◇ 素直すぎると動揺す◇

「っ」

首筋に、つうと冷たいものがあたっている。
傷みは感じていないが、にはそれが何かわかった。

「何するんですか」

血を吸うならそれはそれでかまわなかったが、違うだろうなと思う。

「たまたまた近くにあっただけですよ」

貴女の首が。

「からかわれてもあげられるものなんて」

「ないですか?――それこそ、この首筋かみきっても―」

「いい? ならそうすればいいじゃないですか」

馬鹿馬鹿、この馬鹿。鬼馬鹿ふざけるな。
そうしてくれといったのに、「したくない」「まずそう」といって、酒で誤魔化したのはどこのどいつだ。

禁欲の末に仕方なくとか、それくらいの存在だってこと分かってるけれど。

――我慢できない弱さのが見たくないんだってば。

何で分からないかな。
いや、分かっていてもどうしようもなくなっているというのなら、それはそれで問題だ。
たしかめなければならない。気持ち何かよりもずっとそっちの方が大切で……

――そっちさえ、間違えなければ別にどうでもいい。

生きてれば。実際、この状態を彼がいきていると認識できているか怪しい。
けれど、にとっては、正気がたもたれていれば(いや正気じゃなくたって)生きている、のだ。

「……」

泣きそうになったのをみられるのもしゃくで。
後ろからまわった腕におもいきりしがみついた。見られたくない――今は。

――これ以上、自信過剰になられてたまるもんか。

そういう気持ちもあるから。きゅっと、その腕にしがみつけば……


「っ……」


なぜか、相手が凍った。

「?」

一瞬、緊張感がとけて、ふりむ――こうとしたら、何故か後頭部をくいっと押され、再び前をむかされる。

「な、」

何するんですか?
言うよりも前に、

「慎みを…もちなさいと、」

いったでしょう。


「あ……」

ぎゅっと腕をかかえこむということはすなわちそれは……

「馬鹿馬鹿しくなってきました。色気以前に意識のない貴女相手じゃ、食事にもなりませんよ」

言われる意味は明白で――おしつけられていた胸元から、するりと相手は腕をぬいて、しきりに視線をそらしているが……
それがどうやら動揺しているらしいことも、また何となくかぎとれるものだから どうしようか。

「えーと……」

「おふざけはここまでです。今日は寒い。これでもかけてなさい」

羽織らされた上着は、低温すぎてぬくもりがないのだけれど。

――山南さんの匂い……

なんか変な気持ちになってくるから、寝てしまおう。
はさっさと自分の部屋にもどっていった。

END


リハビリ?
 大分後の話
先にかいてしまいました。羅刹化後です。