「あのさ……ボケボケしてないでくれる?」
お茶っていってるんだけど。
と、冷たい調子でいわれて、慌てる。用意をするときに、少しでもミスをすれば、冷たい目がとんできそうだ。
「うう」と泣けるタイプならいいが、あいにくそう言う器用さと可愛さはもちあわせていないので、
「はい、ただいま」
なんとか毎度の台詞できりあげて、少しだけ足を速める。
「――今日のは悪くない」
「え?」
「いや、なんでも……」
「そう、ですか?……あ、あの?どこかで?」
お会いしましたかときくと、下手なナンパみたいだ。
それはどうよ、自分?と思わずノリ突っ込み。
――けどさー、見たことあるんだってば!
というか、こんな美人さん滅多にみませんって。
いやね、それよか、この方どこをどうみてもこないだの、ひとやない?
いわく、常連。というやつなのだろう。
おかみがいないうちに、入ってきて、さっと饅頭を食べて帰る。
甘いものが好きなのかと思えば、お侍さんと会話しながら、茶をすするだけのこともある。待ち合わせというわけでもなさそうだし、物凄く近くのひととも思えない。(ちょこっとだけ聞いた話だと、大分長い間きてないこともあるそうだ)
かといって、常連に対して、この時代どうしていたのか。
まして、おかみがどうしたいのかすらわからないから、対応の仕様もなかった。
ツケはありなのだろうか。というより、サービスをするべきなのか。むしろ毎度この人同じところにすわっていたような気も――考えがぐるぐるとして、どうしようもなくなってくる。
が、飽和するその前に、
「ふうん、用がないんならいいんだけど。・・・・…それより、あのさ、そこ座ってよ」
「え?」
「間抜けな声だしてないで」
「あ、はい」
いらっとしたのは御愛嬌。相手は常連、御常連。何かあってはまずいなら少しくらい我慢もしよう。
「……で?白と赤」
「はあ」
「だから、白いのと紅いの……」
は?
だから何なんだ? この小さいの、何いってやがる、とまではいわない。
いわないけど、客だからと言って態度が悪いのもどうだろうか。
確かにうちは、ひと癖も二癖も三癖もある方たちがたむろしてらっしゃるようだけれど、それはそれ。これはこれだ。あのおかみに対してもこうなのだとしたら、(私を拾ってくれた優しい!!)おかみに対しての侮辱だ。
さすがにどうかとおもうわ。というか、やだ。なんともやーな気持ちになる。
何かしてやろうか?ゴラァ、と若干思い出したそのとき、
ん、と手が突き出されてきた。
「早くしろ」といわんばかりの手の先には、綺麗な漆塗りの器(自慢、自分んとこのだから、自慢!)と・・・・…そのうえの・・・・・
「食べれば?」
「えっ????」
「失礼だなぁ。そんな驚くほどのことじゃないだろ。あんまりお腹がすいてないんだ」
だったら頼むなよ。
声をのみこむのは、今日の餅がいつもよりも一段とおいしそうだから。
餌付けられてどうする!そうおもいながらも、心は既に揺れる。
「じゃあ・・・・」
いいのなら、赤い方を。
言おうとした相手はといえば、手をつきだしてくれている。
あーん?か。あーんをやれというのか私に。
いや、アーン?(アクセント↑むき)
ちがう、ちがうやろ、てか何混乱しとんの、私。あほかーーーー。
叫びつっこみをこころの奥でしていても、彼の手は変わらない。
どうすべきか。息をのんで、考える一瞬。
がしかし、どうにも魅惑的な白にはかてなかった。
(狙ってた赤いのですらないのに)
ぱくり。
口にした瞬間
「ほら食べた」といわんばかりに、相手の目が輝いて(若干あわれみの光を放ってた気もしないでもないが)
「おいし・・・・」
めちゃめちゃおいしい!我ながら(わがみせながら)たまらんスマッシュだ。とネタをひきずりつつ、たべきると、今度はお茶を――ゆのみごと差し出してきた。もう迷いはない。
ごくん、と飲みこみ、ほっと一息。
ああ極楽だ。本当に幸せだ。
ほころぶ顔をみて、相手はすこしだけ薄くわらったようだった。
「自分のところの味くらい覚えておきなよ」
たまには、食わせてやってもいいが、いつもこられるとはかぎんないからね。
きたら、あげてやってもいい。そんな調子よくすら聞こえかねない言葉で、彼は言った。
「ごちそうさま。また来るよ」
「あ、えっとはい。お代・・・・・」
「そこ、置いたから」
「あっありがとうございました。また・・・・」
「そ。また、な?」
「はい・・・・・・ん?」
えええええええええええええええ????
なぜ、名前を知ってるし。
謎は深まるばかり。ただ取りあえずこの日を境に、彼=自分のおやつの時間が叩きこまれたことだけは間違いなかった。
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