いつもは暇な屯所生活。
――でも、たまには外に出ますよ?私も……。
今日は大坂!お使いの大坂!
* * * *
かくかくしかじかあって、たちは大坂にいた。
理由は省くが、敷いていえば「沖田の我儘」が理由だ。
最初こそ彼だけの「ちょっとしたお使い」だったはずなのだが……
『大阪なら行きたいよね?』
「は、はあ……」
『行かないはずがない、というか、行きたいと君が願ってやまなかったのを僕が聞いてたっていうか』
「そこまで言った覚えはありません」
『うん。でも僕が覚えてるから駄目』
「駄目ってなんですか? ……いや、そもそも、大坂って……」
『決定だから』
「は?」
『大坂行き。僕と一緒なら、結構楽しめると思わない?』
そんなこんなで、ここにいる。
もちろん、だって、精いっぱい、抵抗した。
「沖田さんのは、仕事でしょ? 仕事なんだから、私が行くとか行かないとか、関係ないでしょ? 何言ってんですか!」
きっちり、きっぱり『怒』と顔にかいて、きいきい喚いてもみた。みたが、しかい――
『だいじょうぶ。土方さんにはちゃんと話しておいたよ』
と、必殺技で誤魔化され――
挙句に、
「原田さんと永倉さんが一緒なら、ですか」
というわけで、副長はまさかのまさかで、恐ろしい許可を出してくれた。
「そういうだ。つっても、新八は別口で用があるから一旦、このあたりで外れるんだけどな」
「いえ……それは……」
おつかれさまです。
永倉さんに罪はないので、応えておく。
「じゃあ、佐之。総司とを頼んだぜ」
「おう。新八の方こそ、島田さんによろしくな」
「ああ。ってか、これ、本来総司が行く用向きじゃねーの?」
「僕は嫌だよって土方さんに断り済みだから」
――断り済みって……
それでいいのか、土方さん。
あの鬼の副長はさりげなく諦める節が、ダメでしょ、――と、は想像の中の土方に、突っ込みを入れた。
「しゃあねぇな」
「まあ、総司がいきたくないんじゃ、新八の出番だろ」
――って……!! ちょっとまって?……それはどうなの?
なぜ、すぐ引き受ける?
まあ、理由は簡単で――なんだかんだ沖田さんはごねると絶対ウゴカナイから、なのだが……それにしても、である。
――此処の人達は沖田さんに甘すぎです――
はにこにこ「大坂だよ?」とこちらに話しかけてくる沖田と、苦笑で、「良かったな」と(何故か此方にむかって)笑いかける原田をみて、脱力した。
ちなみに、この幹部が一部出払うめちゃくちゃな人員配置は、いっときの平和を表してもいたが――実のところこの大坂行きに際しが沖田の面倒をみる条件として「沖田のストッパー2号」を嘆願したせいで、起きているのだが――そこは棚に上げているらしい。
――いあいあ。だって、ほら? まさか、原田さんが来るとは思っても見なかったっていう……。しかも永倉さんも一緒って……一緒って……
実際、道中が予想よりはるかに楽(屯所での、沖田をあやす変な生活よりはるかに楽、というべきか?)なのだが……若干心ぐるしくもある、絶賛、仮装中。
ちなみに、珍しく屯所から出る為よそ行き――商人の格好をしている。
さて、一行がようやく大坂についたのはちょうど夕方に差し掛かったあたりのこと。
「俺は、いったんこっちに来てる会津のお偉いさんにご機嫌伺いにいってくるから、その間に総司は?」
「所用が幾つか。土方さんも人使い荒いよね。まあ、終わればで遊べるんだけどさ」
「あ? 私『で』?」
「間違えだっけ? けど、大坂見たいんでしょ?」
