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※※本編クライマックス手前の番外編 ネタバレ有り・某人前提※※
「どうし――」
どうしたか?
何かあったのか?
言葉をかけようとしたのだけれど、天霧は、それより先に彼女の手をひいていた。
――女性の涙をみるのは、忍びない。
それは鬼とて同じことなのだ。
まして、天霧は風間のように、鬼のみを盲信しているわけではないのだから。
「っ……くっ……ひっ……」
じわりと。
押し付けた胸元が熱くなる。自分の鼓動のせいか、物理的に何かが浸食しているのか。
声を聞かずと分かる。彼女は泣いているのだ。
「なんで、おいて……」
『なんで置いていくの?』
彼女の、弱弱しい言葉に、彼は本音を見た。
――別れ、か。
しかも、恐らくは時代に左右された別れ。
思い出すのは彼の横、並んで笑っていたこの桜柄の着物。
――ああ。
合点がいく。
これは、あのときの少女だ。たしか名前は、といったか。
そして、相手はきっと……
「待てと……そうは言われなかったのですか?……さん」
あの「少年」ならば、きっと。未来を考えているのだろう。
そういう目を天霧は嫌いではなかった。だから、問いかける。
「……った……。言ったの……ゼッタイ戻ってくるって――言ったもん」
「言ったのでしょう? ならば、待てばいい」
彼は――藤堂平助と名乗った若武者は、恐らく戻ってこられるはずだ。保証はないが、そう言わなければと、心が強く疼く。
「きっと――帰ってくる」
「でもっ……」
自分で戻ると言われたと――あんなに強くいいながらも、それでも不安なのだろう。
はいやいやと、頭をふるようにして天霧の腕に潜り込む。
涙を見られたくないためだけの、行為だと、分かっていてなお――天霧は、何百年かは生きてきて久々に、動揺を覚えた。
「……やいて、……」
やがて。小さな声が聞かれる。
ほんの少し――鬼の聴覚でもないともすれば、聞き逃してしまいそうな声色だ。
「今だけでいいんです。大丈夫だって……ささやいて」
ください。
今日は七夕。
織姫からのお願い、は、利かぬわけにはいかない。
覚悟を決めるかに、天霧は知らずと息を吸い込んだ。
「――大丈夫。彼は貴女を置いて消えたりはしない」
「っ……」
やがて本泣きにでもなってしまいそうな、その震える方を弱く抱いて。
「もう彼は強い……鬼、なのでしょう?」
羅刹、ではなく、鬼と。
敢えて言葉を違える。
そのことで、不安が少しでも和らげればよい。
――強さを強調したつもりだったのだが……
伝わるだろうか。反応を見ることすらも、ためらわれ、再び……その可愛らしい幼い姫君を抱き寄せた。
彼の代わりは務まらずとも、せめて――彦星がかえるまで、護衛にならんとするように。
END
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