あれ? あれ??――あー、落水ね、はい、分かりました」
「言うなと……」呆れながら、諦めて話を続ける斎藤。
「それから、隊士には知らせていないが屯所にはいまお前以外に二人女がいる」
「一人は見ました」
「……」
――「………頭のいたい話だ」と言いたそうですね、斎藤さん。でも、あれじゃあ、男装未満ですって。言っても無駄っていうか、男装させても無駄っぽいから言わないけど。
「普通の人は……というか、初日あんなふうにうろつくことがなければ、見てなかったというか。見たのも、後ろ姿で……あまりに知り合いに似てたので」
「そう、か」
「そうです。何か問題でも?」
「……。あれは、その落水について知っているようなので止め置いている娘だ。素性を調べている最中だ」
「そうですか(まあどうでもいいけど)わかりました。それで、もう一人とは?」
状況からみてに関係あるのはそちらなのだろう。
思って聞けば、斎藤は、少し目を泳がせて、
「……扱いづらいが……。ならば大丈夫かもしれない」
――はっ希望を持たれた?!
それより、何それ……どんな子なのよ…?思うが、まあ、これ以上巻き込まれるのもごめんこうむる。出来るだけ、そっちとも関わらないでいたい――そう思ったまあ、いい。は、しずかにスル―を試みる。
しかし………
「そうだな……それがいい……」
斎藤は、何やら自分の世界に入ったように2,3言呟くと、すっとまあ、いい。に向き直り、
「そのもう一人を庇護している人がいる……。幹部を疑うつもりはないが、どんな心があってそうしているのか――副長は、知るべきだと考えている」
「なるほど」
要するに、その女と、また幹部がその女にたぶらかされてはいないか探ればいいわけだ。
楽な話だ。隊士候補と間違われて暮らした数週間、その後事実が発覚し――更に、らりった隊士を目撃してしまって謹慎を食っていた数カ月。ようやく、自由になったのだから、それくらいはやろう。
隊士の監視より、女の方がまだ簡単そうでもある。
「で、その女とやらは?」
「策だけは働くようだ。総司や、俺も止めたのだが、山南さんが食客もどきとして扱っている。なんでも学だけはあるようだ。副長も同席のうえでではあるが、近藤局長とも対面しているらしい」
「近藤さんは、誰でも話している印象があるのですが」
「局長と呼べ。――……否定はしないが――」
「うん、まあ分かった。それで、今はどこに?」
「部屋はお前の斜め向かいだ。少しだけ離れているところがあっただろう。あそこに閉じ込めてある。この時間だと、恐らくは山南さんが来ているかもしれない」
「――あーなら待った方がいいですね」
「いや。問題ないだろう。ちょうど山南さんには紹介しなければならないところだから」
「じゃあ、一緒に行きますか」
「ああ。…・・・・・?」
なぜ、俺の方が後から行く形になっているのかと恐らくふと、疑問に思ったに違いない。一瞬とまる斎藤の心情を読みながら、まあ、いい。はすたすたと屯所の中に入っていく。
目的の場所、その女――の部屋を目指して。
END
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