「そりゃ、そうですけど」
私で遊ぶとは何事だ? 聞き捨てならない。――と、困惑すれば、
「じゃあいいじゃない。さっさと手分けして終わらそうよ」
「ってことは、俺も着いて行って構わないんだな?」
「もちろん。佐之さんも。だから、早く終わらせてきて」
あれよあれよと、楽しげな(たぶん夜遊びの)算段が付いた模様。
「――もう、後で怒られても知りませんからね」
「土方さんにいわなきゃ済むことでしょ?」
いわないよね、と。
綺麗な綺麗な(怖いともいう)笑顔で、語って――沖田は、さっさとを置いて、外へ出て行きました。(原田さんもお出かけ)
そうして残った一人。
『適当に時間をつぶしていて』
そう言われたはいいけれど、
――何をしたもんだろう。
流石に真昼間から飲むわけにもいかない。
外に出たいが「後で」と敢えていうくらいには……一人でホイホイ出ていい治安でもないらしい。
置き去りにされた宿場がわりの道場。
最初こそ、おいてある本を見たり(っていっても、読みづらい=古文そこまで好きじゃない!から、軽く!)……お手伝いしたり(洗濯の手伝いだったから、いつもどおりの日課=簡単すぎてすぐ終わる)……差し入れとしてもらった団子を御相伴に預かったり(取り上げられないよう、さっくり食べた!)……しているうちに、時間はすぎるが………
――退屈だ……。
そろそろ帰ってくるだろうことは、分かっていて――けれど、何だか飽きてきてしまったのだから、仕方ない。
そんなとき、ふと、目に留まったものがあった――
* * * *
【SIDE 原田】
「――おい」
――待て待て。
思わず声が出る。
思ったよりも早く片付いた仕事に、安心して戻ったはず、だった。
だったのが、何だ?
佐之助は思う。
自分の見間違えか?と。
むしろ、そうあってくれ、と。
が……
残念ながら、幻でも見間違えでもなかったらしい。
「――何あれ」
と呟くと同時に、一歩早く踏み出した沖田総司の顔が……明らかにこわばっていたから分かる。
――そりゃあそうだろ。
なんせ、今自分たちが見つけたのは……
「やあ!」
シュタタタタタッ
思いのほか早く(刷り足?走り?)で移動する、そのひとだったのだ。
しかも、右手に原田の槍――(要人に会う仕事だから、と置いていったはずのものだ)
でもってお約束――
くいっ。
沖田が俊足で横に着け、その首根っこを掴む。
ぐいっと、着物が斜め後ろにつられ、
「ぐえ」
うめき声。
(「カエルが潰れたような声……」と、後に沖田がさりげなく評した)
いうまでもなく、の首がしまる音だ。
もちろん、その声にすぐ、沖田が手を離したから、大事はないが……。
――あー……
なんというか、無性に残念な気持ちがこみ上げるのは何でだろうか。
あいつだけは「まとも」だと期待していたのだろうか?
佐之助は、珍しく若干がっかりした気分で、二人の横に着いた。
「おい、何、他人(ひと)の槍、持ち出してんだ?」
「あ……」
捕まるなり、「馬鹿なの? 死ぬの? 猫におかずでも浚われたわけ?なんで、槍持って走ってんの?ねえ?」 と。
真顔の沖田に問われ、蒼白になっていたがこっちを向く。
相変わらず、顔色(と落ち着き)がもどっていないが……
「いや、その――」
一応、素直に謝るつもりらしい。
――許してやるか。
「まあ……お前は理由なしに馬鹿をする性質じゃないだろう? 事情があるんなら、言ってくれるよな?」
だから、総司も落ち着けって?な?
