【SIDE 天霧】
「……」
どうしてこうなったのか、天霧はため息をついた。
「……天霧」
横でお前は馬鹿か?と言った不知火は無視するが、流石に主筋にあたる風間を放っておくわけにはいかない。
いかないのだが……
「わかっております」
「……本当か?」とでもいいたそうな視線が辛い。
「しんじまったんじゃね?」
不知火とはいえ、今の一言はつきささった。
最初は出来ごころだった。出来ごころで相手をしていたのだ。
あちらが懐いてくるのが不可思議で……戸惑いながらも、少しだけ嬉しかったのを覚えている。
やがて、「少しなら」と距離を詰めたのが始まり。
そうするうちに、相手は心どころか体を――というと誤解を招くかもしれないが、天霧が撫でるのを、静かに許し、嬉しそうにしていた。そのたび跳ねるさまが可愛くて……愛しく思えてしまって……
無理をさせてしまったのだ。
ついつい、近づきすぎて、触れても大丈夫だと思い込んで……こんなふうにくたくたになるまで相手を……
「しんでなどは……」
「なら、早くだせよ。むしろ、天霧さんよぉ、お前、なんで屋敷の中にいれてんだよ?」
あ?と不知火にすごまれてもどうということはない。
だが……
「風間(おれ)の屋敷ではないから、かまわんが……」
お前、それでどうするつもりだったのだ?と。
風間の目が問う。
部屋に入れて可愛がるだけ可愛がって、さあおしまい、というのはあまりに都合がいいだろうが……
所詮違う種族仕方あるまい。
風間もそこのところは分かっているだろう。
――ですが……
「世話をし、ずっと隣にいてやるには彼らは命が短すぎる。かといって鬼にはできようもあるまい」
「ええ……偽物を作るなど考えては……」
「なら余計だめだろ?頻繁に家に戻れるとでも思ってるんのかぁ?」
「不知火」
嗜めるのは千景。珍しいこともあったものだ。
――ですが風間もお嫌いではないのでしょう……
それはそれで、ちくりと。胸が痛むがしかたあるまい。
「で?だから、早いとこ見せろって」
俺なら知り合いになんとか出来そうな人間(やつ)もいるしよ。
名乗り出る不知火に頼るは悪くないが――
「どうするか、は、後にしておけ。まずは治療が先だ」
「はい」
そういわれてはもうどうしようもない。
不知火は、がらりと障子をあけた。
開けたさきには布団――
「……あのなぁ」
「…………」
あきれ顔の二人を前に、天霧は「聊か興が過ぎました」と、顔を紅潮させて(とはいえ見た目には出ない)告白した。
「ちげーよ」「そこではない!!!」――彼らは口々に叫ぶ。
「「そんなひ弱な(ちっこい)兎に布団かぶせるやつがあるか!!」」
「……はあ」
そうなので?
締まらないようすの、天霧に、絶句するは鬼二人。
天霧……彼が小動物に懐かれやすく――かつ、扱いに慣れていないことは明白だった。
後日、兎は不知火の紹介で人間の動物医にみてもらい、無事一命をとりとめた。
聞けば、天霧は高い高いと兎を放り投げて「遊んでやっていた」らしい。
「跳ねるのがたのしいからって、むりやり跳ねさせるのが楽しいとおもうなよ」
とは、呆れた不知火の名言。
以降、暫くの間、天霧は自らに小動物接近禁止を命じるのであった。
しかし、それがとんだ方向から破られるのは、また別のお話。
END
(たぶん このあと 兎っぽい人間がまとわりつくことになるんだよ のこと)
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