と……
穏便に納めるつもりでいた佐之助である。
一番ややこしいやつへのフォローもふくめて、面倒をみる気だった佐之助である。
が――
「離して、離してくださいっ」
と、予想とは異なった悲鳴。
「「あ?」」
思わず顔を見合わせる沖田と佐之助。
無視して、訴えるの目は、何がなんだか、わからないが、完全にかんっぺきに――座っている。
「だ、駄目……、今ならいける気がするんです!大坂城!」
――いや、確かに近いが……。
それがどうした?、である。
案の定、「だから、何が……?」横で、沖田が訊ねている。
「原田さん、後生だから、離して下さい。此処でいかねば――」
――いや、意味はわからんけどよ……
「駄目だ。お前、離したら、また槍をもってつっぱしんだろ?」
「……そ、そりゃ……」
「ああ」
だよな。
そこだけは理解した。
だから、理由が何かききたいのだが……落ち着くまで待つしかないのだろうか。
ふと、佐之助が諦め顔になりかけたとき、
「ねえ、そもそも何で槍を持って走りだしたのかな?」
いい具合に沖田が質問をぶつけた。
「ソレは言えます」
――言えんのかよ!
なら、早く言え……、である。
しかし、
「だって、大坂ですよ? 槍ですよ? もう行くっきゃないじゃないですか! 理由? そんなの決まってますよ?そこに槍があったからです」
「あ、?」
「は、?」
「――槍があったから! 二槽じゃないのは勿体ないとこですが、許します。実際どうだったか、分からないですし。でもやりですよ?大坂で槍っていったら、もう幸村様ですよ! 此処でその無念をはらさないわけがない!」
最低でも此処でマネごと位しておかないと!
そういって、走ろうとするものだから、思わず、
ぐいっ。
手が出た。
今度は、佐之自身が思わずくいっと。
首ねっこを思いっきり引っ張ったわけで……
「ぐえっ」
前に、つんのめって、締まる首。
――けどな……こればかりはしかたねぇだろ。
頭にきたというより、ぶっちゃけて、言えば「呆れて」んだが……。
それでも、突然降ってきた「真田幸村ごっこ」に付き合う義理はない。
――という以前にだな……
「だって、今なら幕府を倒せるかもしれないって……!」
「「――………」」
ほら、これだ。
「おい――」
「駄目でしょ、それ」
突っ込み入れたくもなる。
「えええ……なんでですか?」
本当に分からない彼女に説明を沖田から一言。
「君、ごくつぶしで、観光せがんだだけじゃなく――倒幕派なの?」
ねえ、分かってる?
馬鹿なの?死ぬの?
今回ばかりは沖田の意見を全明的に支援して――「温厚な佐之さん」は…………ひとまず、黙ることにした。
「ごくつぶしだけじゃなくて酒も飲むよね、酒豪?酒蔵潰し?っていうの」「それはあなたの大好きな近藤さんに誘われたからでしょうが。断ったら怒る癖に」「ふうん……油断させて置いて斬るの?」「そりゃそっちの十八番でしょうが」「そういえば槍を使うんだね? そりゃあ知らなかった。手合わせでもしてみる?」「し、ま、せ、ん!!!」
「というか、まず、観光せがんだ記憶ありません!!」
等など……一泊遅れて聞こえた気がするのももう気のせい(に、しておこう)
とにかく、そのとき原田が神経に後悔したのは、この二人に巻き込まれたことと――
「今なら幕府があああ!」
「あきらめが悪いよ」と、諭されてるものの、何か間違ったやる気に満ち満ちているの(ある種)「倒幕」発言。
「土方さんが聞いたらどうなることか……」
捕まえていた、「まだまだ駆けだしそうな首ねっこ」を、沖田に託して――大きく肩を上下させた。
――取りあえず、新八早くかえってこねぇかな……
。
ぎゃあぎゃあやりあう二人の横で……立った数日しか離れていないというに、無性に相棒が懐かしく感じた原田佐之助・常識の人。
ちなみに、実際は、一日遅れで合流した新八に、事情を説明したら腹を抱えて笑われてしまい――結果、疲れがましたという話もあるとかないとか。
その分、もで後日、土方の前で同じようなことをして、本気できれられるのだが、それはまた別の話。
END
で、その別の話は次にかくよ。
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